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贖罪への階段 第10話

グロテスクな表現がある場合があります。

苦手な方はご注意ください。

 郊外と街を繋ぐ高速道路を黒塗りの乗用車が走っていた。


 車中には少佐の階級を付けた人物と助手席には名前はなくただの番号で

呼ばれる異能者の警護が一名、ドライバーが一名の計3名が乗車している。


「田中少佐、お加減でも悪いのですか?」


ドライバーの下士官がバックミラー越しに問いかける。


「いや……ちょっと疲れていてな。気にしないでくれ……」


田中少佐は、ミラーを使い助手席の様子を見る。


 助手席の男はまったくの無表情でただ前だけを見つめていた。

田中はこの番号だけの存在が気に入らなかった。

自分の警護の為に付けられた異能者ではあったが、何を考えているのか

まったくわからない点が田中の神経を疲労させていた。


 情報部で森川への24時間体制での監視が行われているのだが、

安雲准将からの命令で処理は行われていない。

田中には何故、森川を泳がせているのか皆目見当がつかなかった。


 上官の命令である。目的は不明でも田中は従うしかなかった。


 トンネルの前に差しかかった時、今まで流れていた車が詰まり始めていた。


「この時間に混むのは珍しいですね」


ドライバーがゆっくりブレーキを踏みながら呟いた。


 田中を載せた車はトンネルへとゆっくり入っていく。

トンネルの中はすでに渋滞が発生しており、歩いたているのと変わらない速度で

進んでいった。いずれ停車するのは明らかだった。


 田中はオレンジ色の照明を眺めながらドライバーに言葉を掛ける。


「気にするな。別に時間はある……」


そういって前方を見た。


 田中はとドライバーは停車している車の列を何かが逆走してくるのを目にした。

それは人であり、皆何かかあら逃れようと懸命に走ってくる。

ある者は後続車に戻れとジェスチャーとし、また別の者は子供を抱えて詰まり始めて

いる車の列を縫うように走っていく。


「火災でも…………起き…」

 

