贖罪への階段 第9話
遅くなりました。すいません
滑走路から大型の旅客機がひっきりなしに飛び立っていく。
到着ロビーは友人、恋人、家族待つ人々で混雑をしていた。
再会の挨拶や抱擁が空間を埋め尽くしていた。
その空間を一人の女性が進んでいく。
女性は長いブロンドの髪をなびかせ、空港出口へ向かう。
通り過ぎるその女性の美しさにすれ違う男性は目を奪われた。
年の頃は、30歳を過ぎているだろう。
しかし女性の美しさは衰えることは無くむしろ女として成熟した
色気を醸し出していた。
空港出口からタクシーを拾い、街へと向かう。
運転手に行き先を指示し目を閉じる。
ドライバーは女性の美しさと流暢な日本後に一瞬戸惑った。
慌てて前を向き車を発進させる。
女の名前はミレンダ・ケストル。本部直属の魔術士である。
森川の処理の為、送られるはずだった部隊の一人だ。
ただ出発直前に中止の命令をうけ、本来であれば本部に戻るはずであった。
しかし女は独断でしかも一人でこの国へ来たのである。
ミレンダにはどうしても確認しなければならない事があった。
それは彼女本人の疑問であり、恨みでもある。
ミレンダと森川は同門であった。森川が入門したときミレンダは18歳
しかしミレンダのほうが兄弟子にあたる。魔術士として幼い頃から教育され
ていた彼女と30歳をすぎ入門してきた森川では格が違っていた。
入門後、森川は努力を惜しまず、そして誰よりも学んだ。
年下であるミレンダにも教えを乞いに何度も足を運んでいた。
そんな森川が他の家系だけでぬくぬく育った兄弟子達を追い抜くのを
さほど時間が掛らなかった。
ミレンダはそんな温室育ちの同輩より、必死に学び着実に進歩していく
森川に好意を持っていた。二人で術式を学び応用して腕を競った。
そんな森川に女性として恋心を抱きそれに森川も答えていた。
二人は恋人として、そしてライバルであった。
ある日、二人は本部から離れた高級ホテルで食事をしていた。
普段は安いレストランなのだがこの日だけは森川の意向でドレスアップをし
夜を共に過ごした。ミランダは正直な気持ち魔術士を捨て森川と家庭をもち
たいとも当時思っていたのである。
朝、目を覚ますとそこには森川の姿はなく、テーブルに別れの言葉のメモ
だけであった。ミランダは混乱と失意の中、本部宿舎へと戻った。
そこで耳にしたのは信じられない内容であった。
本部を破壊し禁忌を奪われたという事とその犯人の名前が森川だった。
当時のミランダは混乱した。森川が師を殺し仲間の魔術士を23人も
殺害、禁忌に侵入し本部を破壊して逃亡したのである。
当然、恋人関係であったミランダにも厳しい取り調べが行われた。
だがミランダが話した内容はごく自然な内容であり裏もとれていた。
程なくミランダは解放され日常に戻った。だが愛する者に裏切られ
捨てられた彼女のプライドはズタズタであった。
そしてミランダは本部での生活を捨て異端者を追う部隊へと志願する。
その後森川の消息はまったく掴めなかった。ミランダは異端者狩りを
機械の様にこなしながら森川の足取りを追っていた。
そしてやっと日本のこの街にいると本部への連絡があったのだ。
森川を処理する為、部隊が組まれミランダもその一人であった。
だが突然の中止、ミランダには本部の命令を無視しても森川にあう
理由があったのである。
ミランダは車窓から流れる景色だけを見ながら考えた。
それは長年、繰り返し考えてきた疑問である。
どうして自分を連れていかなかったのか。
どんな道でもミランダは森川と一緒に歩きたかったのである。
たとえそれが茨の道でもミランダは一緒に歩みたかった。
空港からの高速道路降り、街の中心部へと向かう。
タクシーは街でもひと際大きい高層ホテルの玄関でとまった。
ミランダは料金をはらいホテルへと入っていく。
森川はその頃、あるビルの屋上にいた。
ビルは街の中心にほど近かったが老朽化の為、入っているテナントは少なかった。
12階建ての屋上。フェンスはなく屋上の淵が一段高くなっているだけだ。
森川はその淵に腰を下ろす。書類を取り出し今後の予定をたてる。
自分は泳がされている。
そう森川は確信していた。異能者の襲撃、情報をすんなりと手に入れられ
た事。軍部が何故、森川を自由に行動させているのか理由はわからなかった。
だが、森川はそこにこそ付け込む隙があるのではないかと思案を巡らせる。
まずは警備が薄くなる時間を探し出す、そしてある項目に注目する。
習志野駐屯地からこの街の郊外にある研究所に向かうタイミングに目を付ける。
情報には移動する車の登録番号、車種、ナンバーと警護の内容まで記載してあった。
警護の欄には「452」というナンバリングしが記載されている。
森川はその数字が異能者の登録番号である事を理解していた。
この前の異能者との戦闘を思い出す。
異能者は脅威だ。だが森川は警護が薄くなるそのタイミングでの決行を決めた。
警護を排除するのには時間をかけれない。速やかに対象を殺害し、その場から去らねばならない。
だが、森川は自分自身の能力の限界を把握していた。
今の能力では限界が見えているのである。刺し違えでは許されない。
森川の頭に禁忌の書物の存在が浮かぶ。
それは魔術士協会から盗み出し、未だ使用していない禁忌である。
「使う時がきたんだな……」
森川は空を仰ぎながら呟く。
森川はその禁忌を使用する準備の為にビルを後にする。
人間として災厄をまき散らすだけの存在になるのを覚悟して…………
ここまで読んで下さってありがとうございます。
更新が遅れ申し訳ありません。