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竜血琥珀と鐘守の商会  作者: ワタリヤ
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竜血の琥珀

 賊のアジトを発見することができたが、同時に今夜にも襲撃されるということも知ったユーリ達。


「村に帰って準備だ!」


 離れてしばらくは慎重に移動したが、その後は速足で村に急いだ。

 どうにか昼すぎには村に帰ることができた。


「おかえり。……なにかあったの?」


 慌ただしく帰ってきた三人の様子を見て、ソニアはただならぬ気配を感じる。


「賊のアジトは見つけたけど、今夜この村に襲撃するつもりだ」


「なんですって!」


「村長の家にみんなを集めたいんだ。これからの方針を説明する」


「わかったわ!」


 ファーレン村は狭い開拓村だ。五十人ほどがすぐに集まった。


(まともに戦えそうな者は……私、ソニア、ジンとウィルバーを入れて十人ほどか)


 ユーリは集まった村人を見回す。ウィルバーが村長と二言三言話し、村人のほうに顔を向けた。


「村の皆、ここ最近ファーレン村の周辺に賊どもが出没しているが、そのアジトを見つけた」


 村人がどよめく。


「アジトを見つけてセレストの警備隊に依頼するつもりだったのだが、今夜やつらはここを襲撃するつもりらしい」


 さらにざわめく。


「……今からなら逃げることも可能だろう。止めはしない」


「……」


「……あんたはどうするんだウィルバー」


 村人からの質問のウィルバーの返事は決まっている。


「妻は置いていけん。次の住処の当てもない。ここに残る」


「……それは俺たちも同じだ」


「何かできることはないか?どうすればいい」


「……俺は……」


 おおむねこの村に残って手伝ってくれるようだ。


「賊の人数は二十人ほどだ。まずこの村の出荷前の木材でバリケードを作りたい」


「「「おう!」」」


 ウィルバーの号令で若者たちが動き出す。村長のジョセフはセレストに避難する数名に警備隊に届ける手紙を持たせた。


「……これでいいんだな。ユーリ」


 バリケードを作る提案をしたのはユーリだ。


「ええ。そして、私がバリケードの中心で敵を引き付ける」


「! それは聞いてねえぞ、ユーリ」


「……なにか策があるのか」


「……これを」


 ユーリが荷物から布の塊を取出し、丁寧に開いていく。赤い色をした透明な結晶が現れた。中心がほのかに光っている。


「なんだそりゃ?」


「竜血の琥珀。または竜石と呼ばれるものだ。これは火に近づけたり、強い衝撃を加えると爆発するものなんだ」


「……これが竜石か」


 ウィルバーくらいの年齢なら噂で聞いたことがあるのかもしれない。


「これを仕掛けをして賊に向けて投げつける」


「仕掛け?」


「小石を入れた袋に詰めて、賊の足元におもいきり投げつける」


「……!」


「危険ではないか?」


「ソニアから兜を借りる。バリケードに身体を隠しながら投げるし、二十人を相手にするよりはいいと思う」


 ユーリの説明にジンとウィルバーが考え込む。


「わかった。それで、残りを俺たちがぶちのめせばいいんだな」


「まて、ジン。不発の場合はどうする」


「火矢でもかけるしかないかな。袋は油を浸みこませとくか」


「あと、爆発でみんなびっくりしないように教えとかねーと」


 迎え撃つ準備は慌ただしく進む。

 ソニアとジョセフは村長の家に集まった非戦闘員を守る役目についてもらった。


「ごめん……。ユーリ、ジン、ウィルバーさん」


「むしろ、安心して戦える。妻を……みんなをよろしく頼む」


「……終わったら、またあのスープをつくるわ。死なないでね」


「……ユーリさん、ジンさん」


「クレア……」


「大丈夫だって!心配すんな。俺も親父もユーリも賊になんか負けねーよ!」


 戦える者がそれぞれバリケードに身を隠したころには太陽が半分ほど沈んだころであった。

 

「……こんなところか」


 ユーリは小石を詰めた袋を投げる練習を終わらせ、小石と竜石を詰めた袋に掴む位置を避けて油を浸み込ませた。


「……ふう」


 心臓が早鐘のように鳴りだす。胸に手を当てて深呼吸する。

 陽が沈んだ。


「……!」


 複数の馬車の近づく音だ。松明の火も見えた。馬車の近づく音が止み、代わりに複数の男の声が聞こえる。賊たちだ。


「こんなちゃっちい村でも、俺たちとやり合おうってヤツはいるんだな。褒めてやるぜ」


 バリケードの傍で、松明に照らされて佇むユーリを見て賊たちは嘲笑を浮かべる。


「だが、死ね!」


「行くぞ、てめぇら!」


 賊たちがそれぞれ武器を携えてユーリめがけて駆けだしてくる。

 ユーリは振りかぶって、賊たちの足元に向かって思い切り袋を投げつけた。同時に小手で顔を庇った。


 バァン!!


