セレストの警備隊
ユーリは商会を立ち上げた。従業員、というよりは協力者としてソニア、クレアの親子が加わった。とはいえ、腹を満たさなければならない。香草を加えたスープをすする。
「……おはよう、ジン」
ジンがのそりと村長の家から出てきた。悲しくても腹は減るのだ。
「……おう」
「寝れてないんじゃないのか。これ食べたらまた寝たほうがいい」
「……ありがとよ。でもなんかしてねぇと、落ち着かなくてよ……」
ジンもスープをすする。
「昨日よりうまいな。……おふくろに持って行ってもいいか?」
「もちろんよ」
ソニアがジンにスープをよそった。クレアも少しはにかんでいる。
(ソニアよりクレアのほうが料理は筋がいいんじゃないか?)
ユーリはそんなことを思っていた。
昼前になり、ジョセフ村長が村人を集めた。ウィルバーを弔うためだ。ジンは少しは寝れたようで、朝よりは調子は良さそうだ。
「「「……」」」
村人全員と、ユーリ達がウィルバーのために祈る。
「あなた……」
妻であるリーナはやせ細った手でウィルバーの頬を撫でる……。
そして、村の墓地にウィルバーの身体は埋葬された。天国があるならば、彼は歓迎される人物のはずだ。
「皆の者」
ジョセフが振り返り、村人に聞こえるように声を張り上げた。
「ウィルバーは立派な男であり、この村を救った英雄だ。誰も死なせなかったのだ!」
ジンがうつむき、震えている。
「彼には妻と、息子がいる。どうか、彼らを助けてやってほしい」
村人たちは力強く頷いた。
(私も、ジンの力になろう)
ついに涙を堪えきれなくなったジンの姿を見て、ユーリは決意を新たにするのであった。
昨日の襲撃でジンの家は被害を受けてしまった。しばらくジンとリーナは村長の家に住むことになるようだ。
(むしろ、都合はいいな。私と、ソニアとクレアもそこに居るし)
善は急げという。ユーリは早速ジンに商会を立ち上げるから、雇われてほしいという話をした。
「……よろしく頼む」
「……ありがとうございます」
ジンとリーナがお礼を言う。まだうまくいく保証はないのだが。
「あ、リーナさんも身体の調子が良ければ手伝ってください。無理はしないでいいので。まずは香草や果実を売ることになりますが、良し悪しを区別して、泥などは落としてほしいのです」
「わたしにも、なにかできるのですね……」
「はい!味見役もしてください。香草は薬の材料ですから、うまくいけば薬を買わずに済むかも」
ユーリの見立てでは、栄養事情が改善されれば、リーナは健康に近づけるはずだ。
「俺は?」
「前と同じように木材を売ろう。けど、セレストの需要を探って、少しこちらで手を入れて、その分を値段に上乗せしよう」
「やったことねぇんだが」
「ほら、そこは村人にも手伝ってもらうさ。いきなり完璧にやろうってわけじゃないし。この村の家を建てたのは誰だい?」
「みんなで協力して建てたから、誰がっていうのは言えねぇな」
「……まあ、少しずつやっていこう!」
そして、需要を探ること、街道の安全を確認するためにセレストに行くという話になった。木材はバリケードに使ったので、売るならばまた伐らなければならない。
「ジン、ユーリ殿もここにいたか」
ジョセフがやって来る。
「セレストの警備隊の先遣隊が馬で来るようだ。ジンたちにも来てほしい」
馬が二頭、ファーレン村にやってきた。装備を固めた警備隊員が馬を降りる。
「……通報を受けたときの情報から、村はもう壊滅しているだろうと思っていたが」
「あちこちにバリケード。家は焼け落ちたものもありますが、壊滅というわけではないですね」
肩幅の広い男性と、背の高い男性だ。
「状況を聞かねばな。あれがジョセフ村長の家だろうか」
「知り合いですか、部隊長」
「顔見知り程度だ。数年前、村を作ると出ていくときに挨拶をした」
二人の男は村長宅に向かう。