 田中が前方を確認しようとしたとき何かから逃れようとしているの一人が

車の窓を叩いた。


「逃げろ!! 異形だ! あんた等も早く!」


ドアを叩いた一般人はそれだけを言うと別の車へ退避を勧めに走って行った。


 3名は車を降りる。

田中はドライバーに後続の一般人の避難を命じた。

トンネル内は風の流れる音と人々の走る音、そして悲鳴が響き渡っていた。


 警護に前方への注意を命令し、田中は車のトランクを開ける。

そこには正式採用の自動小銃と弾薬や銃火器一式が積まれていた。

田中はそれを素早く装填し、防弾チョッキを着る。


 田中は生粋の軍人である。国を異形種という驚異から守る為に尽力してきた。

だがその一方、異能者を増やす為の実験で守るべき国民を犠牲にしている。

その相反する行動理念を自覚していた。


 だからこそ田中はそこから退避する事はできなかった。

なんの能力を持たなくとも一般人を守らなければならない。

そう決心し、トランクを閉める。


 前方を見つめる警護の異能者。

名前はなく、ただ番号で475と呼ばれる男は田中の命令を忠実に実行していた。


「良し……今から前方から来る異形種を食い止める。いいな? 決して引くな」


田中は斜めに止まった車を盾にし、自動小銃の標準を覗きこむ。



 475は田中よりやや前方で無人となった一般車両の屋根へと昇り前方を警戒する。

前方からは既に無人だろう。田中は小銃の安全装置を外す。


「あまりうろちょろするなよ……俺の前にでないでくれ」


475に注意をしておく。


 車のエンジン音と風の流れる音だけが響くトンネルに身の毛もよだつ雄たけびが響く。

それは異形種の奏でる狩りの声であり、その声は大きくそして数を増やしながら

田中達がいる場所へと近づいてきていた。



 トンネル内に止まっている車の屋根を素早い移動で異形種がやってくる。

それは単独ではなく飢えた野獣そのものであった。

狼のような顔つきに長く伸びた手、足は異様なほど発達していた。


 額から汗が滴る。異形種は多種多様に存在している。

田中自身も過去、捕えた異形種を見てきたが今目の前に迫って来ている生物は

見たことは無かった。


「発砲を合図とする。その後は自由に迎撃しろ! こちらを気にする必要はない」


田中はそう命令し、腰を上げて構える。


 異形の数は5体、現用武器の効果が薄いのは知っているが足止めにでもなればと

射撃を始める。


 3点バーストで先頭の異形種を狙う。


小刻みな発射音と薄暗いトンネルを照らす火花が散る。


 先頭の頭部に命中し、異形種はのけ反り転倒した。

絶え間なく引き金を引く。右へ左へ跳躍する異形めがけ鋼鉄で弾頭補強された銃弾が飛んだ。

外れた弾丸がトンネルの内壁で火花を散らす。


 475は田中の射撃と同時に異形へと走り出していた。

やり投げのモーションで何かを投げつける。

20メートルまで迫っていた1体の異形に穴があく。

その穴は一つではなく何本もの見えない槍に貫かれたようだった。


 貫かれた異形は血液と雄たけびをまき散らしながら停車していた車へ激突した。

すかすさず、田中の射撃で倒れた異形へ見えない槍をぶつける。

銃弾の命中の衝撃から立ちあがりかけていた異形を車ごと貫いた。


 田中は改めて異能者の能力に驚いていた。

慌てて空になったマガジンを捨て再装填する。

今度は射撃モードをフルオートに変え、接近しつつある異形へ向け発射する。


トンネル内壁の天井に飛びついた1体が悲鳴をあげて落下する。


 落下した一体へ対してありったけの銃弾を叩きこんだ。

路面のアスファルトが砕け、飛び散る。

だが異形は絶命はしない。命中個所からは血液が微量にでている。


 素早く立ち直り、覆いかぶさるように田中へと跳躍をする。

自動小銃を捨て、拳銃を連射した。異形の腹部へ命中するも時折火花を散らすだけだった。


異様な大きさの爪が田中の顔面を削りとろうとした。


 田中が絶命を確信した時、その異形は見えない槍で貫かれ横に飛ばされる。

尻もちをついた状況から立ちあがり横をみると475が駆け寄ってきていた。

田中へ手を差し出し立たせる。


残りの異形は二人と距離を取り、雄たけびを上げながら動き回っている。


 自動小銃を拾い、再装填し構えたまま後退を始める。


「475……下がるぞ! 前方への注意怠るな!」


田中は命令し銃を構えたまま後退を始める。


 475はいつでも投擲できるような構えのまま後に続く。

異形は先程とは違う叫び声をあげ、二人と相対距離を崩さずついて来ていた。


 トンネルの入り口へと近づいた時、振り返った田中の目に人影が飛び込んでくる。

入り口から差し込む逆光の為、影しかわからないが微動だにしていない。

