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こんなのってありかよ

作者: 平沼小国

 度胸のある人。それが彼女の好みの男子のタイプ。

僕が知ってるのはそれだけ。それも小耳に挟んだ程度。

その程度だが、その情報は僕にとって大きかった。


 その事を聞いたのは、三日前のサークルの忘年会のときだった。

大した活動もしていない趣味程度のサークルだが、恒例ということで、

大学近くの居酒屋で忘年会を開いたのである。


 そのとき、彼女、桜川由美は、僕の右斜め前に座っていた。

好みのタイプを聞いたのは、桜川さんが隣の男子と楽しそうに話していたときだった。

隣の男子、清水聖司は、サークル随一のイケメンで、成績優秀、おまけに性格も良いという、

フィクションのキャラのような出来た人だった。

当然、女子にもモテるわけで、そんな聖司と彼女が話しているのを見るのは、

僕としてはハラハラ物だった。


・・・ハラハラ物?そう、僕は桜川さんのことが好きなのである。

身も蓋もない言い方だが、事実なのだから仕方ない。

イケメンと片思いの相手が話していたら、それは誰だってハラハラするだろう。

つまり嫉妬である。むしろその嫉妬が気持ち良いというヤツも居るかもしれないが、

それはまた別の話である。ただ、嫉妬とは言ったが、

僕が桜川さんのことを好きだということは誰も知らないので自分で勝手にやきもきしているだけなのである。

 

 もちろん自分が何も言えないまま彼女が誰かと付き合うのは悔しい、

しかしなにか言い出す気にもなれない。

要は臆病風に吹かれているわけだ。

誰か一人くらい、友人に相談して何かアドバイスを貰ってもいいんじゃないか、

とも思うがそれすらためらわれるほど、僕は臆病なのだ。

友人だとしても、そいつに何を言われたものかわからないからだ。


 さらに、臆病という以外にも、一番の友人である今里裕也が恋愛に興味なさそうなヤツ、

というのもあるかもしれない。裕太はいわゆるオタクで、

本人曰く「オールジャンルオタク」らしいが、僕にはよく分からない。

本人がはっきり言ったわけじゃないが、恋愛に興味ある素振りを見せたことはない。

一番良く話す相手がそうだから、自分もあまりそういう話をする雰囲気にもなれない。


 もちろん他の友人に話してもいいが、ヘタレな自分にはそれはやはり無茶な話である。

実は、清水聖司とも親しく話すが、自分とはかけ離れた存在に思えて、

恋愛相談など持ちかけられない。そんなわけで、彼女への思いは、隠されたままだった。


 そこまでの臆病人だから、聖司と桜川さんの話に参加しよう、というわけにもなかなか行かず、

注文したレモンサワーを飲みながら間を持たせていた。

そんなとき、聞こえてきたのが「彼女の好み」についての話題だった。


「桜川さんって、どんな男子が好みなの?」と聖司。


「んー、なんだろ。なんて言えばいいのかな。度胸のある人かな。」彼女が答える。


「危険なときに守ってくれるとか?」


「それももちろんそうだけど、なんというか、邪魔者に負けない人というか。」


「邪魔者?」


「うん。」


彼女は微笑んで答えた。


僕はこの話を近くで聞いていただけだが、気のせいか、

彼女の笑みは僕に向けられたようにも思えた。気にし過ぎだろう。

そう見えただけだ。そう思った。


 それよりも、その時聞いた話のことについて、僕は三日後になった今も考えを巡らせている。

度胸。どきょう。ドキョウ?度胸を辞書で引けば、「物怖じしないこと、恐れないこと」

のように載っている。

 

そう、臆病と真反対の意味である。つまり度胸のある人は、

僕と正反対の性格の人のことである。だから、桜川さんと付き合えるなんてありえない。

そう結論づけた。

あきらめるしかないのだ。

たとえ僕が思いを打ち明けたとしても、どうにもならない。

そう思うしかなかった。


 今日はクリスマスイブ。忘年会が15日だったので、

その日から9日後である。桜川さんの話の意味を3日経っても考えていたわけだが、

9日経った今日も考えている。我ながら気持ち悪い。

 

 街はイルミネーションで飾られ、どのお店もクリスマスに合わせた装いになっている。

僕の家から徒歩ですぐの駅前商店街は一般にいうおしゃれな街で、ドラマの撮影に使われることもある。


 電車を使って出かけるときは必ずここを通ることになるので、

こういう日は自分が惨めになる。彼女もいないし、

今日も特にパーティのような華やかなイベントはなく結局飲食店のバイトだ。


 そういえば、まず大前提として、今、桜川さんに恋人はいるのだろうか?

