開拓村ファーレン
天気は良いので、木漏れ日が漏れる林道をユーリ達は行く。風に吹かれてキラキラと光が流れていく様子を「風光る」と表した先人がいたが、
「……」
ユーリ達はその景色を楽しむような気分ではなかった。
「……もうすぐ、ファーレンの村に着くぜ。……ザックス」
ジンが物言わぬ男に語りかける。太陽が幻獣山脈の稜線にかかる前に村にたどり着くことができた。
「ジン!帰ってきたのか!……お客さんか?」
「親父。客もだけど、……ザックスが」
「!! ……ザックス……。なんということだ」
それから、ユーリ達は慌ただしく村長の家に迎え入れられ、というよりは押し込まれた。外では女性の嗚咽が聞こえる……。
「……何かできることはないだろうか」
「……私たちは余所者よ。そっとしておくほうがいいわ。でも、もう少ししたら、私たちも弔いに行きましょう」
「……」
ユーリ達がしばらく待っていると扉が開かれ、ジンが入ってきた。
「村長がユーリ達の賊に襲われたときの話を聞きたいそうだ。……ほかでも出くわしてるらしい」
思ったより村の状況が大分悪そうだとユーリは心の内で舌打ちをした。
ザックスの墓標に黙祷し、村長たちと顔を合わせ、お互いに自己紹介を済ませた。村長の名はジョセフ、ジンの父親の名はウィルバーだ。
「……ベレトスとセレストの間でも賊が……」
ジョセフは疲れたような表情だ。ここ数日あちこちで賊が出没していて、村の流通自体が滞っているらしい。
「季節はいいから、食べ物はどうとでもなる。しかし薬などが足りない。ジンは運が良かったとしか言いようがない」
ウィルバーがジンと、ユーリ達のほうを見る。
「あちこちで出現するなら、近くで拠点でも作っているのかも」
ユーリの言葉に村長の顔はさらに暗くなっていった。慌ててユーリは言葉を続ける。
「でも人数が多いなら、少なくとも水は近くにないと集団の維持ができません。川沿いで拠点を探って、セレストの警備隊に依頼したらいかがでしょうか」
「……それしかないか。金はないが、村がつぶれるよりは……」
ジョセフは決断したようだ。命あっての物種だ。
「それで、誰が拠点を探る?俺たちが行こうか」
ジンがウィルバーに目配せをしながらジョセフに進み出る。
「この村で戦える者は多くない。……頼む」
「よし!」
ジンが拳を掌に叩きつける。
「……私も行っていいか」
「客人に迷惑をかけるわけには……」
ユーリを諫めようとするジョセフだったが、ユーリはこの辺の地理を知りたいから、と言って付いていくことを認めさせた。
「とはいえ、今日はもう日が暮れてしまいました。見張りは立たせますので、お休みください」
ユーリはその言葉には素直に従うことにする。
「あ、ユーリ。ソニアとクレアも」
「なんだい、ジン」
「ウチに寄ってくれ。……薬のお礼が言いたいって」
ジンとウィルバーに連れられ、彼らの家に入る。ジンの母親と思われる女性が寝床に座っていた。
「薬を届けていただき、ありがとうございます……。道中で襲われたとも聞きました。あなたたちがいなければ私たちはどうなっていたことか……」
リーナと名乗った女性の声は小さく、頬はこけていた。薬だけでなく、食糧事情の改善が必要だと医者でないユーリでも理解できた。
「いえ、私たちは当然のことをしただけですよ。ご無理をなさらないで」
ソニアがジンの母親に横になるように促す。
「ジン、私たちは村長の案内した家に泊まる。明日はここに迎えに来るよ」
「わかった。じゃあ、明日な」
ジンたちと別れ、案内された家に入る。ユーリは入るなりソニアに顔を向けた。
「明日はソニアとクレアはここにいてくれ」
「……なんでよ」
「その鎧じゃ相手にバレる。クレアは連れてはいけないし、ジンとウィルバーさんも不在になるから、リーナさんの傍にいてほしい」
「……わかったわ」
「……ユーリさん」
「なんだい、クレア」
「リーナさんに、暖かいもの、つくったほうがいいかな」
「うん。そうしてあげて。クレアはいい子だな」
ユーリはついクレアの頭を撫でてしまった。そんな年でもないだろうに。
「あ、すまない」
「……ううん。ユーリさんの手、ごつごつしてるね」
「……」
ソニアは二人を優しい表情で見守っていた。
(気の沈むことばかりじゃないわね。この子たちのために、私のできることをしないと)
その夜は、仕切りをせずに眠りについた。翌朝、クレアがユーリの隣に寝かされていることはなかった。
(……いい匂い)
ユーリが起き上がり、外に出るとソニアとクレアがスープを作っていた。
「おはよう。干し肉と芋を分けてもらったから、つくってみたわ。……味を見てくれる?」
「……うまい。香味を加えられれば、店が出せるな」
「褒めすぎよ!」
といいつつ、ソニアは嬉しそうだ。
