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贖罪への階段 第16話

今回は特にありません。

 指揮車両のディスプレイには屋上に佇む森川を映しだしていた。

外から戻った安雲が情報部に張り込ませている偽物の撤収を指示する。


 情報部が今まで監視していたのは森川本人ではなく安雲が用意した

異能者であった。異能者による森川襲撃の後、偽物を用意しそれを情報部に

あてがった訳である。


 田中少佐襲撃の際も森川本人が動くと合わせ偽物をロストさせていた。

今頃、情報部は蜂の巣を突いた騒ぎになっているはずだと安雲は思った。

桐原や女魔術士もここに到着する頃にはひと騒ぎあった後だ。


「ここは任せる。タイミングはこちらから連絡する」

安雲はナクスールホテルへ向かう。




 ナクスールホテルは、白を基調とした外壁で包まれていた。

半月を象ったその外見は優雅で気品に溢れている。

人の出入りは学会が開始されている為か少なく、警備も正面ドアにしかいなかった。


森川はドアマンに近づき声を掛けた。


「まだ部屋は開いていますか?」


「申し訳ありません。本日は脳外科学会の為、満室でございます」

ドアマンは至極丁寧に満室の旨を伝える。


「いや、構いませんよ。でわ中で食事だけでもできますかね?」

森川は笑顔をドアマンと会話を続ける。


「ええ問題ありません。食事でしたら27階にレストランがございます」

ドアマンはその他、和食、洋食などのレストランもあると付け加えた。


 森川はドアマンに礼を言い、自動ドアからロビーへ入る。

警備の人間達も不審人物にしか的を絞っていないようだった。

今の森川は上流階級の気品を醸し出してた。


ロビーは広く吹き抜けになっている。煌びやかなシャンデリアが客を出迎える。


 ロビー内にも警備はいたが、正面と同じSPである。

有名ホテルに完全武装の兵士を置く訳にもいかなかったのだろう。


 森川は受付で再度レストランの階数を聞き、エレベーターへ向かう。

エレベータが到着の音を告げた時、正面ドアの外から発砲音が聞こえた。

中に入り開閉ボタンを押す。ドアが閉まる時、ロビーを悲鳴と銃声が支配した。




 安雲はナスクールホテルの中にいた。

3階にあるロビーを見渡せるカフェである。コーヒーを口に運びながらたった今

ロビーを抜けていく森川を見つめていた。

受付で何かを話しエレベータへ向かう森川から視線を外し、携帯無線を取りだした。


 こもった銃声が外界とホテルを区切る自動ドアから聞こえる。

程なくして、ガラスの割れる音と悲鳴がロビーに響いた。

安雲は、割れたガラスを踏み越えゆっくりと侵入してくる異形種を確認し無線で指示をだす。

ロビーは悲鳴と銃声に包まれていた。カフェにいた宿泊客や従業員も慌てて店を出る。


「安雲だ。異形種を確認した……状況を開始せよ」

指示を出し、慌てふためく周りをよそにゆっくりとエレベータではなく、階段へ向かう。


ロビーは既に死体と獲物を探す異形種だけになっていた。




 安雲の指示を受けた指揮車からは、各部隊へ秘匿回線で指示が復唱される。

ベイグランドホテル周辺に止めてあった大型トラックの荷台が自動で開いていった。


その暗闇からは小型の異形種が街へと放たれいく。


 ベイグランドホテル周辺で警備にあたっていた兵士は突如現れた異形に裂かれ

噛み殺されていく。警備を担当していたのはSPではなく武装した兵士であった。

被害を出しながらもホテル正面入り口を素早く固める。


その状況を確認し、指揮車両から新たな指示が飛ぶ。


「第二段階へ移行。対象を排除せよ」

安雲に後を任された副官が無線を掴み指示をだす。


 ベイグランドホテル地下駐車場に止めてある複数の車両から完全武装の兵士が

流れる水のようにホテル内へと駈けこんでいく。


 安雲直属の異能者混成部隊であった。

ホテル正面で戦う兵士とは違う装備をしている。軍正式採用の装備ではなく

世界各国から選りすぐった装備であった。最新式自動小銃や携行重火器それに

大型対物ライフルをも装備していた。


 ホテル地下入り口を警備していた兵士達は一瞬、我を失っていた。