田中は、異形へ威嚇射撃をしながら叫んだ。


「何をしている! 早く退避しろ!」


前方へ銃撃をしながら警告を発した。


 だがその影は事もあろうに退避するのではなく田中達の方へと進んでくる。

銃弾を使い果たし、自動小銃を捨てる。

田中は拳銃をホルスターから取り出しながら振り返った。


「……お前は……森川……」


田中は愕然とした。


 そこにいたのは田中の命を狙う森川武の姿であったからだ。

素早く森川へ向け拳銃を向ける。

森川がいかに優秀でも所詮人間である。拳銃の銃弾が当たれば死ぬ。


 田中が拳銃の引き金を引くより早く森川の口が何かを呟いた。

トンネルに銃声が響く、田中は森川に命中したと確信していた。


だが銃弾は森川に命中せず、代わりに何かが落下した音がした。


 それは田中の右腕そのものだった。

右腕を瞬時に切断された田中はバランスを崩し倒れ込んだ。

感覚はなく、ただ何かが流れ出る感触だけを残していた。


異変に気が付いた475が駆け寄る。森川に向け見えない槍を投げつける。


 森川は慌てる様子もなく片足をあげ地面をその足で踏みしめる。

その瞬間、地面から醜い巨大な異形が姿を現す。

見えない槍はその異形に刺さり鮮血をほとばしらせる。


 異形は大きな叫びをあげ前のめりに倒れた。

その後ろには無傷の森川が立っていた。


 田中は確信した。この異形達を呼び出し、使役していたのは森川武だと

徐々に痛みが戻ってくる。

出血の為、遠のく意識を必死に繋ぎとめていた。


 森川の後ろにはすでに別の異形が何体か現れていた。

うずくまる田中の前に475がかばうように立つ。

田中達の後方らは先程の異形達の叫び声も近づいてくる。


「……47……5……撤退しろ……」


田中は異能者へ退避を命令する。


 しかし475は微動だにしなかった。田中は戻ってきた痛みに顔を歪める。


「そこの異能者……退けさもなくば殺す」


森川はゆっくり歩きながら475へ最終勧告を告げる。


 475は田中の前から移動しようとはしなかった。ゆっくり投擲をする構え

をする。


「田中少佐……貴方にお聞きしたい事がある」


475が攻撃モーションに入っている事を気にせず森川が言葉を続ける。


「貴方はご自分の犯してきた罪を認識なさっていますか?」

「人々を実験の材料とし、無数の命をその手で終わらしてきた事を……」


森川は475の無表情な顔を一瞥し悲しい表情をする。


「見てごらんなさい……実験の結果、異能者を作り出してももはや人ではない……」

「人しての感情や心を失ってただの兵器としてしか生きる道がないこの者を」


大きくため息をつき、森川は歩みを止めた。


「……罪? 我々がやらねば誰が守れるというのだ……この国を……」


痛みと出血に耐えながら田中は顔を上げる。


「必要なのだよ! 時間も手段も我々に選ぶ余地はない!」


痛みのはけ口としてどなり声を上げる。


「……お前なんぞ……何も手助けをしない神とやらを信仰していただろう……」


田中は吐き捨てるように過去正教会にいた森川へ怒りをぶつける。


 森川は自分の周りにいる異形達を見まわして田中を見据える。


「それは過去だ……少佐……己が犯した罪は贖罪しなければならない……」

「あの日、研究所でなにが起きたか聞かせてもらおうか……」


 森川はそういうと再び歩き出そうとした。

その瞬間、田中の前で攻撃モーションだった475は投擲姿勢を解除し田中へと

振り返る。そしてゆっくりと右手を上げた。


「475……?」


それが田中の最後の言葉だった。


 森川は素早く詠唱を開始し、475へと雷撃の術式を放つ。

だが475が振り下ろす異能の見えざる槍が田中の頭部を貫いた。


轟音を上げて青白い光が475に吸い込まれた。


 475は体中の穴から煙を吹き出しだし絶命する。

自ら手を下した田中へ覆いかぶさるように倒れていった。


 森川は自分の詰めの甘さを痛感していた。

田中少佐からしるべき真相を聞き出す前に殺されてしまったからだ。

あの異能者は自発型の能力者ではないはずだった。

表情をみればわかる。命令を実行するだけの兵器である。


 それが警護対象を自ら殺害するとは考えられなかった。

予め対象の殺害は命令の中に含まれていたのだろう。

田中少佐への保険は実行されたのである。


 


 森川は二人の死体に背を向けトンネルを後にする。

異形達もその後に続いた。この世のものとは思えぬ叫びをあげながら……







 




 




 



ここまで読んで下さってありがとうございます。


更新ペースが遅れ申し訳ありません。

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