「お母さん、まだ煮るの?」
「まだ煮るわよ~。リーナさんが食べやすいようにしないとね」
匂いにつられたわけではないだろうが、ジンとウィルバーがやってきた。
「迎えに行こうと思ったのに」
「この匂い、我慢できるわけねぇだろ」
「これから頑張る人たちのために作ったからね。どんどん食べてね!あ、でもリーナさんの分は残してね」
「ありがたく頂こう。この礼は必ず」
ウィルバーは自分の分もそこそこにスープをよそって足早に家に戻っていった。
「俺も親父もまともに料理できねぇからな。助かったぜ。毎日他に頼むわけにもいかねーし」
ジンは2杯平らげた。
「ウィルバーさんが戻ってきたら出発しよう。武器の調子は?」
「問題ない」
「目的は拠点の発見だけど、何が起こるかはわからない。用心して行こう」
「ああ」
しばらくしてウィルバーが戻って来る。
「妻が、おいしかった、と」
「まあ、よかったわ」
「みなさん、帰ってきてくださいね」
「おう!」
クレア、ソニア、村長たち村の者に見送られて、ユーリ、ジン、ウィルバーの三名は川沿いを歩んで行く……。
(……宝の山、だな)
川沿いを歩くユーリは、賊の手がかりを探すため周囲を見渡しながら歩いている。しかし、商人のサガというもので、売り物になりそうなものに目を奪われてしまう。
(いかん、今は手がかりを探さないと)
しかし、どうしても川沿いに生えている植物が気になる。祖父の手記にある香草と特徴が似ているのだ。
「!」
しかし、そのおかげで川に浮かぶ魚捕りの罠籠を見つけることができた。
「ジン、ウィルバーさん。あれはファーレン村のものか?」
ユーリが二人に尋ねる。この辺では魚を捕っていないとの返事だ。
「それじゃ、あれは」
「賊のかも、しれんな」
「……どうする?待ち伏せするか?」
まだ朝早い時間だ。回収にくる可能性が高い。賊がやってきた場合の想定をし、どうするかの方針を相談し、待ち伏せを行うことにした。
しばらく待つ。
「……」
茂みが動く。
「! ……当たりだ……!」
賊と思われる男が現れ、罠籠を覗き込んでいる。そして引き上げた。獲物は入っていたらしい。
「追うぞ」
細心の注意を払いながら、三人は賊の後を追う。すぐ近くに拓けた場所があり、奪ったと思われる幌車が四台並んでいた。
「あれがアジトか」
ジンが背負った斧の柄をいじっている。なにかあればそのまま飛び出してしまいそうだ。
(周りにはまだ見当たらないな)
アジトの近くだ。こちらが逆に着けられている場合も有りうるので、ユーリは後方を警戒していた。
(幌が四台、一台に五人が寝ていると仮定したら二十人。さすがに今は手が出せない)
やはり戻ってセレストの警備隊に討伐依頼を、と考えていたところで、別の賊がこちらに向かっているのが見えた。
「ジン、ウィルバーさん」
三人は息を殺して身を隠す。賊は狩りをしていたようで獲物を疲れた様子で背負っていた。こちらに気づく様子はない。
「あぁ、めんでぇな。でも、今日でこことはおさらばだ」
(おさらば……?)
ブツブツと独り言を言っているが、おさらば、という言葉が引っかかる。
(……!)
最悪の予想が浮かんだ。
「ジン、ウィルバーさん。あいつの口を塞ぐから、引き倒して引きずり込んで」
「え?」
返事を待たずにユーリは布を掴み、後ろから賊の口に突っ込んだ。
「?!」
そのまま背中から地面に倒す。足をジンが抑えた。
「おとなしくしろ」
ユーリは賊の喉元に刃物を当てる。ウィルバーが縄で拘束し、茂みに引きずり込んだ。
「はい、なら頷け。いいえ、なら頭を振れ。……わかるよな?」
賊は目を見開いて頷く。叫ばれても面倒なので布は外さなかった。
「村を襲うのか?」
頷いた。
「……今からか?」
少し間を置いて、頭を振った。
「……今夜?」
頷いた。
「そうか、どうする?こいつ」
ユーリがジンとウィルバーのほうを見る。二人とも頭を振った。賊が己の運命を悟り、身体をよじり暴れだす。
「……」
一思いに、賊の命を奪った。
「今夜、あいつらが動くなら警備隊に依頼しても間に合わない。みんなで逃げるか?」
ユーリは二人に尋ねる。
「おふくろは動かせねぇ。村で戦うか、ここで戦うかだ」
「……賊が二十人ほど、村で戦える者より多い。しかし、来ることがわかっているなら、まだなんとかなるかもしれん」
ジンとウィルバーの見解だ。ユーリにはまた新たな懸念が浮かぶ。
「村で迎え撃つなら、火をかけられた場合の被害が甚大だが」
「……今から帰って、水の準備をしておこう。消火は戦えない者に任せる」
「……それが一番いいか」
そうと決まれば村に戻って準備をしなければならない。三人は急いでその場を後にした。
(アレを使うときが来たか……)
ユーリは覚悟を決めた。




