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竜血琥珀と鐘守の商会  作者: ワタリヤ
9/15

開拓地の前線都市

 ユーリはカルネとの手合わせを終えた後、セレストの警備隊の面々と酒場へ繰り出すことになった。

 しかしユーリにとってはセレストで暮らす人々が何を求めているか、ということを知る絶好の機会である。進められる酒を躱しながら、話し、欲しいもの、不便だと思うことを聞き出す。


「んん? あったらいいなっておもうもの、か―――」


 すっかり出来上がってしまったマールに欲しいものを聞いてみた。マールは真っ赤な顔で考え込む。


「……およめさん、だな!」


 はっはっは、と笑いながらマールは答えた。


「お金で買えるものでお願いしたいです……」


「でもよぉ、ユーリくん。ここはおおきいけど、できたばっかりのまちで、さけか、つめしょではなすとか、くんれんとかばっかなんだよぉお」


(……娯楽の類が少ない、と)


 このような酒場なら吟遊詩人がいても良さそうだが、居るときと、居ないときがあるようだ。


「ふむ、そういう話なら」


 グレットも結構飲んでいるはずだが、酒に強い方らしく、顔色は普通だった。


「食品の種類も少ないんだ。妻が献立に四苦八苦しているよ。なんとかなりそうかい」


「なるほど。ファーレンの周辺はまだ詳しくはないですが、水源が近いので香草の種類は多いように思います。木材と一緒に持ち込んでみましょうか」


「よろしく頼むよ。馴染みの店に卸してもらうと助かる」


 警備隊が懇意にしている店は明日の早朝に紹介してもらうことになった。


「……全員、ここまでにしとけ。明日の仕事も、よろしくな」


「「「了解!」」」


 隊長であるバルクが終了の音頭をとった。警備隊の朝は早い。商人といい勝負だろう。


(おかげで今晩はほかの店も見て回れそうだ)


 グレット達と別れた後、ユーリは夜のセレストの町をぶらぶら歩きまわることにした。用心のため、帯剣はしておく。

 セレスト周辺の開拓村、ファーレン、グランセン、ホースリーなどは、馬車で一日の距離にあるところが多い。朝に馬車を走らせ、日が暮れるか暮れないか、という時間にたどり着く。当然、なにかトラブルがあれば、遅れることもある。


(そういうこともあって、セレストの商会の納品場は夜も開いていることが多い。この前のジンの木材の買取のときのように)


 ただ、流石に売り場は閉じられている。


(……無駄足だったかな)


 宿に向かおうとしたユーリだったが、聞き覚えのある声に呼び止められた。


「あんた、確かジンの知り合いか?」


「……ああ! 多く持ってきたけど、買い取っていただいた方ですね。あの時は無理を聞いていただき、ありがとうございます」


「いやぁ、それはいいんだ。あの後木材が遅れたり、来なくなったりしたからな。こっちこそ助かった。

 それで、今日はジンは来ねぇのか?もう木が無くなりそうでな」


「それについてですが―――」


 ユーリはファーレン村であったことを説明した。


「……ウィルバーの奴が……、……ジン……」


 男は目に見えて肩を落とす。そういえば、お互いに名乗っていなかった。


「知らせてくれてありがとよ。―――えっと」


「ユーリと言います」


「ユーリか、覚えとく。俺はケイスだ。知っての通りこの店で木材を取り扱ってる」


「ケイスさん、ジンはこれからウィルバーさんが稼いでた分も稼がなければなりません。

 不躾なお願いですが、どうすればもっと単価あたりの買取価格を高くしてもらえるか、教えていただけませんか?」


 ケイスがユーリの眼を見る。少し間を置いて彼の口が開かれた。


「ユーリ、あんたなんでジンにそこまでしてやるんだ?」


「……彼のような人間が、不幸になるのが納得できないからです。そして、私の友人です」


「くっくっく。……なかなか言うじゃねぇの」


 ケイスは歯が見えるくらいに口角を上げる。


「いいぜ、教えてやる。見本を見せながら説明するから、店に入んな」


「ありがとうございます!」


 ユーリはケイスに店内を案内され、卸した木材がどのように使われているかを説明を受けた。

 薪は単価が低く、家具や建材に使われるものは単価が高くなる。単純だ。


「では、どのようなものが家具や建材として適していますか?」


「これを見な」


 加工中の木材だ。触りたくなるほどすべすべしていそうな見た目だ。そしてへこみや節が少ない。


「とにかく、癖がなくて真っ直ぐな木材が欲しい。そうでないものは加工の手間がかかるから、あまり高く買えないし、薪にすることも多いんだ」


 他にも気を遣ってほしいところをケイスが説明してくれる。夜も大分更けてしまっていた。


「こんなところにしておくか」


「……ありがとう、ございました」


 いきなり木材の詳しい知識を頭に詰め込むことになったユーリは軽く眩暈を覚えた。


「まだまだ、言い足りないんだがなぁ……。次に持ってきたときにするか。なるべく早く頼む!」


「―――承りました」


 ファーレン村に帰るころには、また木材は伐られていてセレストまで運べるようにはなっているだろう。




 ケイスと別れ、ユーリは今晩の宿へ向かう。道すがら、薄着の若い女性の視線を感じた。ユーリとて健康な男子であるから、興味が無いわけではない。しかし、ああいう手合いは女性の後ろに強面の男がいるのが相場だ。


