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竜血琥珀と鐘守の商会  作者: ワタリヤ
3/15

ファーレン村への道にて

 翌朝、ユーリの寝床になぜかクレアも一緒に寝ていた。

 

(布や荷物で仕切っていたのに。寝相が悪いわけでもない。……ソニアか)


 フリント商会の三男であることは気付かれているのだろう。ただ、家出の身であることは話していない。


(早めに話しておいたほうがいいか)


 勘違いは早めに解消しておいたほうがいい、と思い寝たままの姿勢で部屋の様子を見回す。


(みんなまだ寝ているな)


 商人の朝は早い。ユーリも物心つく頃から朝早く起きて店の掃除や準備を手伝っていたものだ。


「んぅ……」


 クレアから寝息が漏れる。ここまで近くで顔を見たことはなかったかもしれない。


(……ふつうに、かわいい……)


 長くて艶のある睫毛、ほんのりと赤い頬、枕に広がる髪……。いまさらになってユーリはクレアと同衾していることを意識した。


(……みんなは、まだ寝てる……)


 邪な考えがユーリの頭をもたげてくる。が、寝返りをうったクレアの目が薄く開くのが見えた。


「……。おは―――」


「きゃああああ!」


 べちぃ!


「な、なんだ!?」


(……ジンが起きたか。それにしても見事な張手)


 この親にしてこの子ありとユーリは思うのだった。




「ごめんなさい、ユーリさん。お母さんが寝ぼけてたみたいで」


「ほんとーにごめんねー」


 朝食の席、クレアの謝る後ろでソニアも謝っていたが、ユーリにはソニアのガッツポーズが見えた。


(ジンを招き入れていて本当に良かった)


「それで、俺が薬を買ったら一緒に村に行く、でいいんだな?」


「ああ、ファーレンという村だったな」


 昨日の夕飯と今の朝食でお互いの話をしていたのだ。ユーリは家出していることも話した。


「え!?またなんで」


「いろいろあるのさ。修行であることは間違いではないし」


 ソニアは娘のクレアを嫁に行かせる気であっただろうが、これで考え直してくれるだろうか。


「まあ、これからも一緒にいることには変わりはないわ。そういえば、ファーレンってどんな村なのかしら?」


「俺みたいな木こりばかりだな。セレストに木を卸したり、家を建てて開拓者を迎える準備をしてる」


「……準備?」


「村長が役人でな。セレストみたいな町にしたいんだと。開拓地をどんどん広げていけってお偉いさんの命令らしい」


「気の長い話ねぇ」


「まぁ、他にやんなきゃいけないことはたくさんあると思う。薬屋もねぇし」


 ジンが不満を漏らす。


(……その不満を掬い取り、利益に結びつけるのが商人の役目だ)


 口には出さないものの、ユーリにとっては当面の目標ができた瞬間であった。




 薬屋に行き、ジンが薬を受け取った。丁寧にしまい込む。


「今回は多めに買えたから、ファーレンでの仕事に集中できるな」


「ほかに買い物は頼まれていないのか?食べ物とか」


 ユーリが尋ねた。


「食べる分だけならファーレンの近くで大丈夫なんだ。罠に獲物が掛かった日はごちそうの日なんだよ」


「森が近いなら他にもいろいろありそうだな」


「おう、木の実やはちみつもあるぜ」


「はちみつは売り物にしにくいからなぁ……」


「なんでなの?」


 クレアが会話に加わる。


 蝋燭の材料である蜜蝋や、糖分の塊であるはちみつはいわゆる戦略物資だ。それぞれの商会の縄張りの中ではちみつを売ろうとしても邪魔をされてしまう。モグリの巣箱が見つかれば燃やすことなどは当然のようにまかり通っていた。


 ―――ということをユーリは話す。


「世知辛い話よねぇ」


 ソニアも聞いたことはあるのだろうか。


「でも、ユーリが取り扱うならいいんじゃない?この辺はフリント商会の縄張りでしょ」


「……どうかなぁ」


 ユーリは自分のフリント商会での立場を考えるとあまり乗り気にはなれない。


「とりあえず、ファーレンに行こう」


 歩きながらなら、いい考えが浮かぶだろうかとユーリは切り替えることにした。




 ジンによるとファーレンはセレストから歩いて半日だそうだ。荷車を引かせたロバと一緒に林道を歩く。荷物を背負わなくていいので肩は楽だ。


「……」


 しかし昨日、賊に絡まれたこともあって周辺を警戒しながらの行進になる。生い茂る木々は待ち伏せにはちょうど良さそうに見える。


「もう少し歩いたら少し開けた場所がある。そこで休憩しよう」


 ジンの言う通り、開けた場所が見えてきた。煙が見える。誰か獲物でも焼いているのだろうか。


「……?」


 ユーリは違和感を感じる。炊事にしては煙の量が多いように思える。ジンやソニアも同じように感じたらしい。ソニアがクレアの手を強く握る。

 足を進めるユーリ達。そして、嫌な予感は的中していた。


「!」


 燃えていたのは荷車だった。そして、人が頭から血を流して倒れている。


「なんだ、おめぇら。次の獲物か」


 血濡れの斧を片手に座り込んでいた賊が立ち上がる。目の前には一人しかいないが……。


「ジン、多分……」


「ああ、周りにいるな」


「お母さん……」


「クレア、荷馬車の下にいなさい。母さんは傍にいるから」


「みんなぁ、やっちまえぇ!」


 賊が叫び声をあげ、ユーリ達に向かってくる!


「ちぃ!」


 ユーリは持っていた剣を投げつけた。避けられるが、避けたところをもう一本の剣で切りつけた。


「やるなぁ、ユーリ!」


 ジンの武器は斧だ。威力はあるが扱いづらいはずだが、ジンは軽々と振り回している。


「こ、こいつら!―――ぐわ!」


「つえぇ!」


「女を、舐めるな!」


 ソニアのほうも心配はないようだ。賊は五人だったようで、二人逃がしてしまった。


「……クレア、出てきていいわ」


「……」


 クレアは血だまりをみて顔を青くしている。火の粉は払う必要はあるが、クレアにはまだその覚悟を迫るのは酷だろう。


「ザックス……」


 すでにこと切れているであろう荷車の主を見てジンが呟く。


「……知り合いか?」


「……ああ……」


「……弔って、あげましょう」


 野犬がたむろするようになってもいけないので、賊たちは埋葬する。ザックスと呼ばれた男の亡骸を荷車に載せ、顔に布を掛けた。


「……」


 ファーレンに着くまで、一行は警戒を怠らず、一言もしゃべらなかった。


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