「いでぇっ!」


「ぐあっ!」


 赤い閃光と、爆発音が響き、小石が弾丸となってはじけ飛ぶ。バリケードが揺れる。兜と小手をソニアから借りていなければユーリも大怪我を負っていただろう。


「いてぇ、畜生……!」


「ぶっ殺して―――……ぐえっ」


 打ち合わせ通りに村人が賊たちに追い打ちをかけていく。ユーリの策で負傷し、戦意を削がれたこともあって、次々と賊は倒されていった。


(十、十一、十二……)


 ユーリは倒れた賊の人数を数えていく。


(十五……。こんなもの、か……?)


 予想した人数より少ない。


「ジン、ウィルバー。一旦村長の家の様子を見に行ってくる」


「そうだな。こっちはほとんど終わったし。そっちにも行ってるかもしれねぇ」


「うむ、一回集合して見回りを―――」


 バァン!


 ウィルバーが言い終わらぬうちに、先ほどと同じような爆音がする。ウィルバーは膝から崩れ落ちて倒れた。頭から出血している!


「……親父?」


「……! ジン!」


 ユーリが目いっぱいジンを突き飛ばした。もう一度爆音がしたが、今度は「ばすっ」という地面にめり込む音がした。


「おめぇら、やってくれるじゃねぇか……」


 ひときわ大柄な男が歩いて来る。手に持っていた何かを地面に投げ捨てた。


(あれは、銃か?! なんでこんなところで)


 ユーリは商会で見たことがあるが、ここで見かけるとは思っていなかったのだ。


「子分どもの弔い代わりだ。お前らの頭かち割って村ごと燃やしてやる!」


 大男は手斧を二本構える。


「……こっちの台詞だぁっ!!」


 ジンが立ち上がり大男に向かっていく!


「雑魚が!」


 大男はジンの斧を片方の手斧で受け止め、もう片方を頭上から叩き込もうとする。


「ジン!」


 ユーリが剣を振るう。手斧が方向を変え、ユーリの一振りを止めた。ジンはその隙に距離をとった。


「みんなぁ!親父をたのむっ!」


「お、おうっ!」


 村人は銃声と大男にすくみあがっていたが、ジンの叫びで気を取り直す。


「ちぃ……」


 大男は冷静になったようで、退き気味だ。しかし、ユーリとしては逃がしたくはない。


(銃のことを、訊かなければならない……!)


「火、火だ!あいつらやりやがった~!」


 村のほうから火の手があがった。やはり賊の内、数名は村のほうに行っていたのだ。


「!」


「ま、待ちやがれ!」


「行くな!ジン!消火と村の賊が先だ!」


 大男は村人の視線が村のほうに向いた隙をついて逃げだした。……地面に捨ててある銃はそのままだ。


「……」


 杖のような長さのそれを拾い上げ、ユーリは村人と共に村長の家の方向に急いだ。




「ひいい!村が!」


 燃える家を見ながら、ジョセフが腰を引かせながら剣を構えている。村長としての義務感と村への愛着が彼を支えていた。


「……正念場ね。ユーリ達は大丈夫かしら」


 剣と盾を構え賊を牽制するソニア。


「人の心配かよこのアマ」


「舐めやがって!」


 賊は三人だ。ソニアの隙を伺うようににじり寄って来る。そこに、ユーリ達がやって来る。ユーリの持つ銃を見て、賊たちの顔色が変わる。


「親分のエモノ!?」


「まさか、あいつらがやったのか?」


「……ずらかるぜ!」


 賊たちは逃げていってしまった。


「ソニア!」


「ユーリ! あいつら、逃げていったわ! やったのね! 早く火を消さないと」


 ソニアが辺りを見回す。


「……ジンとウィルバーさんは?」


「……向こうにいるよ。賊は追い払ったから、火を消してから行こう」


「そうね。……みなさん! 賊は追い払いました!消火を手伝ってくださーい!」


 あらかじめ消火用の水は用意していたので火による怪我人が出る前になんとか消し止めることができた。

 そして、


「……ウィルバーさん……」


 ウィルバーの遺体が村長の家に運び込まれた。

 遅い時間となったこともあり、賊は村の外れに埋葬し、ウィルバーは翌日に弔うことになった。


「そんな……。ウィルバー……。なんで……」


 彼の妻であるリーナが小さい肩を震わせて泣き崩れる……。


「おふくろ……」


 ジンはその様子と、父の遺体を見つめ、拳を握りこんだ。そして、ユーリのほうを振り向く。ユーリは顔を伏せようとしたが、目をそらしてはいけないと思いなんとかジンと目を合わせた。


「これは、親父を殺したのは、なんなんだ。ユーリ」


「……銃、というものだ。私が見せた竜石より、小さいものと、鉛の玉をこの筒に込めて、この機構で竜石を叩き、その爆発で鉛の玉を矢よりはるかに速く撃ちこむ武器だ」


 ユーリが背に負った銃をジンに見せる。


「非常に殺傷力の高い武器だが、貴重品でもある。この辺にいるような賊が持つようなものじゃない」


「……なんでそんなもんを、あいつらが持っていやがったんだ」


「……わからない……。あの大男なら知っているかもしれないが……」


 結局、逃がしてしまった。


「あの野郎は、絶対に、俺が……!」


 ジンが絞り出すように唸る。この夜、彼は一睡もすることはなかった。泣きつかれた母と物言わぬ父を見つめてはいたが、彼の頭の中は、あの大男のことで埋め尽くされていた。

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