パーティを追放されたら、なぜかメンバーの一人とリーダーが付いてきた
息抜き作品になります。追放ものはむずかしいですな。
俺は幼いころから冒険者にあこがれていた。
数々のダンジョンを攻略し、仲間たちと笑い合えるような日々を目指して頑張って来たつもりだ。
そして、多くのメンバーが所属するパーティのサブリーダーになった。
――だが、その仲間たちが俺に向ける視線は冷たかった。
「貴方はサブリーダーに相応しくない、やめてもらえませんか?」
いつかこうなる日は来ると思っていた。
結局どれだけ努力しても強くなれず、後方支援に回っている俺を良く思わない仲間もたくさんいたのだ。
やれ「戦えない」など「臆病」など他にも多くの陰口を聞いた。
メンバーの先頭に立っている眼鏡を掛けた男、クレイはパーティの頭脳役で皆を支ええて来てくれた。
そんな彼からこのようなことを言われては、もう俺の居場所はないに等しいだろう。
「ちょっとあんた達! 何しているのよ⁉」
その時、怒声を上げながらある人物が部屋に飛び込んできた。
僅かに吊り上がった目がきつい印象を与える金髪の少女。『黄金姫』の異名を持つ、我らがパーティのリーダーで幼馴染のアスカだ。
息を切らすほどの早さで駆けつけて来たといことは、アスカは何も知らされていなかったわけか。
アスカが現れてもクレイは動じず、笑みを浮かべながら眼鏡を触る。
「リーダーはこの男についてどう思いますか? 雑魚モンスター相手に戦うこともできず、裏方作業ばかり。その上、そんな怪我をしてしまってはサブリーダーなどもう無理でしょう」
「あんた……!」
クレイが俺の右足を見ながら口元を歪ませる。
視線を下ろすと、木製の義足が目に入った。
「クレイの言う通りだ。足手まといの俺はパーティを抜けるよ」
「ゲン⁉」
俺は宿を飛び出した。
しかしアスカの早さには勝てず、腕を掴まれ引き留められる。
「私が何とかする。だから戻るわよ」
有無を言わさない強い口調でアスカは俺を連れて行こうとする。
だがら、その手を振り払った。
「え?」
「俺は、お前とは違うんだ……」
「っ!」
パーティメンバーは強いアスカを慕っている、弱い俺はもう必要ない。
アスカの表情を見ないように背を向けた。
「――わかったわ、あんたなんてどこにでも行けばいいわよ‼」
アスカは怒声こそ浴びせても止めようとしてこなかった。
振り向くのが怖くて、逃げるように歩き始める。
「――嘘つき」
すすり泣くような弱々しい声が、ひどく心に突き刺さった。
◇
さーて、勢いで飛び出してしまったがこの後どうしようか。
俺とアスカって孤児だから故郷なんてないしなぁ。
「――マスター」
「うおおっ⁉」
突然背後から聞こえた声に飛び上がり、尻餅を着いてしまった。恥ずかしくなって、ごまかすように土を払いながら振り向く。
立っていたのは頭一つ分小さな黒髪の少女、パーティで斥候を務めていた『俊足』のコハクだ。
普段は無表情でわかりづらいが、今は目に見えてシュンとしている。
「私のせいでマスターがパーティを止めることになってしまい申し訳ありません。私があの時ミスをしなければ――」
この右足はコハクを庇った際に失われた。治療は済んでいるので俺は気にしていないが、責任感が強い彼女は悔やみ続けているのだ。
「足のことなら前も言ったがど気にしていない。それより、こんなところにまで来てどうした? 早くパーティにもど――」
「クレイを殴ってパーティを追放されました。マスターを侮辱したあの男を許すことができなかったので」
「えー……」
誇らしそうに鼻を鳴らしているが、何やっちゃってるのこの子は?