「ここがジョセフ村長の家でよろしいか」
「ええ、よくぞいらっしゃいました」
ジョセフが警備隊員を迎え入れる。中にはユーリ、ジン、ソニアがいる。クレアはリーナと一緒に隣の部屋にいる。
「状況を伺いたいと存じますが、彼らは?」
「今回の村の防衛に大きく寄与した者たちです。賊のアジトを発見し、対策を立て、賊を追い払った」
「……その手段も含めてお聞きしたいところですな。失礼、名乗っていなかった。セレスト警備隊第四部隊長、グレット」
肩幅の広い男が自己紹介をした。
「部下のヘンダールです」
背の高いほうの男も自己紹介をした。ユーリ達もそれぞれ名乗る。その後、アジト発見のいきさつ、竜石を使用した迎撃、……賊の頭が使用した銃のことを話した。
「なんと、このような貴重品を賊が……」
グレットもそのような認識をしていた。
「その銃でジン、彼の父親は倒れました。手斧を使う大男が持っていましたが、奴は逃げてしまいました。……なにか奴のことを知っていませんか」
ユーリの質問に、ジンが少し反応する。
「……警備隊の古兵なら知っているかもしれんが、すまない。私にはわからない」
グレットの答えにジンはほんの少し眉間にシワを寄せた。
「しかし、竜石も貴重なものだ。ユーリといったか、もしかして、フリント商会のユーリではないのか」
「……ええ、そうです」
「修行の旅、というところかな? とすればファーレン村は幸運だったと言わざるを得ない。君がいなければこの村はなかった」
「……ですが、犠牲者はでました」
グレットは頭を振った。
「客観的に見れば、二十名近くの賊どもを相手に一人の犠牲者で済んだことは奇跡と呼べることだ。
……我々は蹂躙された村の検分にくるつもりでここに来た。だが、村は無事だった。ここにいる者たちが、倒れた者が、死力を尽くしたからだ。
気を落とすようなことは、決してしてはならない」
警備隊員として修羅場を潜り抜けた経験を持つであろうグレットは熱く語りだす。ジンは歯を食いしばっていた。何度も泣くまいと堪えているのだろうか。
「……話を戻そう。逃がしたのはその件の大男、他には賊を三人。間違いはないな?」
「ええ、村の建物に火を着けられたので、消火のほうを優先しました」
ソニアが答える。
「……ふむ。もともと、セレスト周辺で被害が出ており、我々が当たるべき案件ではあった。拠点が見つからず、適切な対処ができなかったからな」
グレットは考えていたが、ヘンダールのほうに向き直る。
「第四部隊で、現在動かせる人数はどのくらいいる」
「この数日でなら、私を含めて四名です」
「ならばヘンダールも含めてセレストとファーレンの道を巡回すること。逃げた賊も見つかるかもしれん」
「期間はどのくらいにいたしましょうか」
「少なくとも巡回区間の安全が保障されるまで、だ」
(結局、期限が切られていないじゃないか。……対処が遅れたなりの詫びというところかな。しかし、こちらも好都合だな)
セレストとファーレンの通行の不安が少なくなることはユーリにとってありがたいことであった。
その後、現場の検分を終え、グレットとヘンダールは一旦セレストに戻ることになった。そこでユーリはセレストへ同道させてほしいと二人に頼む。
「それはいいが、何をしに行くんだ?」
「自分の商いを始めようと思います。そのために、セレストでの需要を調べようと思います」
ふむ、とグレットは頷く。
「ならば、警備隊が取引している商会にも顔を見せるか?」
「ありがとうございます。是非お願いします」
ユーリはジンやソニアにセレストに行くことを伝え、ヘンダールの馬の後ろに乗せてもらう。
「道中、お話を聞かせてもらおうかな」
「―――お手柔らかに」
到着するころには夕方だろう。うまく儲け話を見つけなければ。ユーリの心の内はどのように稼ぐのか、ということでぐるぐると渦巻いていた。




