商会の立ち上げ
賊たちの襲撃によるファーレン村の壊滅、という最悪の事態は避けることができたユーリ達。しかし、ジンの父親であるウィルバーは凶弾によって帰らぬ人となってしまった……。
(……朝、か)
ユーリは村長の家で壁にもたれかかるように寝ていた。父を失ったジンの傍を離れる気にはなれなかったのだ。
(ウィルバーさん……)
布を被せられたウィルバーを見て、部屋を見回す。ジンは眠れただろうか?
(いた)
ジンは母親であるリーナの寝床の傍でうつむいている。足音をたてないように、ユーリはジンに近づく。
……寝息が聞こえた。
ユーリは少しだけ安心する。
(朝食の用意をしておくか)
何があろうと、人はきちんと寝て、きちんと食べなければ動けない。祖母や母の教えだ。
外に出るとクレアが朝食の準備をしていた。
「おはよう、ユーリさん。……大丈夫?」
「クレア、おはよう。私は、大丈夫」
ソニアは村の若者と見回りをしているらしい。興奮と悲嘆ですっかり見張りのことを忘れていた。
クレアと一緒に朝食の準備を進める。
「……ジンさんは、寝てる?」
「うん。でも、あまり寝れていないかもしれないな。起こさないでおきたい」
「ウィルバーさん……。これから、ジンさんはどうするんだろう」
「……」
そう、これからジンは病弱な母親を養いながら生きていかねばならない。ウィルバーがいても、薬代を稼ぎながら日々を生きることで精いっぱいだった。
「そうだな……。私はこの村にしばらく滞在するつもりだ。何かできることがあれば手伝おう」
「ユーリさんはここにいるんだね」
材料を鍋に入れ、火にかける。
「クレアとソニアは、また旅に出るのかい?」
「うーん……。それを決めるのはお母さんだから……。そもそも、旅に出た理由はね」
(そういえば、旅の理由は聞いていなかったな)
「私のお父さんは、役人だったの。でも、よくわからないけど、厄介ごとに巻き込まれて、それで私たちを逃がしたの」
「!」
「それが半年前の話。お金はたくさん持って家を出たけれど、もうないんじゃないかな」
ジンも、クレアとソニアにも経済的な問題がのしかかっている。
(それならば、私がこの村でやろうとしていることは彼らの助けになる!)
「なあ、クレア」
「なぁに、ユーリさん」
「この村で私は商売を始めようと思うんだ。ソニアと手伝ってくれるかい?勿論、給金は払うぞ!」
「すごい!いいの!?……でも、わたしは力仕事あんまり……」
「この村は宝の山さ。例えば、これ!」
ユーリは昨日の斥候で摘み取っておいた香草を取り出す。
「草……?」
「香り付けだよ。これを鍋に入れる」
ユーリは細かくちぎって鍋に香草を入れた。少し鼻を刺激する、しかし食欲の湧く香りが漂ってきた。
「いい匂いね~!」
ソニアが見回りから帰ってきたようだ。クレアも鍋に近づいて来る。
「さて香りが飛ばないうちに……」
小皿で掬って味見する。悪くない。
「クレア、ソニアも」
二人にも味見をしてもらった。
「うん、おいしい!」
「これが昨日言ってた香草かしら?昨日よりおいしいわ」
「この村には気づいていないだけで売り物になるものがたくさんあるんだ。それをセレストに売ってお金を稼ごう」
「え、何、なんの話?」
ソニアにこの村で商売を始めること、それを手伝ってほしい旨を説明する。
「それ、いい考えね!」
ソニアも賛同してくれた。
「旅の理由はクレアから聞いたのだが、一所に留まっても問題はないのか?」
「大丈夫、大丈夫!お金は稼ぎたいしね!」
(もし、ユーリの商会がうまくいけばクレアとユーリをくっつけたうえで、余裕のある生活を手に入れられる……!!)
改めて述べるが、クレアの相手を探すこともソニアの旅の目的なのだ。
こうして、まだ売るものも、売り先もないが、ユーリは己の商会を立ち上げることにした。これから彼らにどんなことが待ち受けているのだろうか。
穏やかな風が吹く、良く晴れた朝のことであった。