まだ俺とアスカが二人でパーティを組んでいたころ、とある村がモンスターに襲われているのを発見し、助けた一人がこのコハクだ。
それ以来コハクは俺をマスターと呼んで慕い、パーティに参加したのだ。
問題を起こさなさそうな大人しい子だと思っていたのに、意外と過激派だったのね。
「あの忌まわしき『毒蛇』によって故郷が襲われた時、マスターが来なければ私は死んでいました。そのマスターを侮辱するなど言語道断、極刑に値します」
「とりあえずその話は置いておいて、行くあてとかあるのか?」
「ありませんがマスターの傍なら問題ありません」
「えー……」
自信満々な顔してるけど、つまり俺の傍にいたいから飛び出してきちゃったの? 後先考えてなさ過ぎて俺不安。
だが、今それを責めても仕方ないか。
「どうなるかわからないが、とりあえず旅にでも出るか」
「はい!」
追放されたのはつらいけど、今までの職務から解放され肩の荷が下りた気分だ。
せっかく自由になったのだ、行き当たりばったりも悪くないだろう。
不安と期待を胸に、コハクと共に歩き出した。
◇
あてもなく行き当たりばったりの旅が始まったが、早々に問題と出くわした。村がモンスターに襲われていたのだ。
以前のパーティなら造作もない相手だが、今は俺を含めても二人しかいない。
ここで下手に突っ込み、全滅してしまえば助けられる命も助けられないが、時間をかけて失われる命もある。急いで状況を確認しよう。
モンスターはスライムにゴブリン、それと『毒蛇』の眷属か。どうやらあいつが指揮を執っているようだ、ならばそこを崩せば連携は瓦解する。
だが――
「はぁ……はぁ……」
コハクの顔は青白く変わり、呼吸も荒くしていた。
嘗て殺されかけた相手だ、無理もない。
せめて落ち着けばと、震えるコハクの手を握る。小さく壊れてしまいそうな手だったが、力強く握り返してきた。
「……ふぅー……ありがとうございますマスター、もう大丈夫です」
顔色も戻り、落ち着いたコハクに指示を出す。『俊足』の異名は伊達ではなく、こちらが住民の避難を終えるころには『毒蛇』の眷属をうち滅ぼしていた。
「やりました。以前マスターが弱点を発見していたおかげです」
「そんなことはない、コハクの実力だよ」
「んっ」
コハクの頭を撫でてやると、心地よさそうに目を細めている。
パーティにいた時から、こうしてやると喜ぶのだ。
「やっぱり冒険者っていいよな。こうやって人を助け、やりたいことをやれるんだ。俺、また冒険者をやってみるよ」
「私もパーティに入れてください」
「ああ、もちろんだ」
こうして俺はコハクと共に冒険者を再開した。
小さなパーティだが、このくらいの方が俺には向いていると思えた。
◇
ゲンとコハクがパーティを抜けて数日経った。しかし他のメンバーはそれを気にした様子もなく冒険家業を続けている。
あれ以来気力がなくなり、全てクレイに任せているが特に問題も起きていない。
今日もボーっとイスに座り、天井を眺めていた。
「どうされましたリーダー?」
クレイが大量の書類を持って部屋に入って来る。
今やパーティについての書類にハンコを押すのだけが私の仕事になっていた。
私は昔から友達がいなかった。
原因は自分の性格だと思う。力に貪欲で、間違ったことだと思えば徹底的に噛みついていたので、同年代だけでなく大人たちからも煙たがれていた。
こんな私と唯一友達でいてくれたのがゲンだった。
ひどいこともたくさん言ったし、つらい目に合わせたこともあったのに彼だけは傍にいてくれた。
一度理由を聞き、『冒険者になりたいから強いアスカに仲間になってもらいたい』と言われた時は笑ってしまった。
そんな彼から拒絶され、ついムキになって追い出してしまったが、心に穴が開いたようで寂しさしか残っていない。
「ねえクレイ。私ってこのパーティに必要なのかな?」
「必要かどうかですか? ふーむ……アスカ様はパーティのリーダーですからね、いた方が助かりますが、我々だけでも何とかして見せますよ?」
やはり私の居場所はここではなかったようだ。
「クレイ、私もこのパーティを抜けるわ。後のことは任せるわね」
「なんと……! わかりました、後はお任せください」
引き留めることもせず、クレイは笑みを浮かべる。