(そして今はとにかく倹約しなければならない)


 ユーリは一応、回り道をしながら宿屋に戻った。




 翌朝、ユーリが宿屋を出ると、すでにグレットが宿屋の出口にいた。


「おはようございます。わざわざすみません」


「いや、気にしなくていい。この後私もすぐに仕事に出る。早速だが案内しよう。まあ、詰所の近くなんだがね」


 グレットに案内されると、詰所の三軒隣のなかなかの大きさの商店だ。せわしなく店員が動き回り、野菜や果物を並べている。鶏の鳴き声が聞こえる。卵を毎日売りに出すところがこの店の自慢らしい。


「おや、グレットさん。おはよう、今買い物かい?」


 店員の一人が声をかける。


「今は違うんだ。夕方、また来るよ。ソレイユさんはいるかい」


「店長ならいるよ。呼んでくるかい」


「ああ、頼む」


 しばらくして恰幅のよい女性が出てくる。グレットよりは年上だろうか。後ろから付いてくるのは彼女の子供と思われた。


「おはよう、グレット。あたしの顔を見に来てくれたのかい! うれしいね」


「おはよう、ソレイユさん。今日は彼を紹介したくてここに連れてきた。ユーリという。ファーレンで商いを始めるそうだ」


「ユーリといいます。よろしくお願いします。ソレイユさん」


 差し出されたユーリの右手を掴んだところで、「……ユーリ?」とソレイユが呟く。


「ああ、シュミットが世話になったっていうユーリって、もしかしてアンタかい?」


「シュミットさんが出入りしている商店はここなんですか。シュミットさんにはベレトスからここまで運んでもらったんですよ」


「そっか、そっか!で、あのファーレンで何を扱うつもりなんだい。木以外に何かあったっけ」


「これから見つけますよ。あの村は宝の山です!」


 言い切ったと同時に握手する手にも力がこもる。


「あっはっは!若いってのはいいね!何か面白いものがあったらここで売ってやるよ」


「よろしくお願いします!」


 やり取りの間、握手は続いたままだった。なかなかに手が痺れた。


「商人同士だからか、スムーズに話が進んだな」


「グレット殿、紹介していただき、ありがとうございます。」


「なに、私も君が何を卸してくれるのか楽しみにしているよ。では、仕事に行ってくる。今度はカルネのところに行くのだろう?よろしく言っておいてくれ」


グレットとも握手をして別れる。改めて品物をゆっくりと見回す。キャベツやタマネギ、人参、イモ、果物が並べられている。袋に入っているのは小麦粉だろうか。ハーブは薬屋で扱うからか、売っていない。奥のほうには豚もも肉が紐で吊り下げられている。その下には中身の入ったガラス瓶がたくさん並んでいる。


「ホースリーのほうと、周辺の農地からからほぼ毎日仕入れているんだけど、なかなか種類がそろわなくてね」


 ソレイユが店の仕入れ状況を教えてくれた。


「季節のものが多くなるから、おいしいのだけど、毎日じゃ飽きがきちゃうの」


「瓶詰にしても限りがありますからね」


「ま、あんたにゃ期待してるわ。頑張ってね!」


「ありがとうございます!あ、このチーズください」


「ふふっ、まいどあり」


 ソレイユ商店では野菜や果物、肉など基本的なものはそろっていた。チーズもあったし、乳製品も扱うだろう。果たして、ファーレンから何を持ってくる?

 ユーリはソレイユと別れ、カルネとの約束を果たすため、詰所へと向かおうとした。


(集合は昼前なのだし、もっと見て回ろうか? ……一回詰所に行って、いなかったら見て回ることにするか)


 詰所の前にはカルネがいた。退屈そうに身体を伸ばしていた。


(……まずい。待たせてしまったか)


「あ、ユーリ。早いね」


「カルネ殿こそ。随分待っていたのでは」


「……カルネでいいよ。堅苦しいの好きじゃないし。……もしかして、ソレイユ商店のチーズ持ってる?臭いがするよ!」


「ええ、先ほどまで商品を見せてもらっていました」


「ねぇ、うちでお昼をごちそうする予定だからさ、半分、それもらっていい?」


「どうぞ。好きなんですか?」


「なんというか、クセになる味と臭いなんだよね。家じゃ出てこないし」


 掌の大きさに切り分けてもらったチーズを、半分にする。カルネは一口でその半分を食べた。


「もぐもぐ……。んん。んまい」


 ユーリは少し齧ってから、包んで袋へしまう。ジンたちへのお土産だ。しまっているうちにカルネは残りを平らげてしまった。


「はぁあ~。やっぱりこういうもののほうが好きだなぁ~、あたし」


 満足を表情にするとこういうものなのだろうな、と目を細め、口角を引き上げたカルネの表情を見てユーリは思うのだった。

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