素早く駆け寄ってくる完全武装の一団。武器を構える前に地下エレベーター前は

血だまりに変わっていた。


一団は死体を踏み越え地下からホテル内へとなだれ込む。




 ミランダは桐原の連絡を受けた時、ナスクールホテル近くにあるホテルの一室にいた。

身支度をして術具の点検をしていた。


窓を振動させる爆発音が響く。


 立ちあがり窓へと駆け寄る。外には立ちあがる黒煙と微かに聞こえる銃声が響く。

コートをハンガーから掴み取り部屋を飛び出した。


あの煙の立ちあがる場所に森川がいる。


 そう思うとミランダは複雑な気持ちになる。

愛した男があの場所にいる。同時に自分を捨てた男なのだ。

信頼を踏みにじり、尊敬する師をも殺した男。


エレベーターが来る時間がもどかしい。


 エレベーターを降り、ホテルを出る。

外に出ると銃声はより明確に聞こえ、ときより悲鳴も聞こえた。


「……あの人を止めなければ……」

ミランダは煙の上がるナスクールホテル方面を見つめて呟いた。


 ナスクールホテルへ走る。ホテル方面から避難してくる一般人と

逆方向へただ走る。コートをなびかせブロンドの髪は乱れた。


人波をかき分け前に進む。倒れ後続に踏みつけられる女性や老人が助けを求めていた。

その声は誰にも届かず悲鳴と怒号にかき消されていく。


 ミランダがナスクールホテル付近に付いた時には周辺に生きた人間はいなかった。

人間の遺体とそれを貪る異形の姿だけである。

何かが焦げる臭気が蔓延し、胸がむかついてくる。


 死体を貪るのを止め、生きた獲物を察知した異形はミランダへと攻撃姿勢をとる

大型肉食獣が狩りをするようだった。

姿勢を低くし飛びかかる準備をしている。数は15体以上はいるだろう。


一人では突破するのは困難だとミランダの脳が警報をならす。


 術式を展開し詠唱を開始する。

雄たけびを上げる左側の異形へ術式を発動させた。


ミランダのかざした手先から氷の塊がアスファルトへと突き刺さる。


氷が急激に生成される音は大木の倒れる音に似ていた。


異形に向かいアスファルトを裂きながら氷の波が押し寄せる。


轟音と共に車ごと氷柱が突き刺さった。



 断末魔の叫びをあげ異形は息絶えた。

仲間の死を笑うかのように別の異形が雄たけびを上げる。

一斉に襲ってくる様子はなく狩りを楽しでいるようだった。


一匹づつミランダの周りを囲むように移動する。



「趣味が悪いのは姿だけじゃないわね……」

ミランダは悪態をついて次の術式を開始する。


 自分の置かれている状況が著しく悪いことは把握していた。あと何匹かは殺せるだろう。

だが、遊ぶのを止めた異形が一斉に攻撃してきたらミランダに助かる術は無い。


コートから金属製の細い杭を取り出す。

30センチ程の杭にはびっしりと古代ルーンが彫り込まれていた。


左右一本づつ持ち構える。


なんとしてもこの場を突破し森川武に合わなければならないと言い聞かせた。






術具を異形に投げつけようとした時、後方から車の唸るような排気音が聞こえた。



 ミランダは瞬時に横に飛ぶ。

背後から一台の車がミランダを囲もうとしていた異形へ突っ込む。


肉にぶつかる音と金属のひしゃげる音が轟く。


 囲みを整えようとしていた異形達は咄嗟に散り、距離をとる。

車とホテル正面の支柱に挟まれた異形は苦しみの叫びを上げていた。


その異形が一段と音量を上げた時、異形の頭部は砕けた。


「うるさいんだ……特に小さい異形はね……」

半壊した車から頭部を抑えながら男が降りる。


「桐原……」

ミランダの諦めかけていた心に希望が戻る。


「さぁ……森川と決着をつけようか。ミランダ・ケストル」


 


 桐原はコートを襟を直しミランダの元へと進む。

異形は各々雄たけびを上げ、獲物が増えたことを喜んでいた。















































 







ここまで読んで下さってありがとうございます。


そろそろ終わりが見えてきました。

残りもあと僅かよろしくお願いします。

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