宿から出ると、パーティメンバーが此方に一瞥もせずあわただしくしているのが見えた。彼らは元々私たちを追い出し、パーティを乗っ取ることをたくらんでいたのだろう。
--ああ、やはりここから離れて正解だ。
◇
「嘘だろ……」
パーティを追放されてしばらく経った。コハクと二人だが、多くのダンジョンを攻略し、少しずつ有名になり始めていた。
しかし、いいことが続けば悪いこともある。ダンジョン内で追放された以前のパーティと遭遇してしまったのだ。
「久しぶりですね元サブリーダー」
クレイが笑みを浮かべながら話しかけてくる。だがアスカの姿は見当たらない。
そのことを聞いてみると、鼻で笑われた。さすがにむかつく。
「あの人はパーティを抜けてしまいましたよ。貴方を追放してからすっかり元気をなくしてしまいましたので、やめていただきました。ですので私がリーダーをしています、貴方達と違って優秀ですからね」
自分語りを始めるクレイを無視し、アスカの安否ばかりを考えていた。
あの時はひどいことをしてしまったので直接会って謝りたかったのだが。
「それにしても貴方達の活躍はこのパーティにまで届いていますよ。二人で細々としょぼい依頼ばかりをこなしているそうじゃないですか、役立たずの貴方にはふさわしいと思い――ぶぎゃっ!」
「マスターを馬鹿にするな」
コハクに顔面を蹴り飛ばされ、クレイの体が地面を転がる。
嘗ての仲間たちはそれを見て武器を構えた。
「今のは宣戦布告と捉えてよろしいですね? ――いいでしょう、前からお前たちのことは気に入らなかった、ここで死ね」
クレイが指を鳴らすとメンバーが一斉に襲い掛かって来た。
冒険者パーティ同士の抗争は禁止されているが、ここはダンジョン。いくらでも事故と偽装することができてしまう。
コハクに指示を出し、すぐにダンジョンを脱出した。お姫様抱っこだったが、この際文句は言わない。
それでもパーティは追いかけてくる。コハクも俺を抱えているため、いつも以上に動けず、体力の消耗も激しい。まさに絶体絶命の危機だ。
「コハク、俺を捨てて逃げろ! このままじゃ共倒れだ!」
「絶対嫌です! マスターを見捨てるぐらいなら――きゃっ!」
コハクがバランスを崩し、倒れた衝撃で俺も投げ出される。
見ると、コハクの片脚が凍り付いていた。
「ようやく捕らえたぞ」
「マスター、申し訳ありません。貴方だけでも」
クレイたちが迫る。せめてコハクを守ろうと両手を広げ、庇う様に立つ。
すまないアスカ、できれば謝りたかったのだが――
突然雷が降り注ぎ、クレイたちが吹き飛ぶ。
何事かと目を細めれば、そこにはアスカが立っていた。
「アスカ……」
アスカが俺の胸に飛び込んできた。
その顔は涙でぐちゃぐちゃに濡れていた。
「ごめんなさいゲン。ひどいことを言って、追放してしまって。ようやくわかったの、私はあんたがいないとダメだって」
「貴様! 我らの邪魔をしたということはわかっているのだろうな!?」
「元リーダーとはいえ容赦はせぬ」
「――あんた達、誰に口を聞いているのかしら? 『黄金姫』を舐めないでよね!」
アスカが剣で薙ぎ払うと、パーティメンバーが再び吹き飛び、立ち上がってくるものはいない。身体が痺れてしまい、動けないようだ。
唯一防いでいたクレイの顔が憤怒に染まる。
「おのれえ! 絶対に殺してやる‼」
地面に魔法陣が浮かび上がり、地響きが起こり始める。
「フハハハハッ‼ 私の魔法を受けよ‼」
身構えたその瞬間――クレイは片腕を残して消滅した。地下から伸びて来た牙にあっという間に噛み殺されたのだ。
魔法陣が砕け、元パーティメンバーは全員地割れに巻き込まれてしまった。
俺とコハクはアスカによって運ばれ、現れた者の全容を確認した。
それは山ほどの高さを持つ蛇だった。針のような鱗に身を包み、赤い目が獲物を探して蠢いている。
「あれは、まさか『毒蛇』の本体⁉」
「そんな……こんなところに?」
モンスターの中には十二魔獣と呼ばれる存在がいる。嘗て滅ぼされた魔王の眷属であり、世界を破壊するため彷徨う最強クラスのモンスターだ。
俺たちの前に現れたのはその一体『毒蛇』サンテラル・ヴェ・ノム。多くの眷属を放ち、この辺りの人々の人生を狂わせてきた諸悪の根源だ。
『毒蛇』はこちらを認識したようで、舌なめずりした。
まさか、本体に会うことになるとは、クレイの魔法陣に反応したのか?