忘年会ではそういった素振りは見せなかったが、むやみにそういう話をしないだけかもしれない。

そんなことを考えながら、駅のホームに入った。

電車がやってきて、止まる。

人が降りてくる。その時だった。

降りてくる人の中に、桜川さんがいた。隣に男子を引き連れて。

そしてその男子は、よく見知った顔。今里裕也だった。


 その日のバイトは身が入らなかった。裕太が。

まさか。裕太に桜川さんのことを話したことはないし、

気づいていたとも思えないから裕太にはなんの意図もないと思う。

だけど、なんというか、裏切られた気分だった。もちろんそんなはずはない。

しかし何か理由をつけないと抑えられなかった。

桜川さんのことで悩んでいた気持ちが晴れるかと思いきやさらに悩みが深くなってしまった。

どうして。裕太が。

いや、友人に抱いていい気持ちではないかもしれないが、

「どうして裕太なんかが桜川さんとクリスマスイブに一緒にいるんだ」

という考えが心の中に浮かんでいた。


 バイト中、上の空になっていたらしく同僚に何度も「大丈夫か?」と言われた。

しかしその言葉に対する返事も気の入っていないものになってしまっていた。

今は冬休み。連絡はスマホですぐできるとはいえ、とても裕太に桜川さんのことを聞く気にはなれない。気が向くまで聞くことはできないだろう。そもそも、そんな気になれるかわからなかった。




 結局新学期になってしまった。冬休み中はずっと裕太と桜川さんのことで悩んでいた。

結局誰にも話せなかった。裕太とは学科が違うのでゆっくり話せるのは講義が終わってからだ。

退屈な授業が終わったら、裕太と直接話そう。

そういうことを考えているときは、時間の流れが遅く感じる。

これまでの講義の中で一番長く感じた。


 講義が終わった。サークルの部室へと向かう。

そこには裕太と、桜川さんがいた。その状況にあっけにとられてしまった。

しかし動揺を見せてはいけないと思い、僕はできるだけ平常心を保って声をかけた。


「おお!久しぶり。」


「久しぶりー、ヨシカズ。」裕太が返す。


「久しぶりだねー」桜川さんも。


至って普通に見える。あの時の二人は見間違いだったのか・・・?


「なんか仲良さそうじゃないか」

核心には迫れないが、僕は二人にそれとなく言ってみた。

が、実はそれが地雷だった。


「あ、バレた?実はオレたち付き合うことになったんだ。」

裕太が言った。


 繰り返すが、僕は臆病である。桜川さんのことを好きだった、

なんて言えない。言ったらどうなるか。わからない。

臆病だ。臆病だ。度胸なんてない。

どうしようもない気持ちをいっぱいに抑えて、僕はこういった。


「へーそうなんだ!よかったじゃん!」

これが、精一杯だった。


その後、僕は部室を出て、呆然としていた。

ドアのすぐそばで、これからのことを考えていた。

どんな顔で二人に会えばいいのか。


ああ、辛い。


僕が臆病だからこんなことに?


ああ。 辛い。


恋愛ってのは、こうも辛いのか? 


いや、僕の臆病さが招いた結末というだけか?


いや、先に思いを伝えたのが裕太だったんだ。


仕方ない。仕方ない。


そうだよな。 


 必死で自分をなだめた。

そうしていると、遠くから聖司が来るのが見えた。

こんなところを見られては恥ずかしいので、ひとまずその場から立ち去ることにした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


俺が部屋に入ると、このサークルに新しく出来たカップルがいた。


「清水、久しぶりー」今里が言う。

「久しぶりー」桜川も続く。


 まさかのカップルだ、と思った。

今里からメールでその話を聞いた時はびっくりした。

だがこうやって見ると案外お似合いかもしれないな。


 数分後、今里が予定があるとのことで部室から出て行った。

桜川と二人になったのでちょっと気になってたことを尋ねた。


「桜川さー、前ヨシカズのことが気になるって言ってなかった?」

「あー、実はね・・・」


俺は桜川からとんでもない話を聞いてしまった。

もともと、桜川からはなんとなく怖い雰囲気を感じていたが、

それは雰囲気だけではなかったのだ。

 

桜川から聴いた話はこうだった。 

クリスマス前に今里から告白されて、その時付き合う条件を言った。

その条件が、

「クリスマスが近くなったらヨシカズの最寄り駅に立ち寄って、

自分たち二人がいることがヨシカズにバレなかったら付き合ってあげる。」

だった。


そんなことができる「度胸」を試したんだとか。


忘年会での話の通り、嘘偽りなく、「度胸がある人」が好きだったのだ。


そして、ヨシカズがそれをみても桜川に告白してくる「度胸」があれば、

ヨシカズと付き合ってたかもしれない、らしい。


人の気持ちを弄んでるようにも見えるが、本人がいいなら、いいか。いや、いいのか?


しかし、こんなのって、ありかよ。

昔書いたものを改稿したものです。

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