眷属と同じならどこかにコアがあるはずだが、あまりにもデカすぎる……!
「この……!」
アスカの放った雷が炸裂し『毒蛇』の鎧が一部はじけ飛ぶ。だがすぐに再生してしまい、ダメージがなくなった。
その反撃に『毒蛇』は口から毒の塊を吐き出す。
何とか回避できたが、毒が触れた大地は音を立てて腐り果てた。
「くっ、どうすればいいのよ! こんなの放っておいたら私たちどころかこの国さえ滅ぼされるわよ⁉」
「――いや、打つ手はある」
俺の言葉にアスカとコハクの視線が集まる。
「アスカの攻撃が通ったという事は、見た目に反して防御力はそこまでないという事だ。あいつが眷属と同じ体質を持つと仮定すれば、徹底的に攻撃してコアを発見し、再生する前に一撃を叩き込めば奴は停止する」
――これは二人の協力がなければできないことだ。
「それでいいわ。いくわよ、コハク」
「はい、アスカ様」
もっとも負担のかかるポジションだと言うのに、率先して声を上げたのはアスカだった。
彼女のこういうところは素直にあこがれる。
アスカはコハクの凍った足を直すと、こちらに振り向いた。
「この戦いが終わったら、またパーティに入れてくれないかしら?」
「もちろんだ」
アスカは微笑むと『毒蛇』に向かって駆け出す。
そして、凄まじい雷の連撃を浴びせた。
『毒蛇』の鱗が次々と剥がれ落ちていく、コアの位置は――頭部か‼
「コハク‼」
「はい、マスター」
コハクが『毒蛇』の体を水平に駆けあがっていく。
雷や崩れ落ちてくる鱗を物ともせず、まさに風の如き俊足の一撃をコアに放った。
コアを砕かれた『毒蛇』の体は石に変わり、ひび割れて崩れ始めて。
コハクが力なく落ちてくる。今ので最後の力を使い果たしたようだ。
「ゲン⁉」
「間に合えぇぇえええええええええええええええええっっ‼‼」
降り注ぐ岩を躱し、コハクを受け止めるため手を伸ばす。そして――
◇
「うぅ……えぐっ……マスター……」
コハクが両手で顔を塞ぎ、泣き崩れていた。
私はどういう言葉をかければいいのかわからず、彼女の背中をさすることしかできなかった。
――自分の無力さが恨めしい。私に力があればあいつを救うことができただろうか?
「なんだよこの空気は?」
「マズダアアアアァァァッ‼」
「うわっ‼」
「ごめんなざい! 私のせいでマスターが借金まみれにいい‼」
コハクがゲンに飛びかかり押し倒される形になった。
彼の右足には新調された義足がきらりと光っている。
結果だけ言うと、ゲンはコハクを助けることができたのだけど、そのせいで義足を修理不可能なほど破損してしまった。
以前の義足はパーティの経費で作成したためそれほど負担はなかった。しかし今回は全額自腹で払うことになる。
優秀な義足だったため、二人でちまちま稼いだお金では当然足りない。私もパーティを止めてしまったのでお金はない。装備を全て売っぱらっても雀の涙だろう。
「俺が借金まみれになるのはいいんだ。コハクの命の方が大切だからな
「マズダァー……」
「ああ、このハンカチで鼻ちーんしなさい」
こうして見ると、まるで親子のようだ。何だか微笑ましくって、つい笑ってしまう。
「なんだよ?」
「べっつに―、これからどうするのかって思っただけ」
「決まっているじゃないか、冒険者として頑張り――借金返済だ……」
「あーあ、十二魔獣倒したんだから褒賞ぐらい出たらいいのに」
「討伐した証がないからな、魔法で作った幻だっていちゃもん付けられたらどうすることもできないさ」
王国って随分けちだなとリーダーだったころから思っていたけど、まさかこれほどまでとは。
よーし、王国の危機にはなにもしないようにしちゃおう。
「さあて、借金返済目指して頑張るとしますか」
「おー」
「三人の力を合わせれば、借金返済なんてすぐよ」
「――だといいんだがな」
これが、後に伝説のパーティ呼ばれる私たちの始まりだった。
十二魔獣に王国が滅ぼされたり、新たな王国を作ったりもするけど、それはまた別の話。
最後まで読んでいただきありがとうございました。評価・感想いただけると嬉しいです。