ユーリの祖父
朝食を終え、ユーリとジンは木材の納入と必要なものの買い付けに行くことになった。カルネも同道する。
「そういえば、外泊は大丈夫だったのか?」
警備隊の一員とはいえ、カルネも年頃の女性で、セレストでは名のあるガロード家の娘だ。今になってユーリはそのことが気になった。
「一泊するとは言っておいたから問題ないよ。ホースリーには出張所があって、泊まることもあるし。……それに、楽しかった」
カルネは笑顔で答えた。
「次はもう行って帰るだけになるのか?」
ジンが荷物を確認しながら質問する。
「そうだろうね。でも、それだと巡回時間を読まれやすいから、駐留することも考えないと」
(ファーレンが発展したら警備隊の出張所もできるのだろうな。……いつになるやら)
一行はセレストに向けて出発する。道中で、ユーリはケイスからの講義の内容をジンに伝えていた。
「あー……、親父なら知ってたかもしれねぇが。覚えきれねぇ」
「私もだ。説明は実物を見ながらだったから、言葉だけだとわけがわからん」
ケイスさんにジンに直接講義してもらった方がいいのだろうか、と考えているうちに、セレスト側からの警備隊と対面した。二人で巡回している。マールとヘンダールだ。
「やあ、お三方。今のところ平和で何よりだ。カルネは泊まっていったみたいだね。どうだった?」
「ふふ、楽しかったよ。いつもは一人だったからね。……ヘンダール、昨日あたしは賊と出くわしたよ。こちらを見るなり逃げていったけど」
「……了解。気を付けます」
気を引き締めた二人の警備隊員と別れ、ユーリ達は進む。
「そういえば、ユーリはいろいろ詳しいよね。商人の嗜みってヤツ?」
「実は香草の知識やタンポポ茶などはお爺様と母からの仕込みだよ。ほかにもお爺様について回って、いろいろ覚えたなぁ」
「へぇ。なんて名前なんだ?」
「ショー=ベルガードというんだ。母方の祖父で、昔はいろんなところを旅していたらしくて、物知りだったなぁ」
「ショー……? あまり聞かない響きだね」
「この辺の人じゃなかったんじゃないかって、思ってる。遠くから流れ付いてきて、ベルガード商会に婿入りしたって聞いたし」
今回は何事もなく、ユーリの祖父についての会話が弾む。日が暮れる前にセレストに到着した。
「ユーリが歩けば賊が出てくると思っていたよ」
「今回はカルネもいたからね。帰りは気を付ける」
「……冗談に聞こえねぇな……」
カルネと別れ、ケイスの店に木材を卸しに行く。改めて講義を聴くことになったが、二人とも頭を抱えるだけであった。
「……とりあえず、木の節をよけて、真っ直ぐな木材なら高く買ってやる。雨避けもしっかりしろよ!濡れてから乾くと、変な反り方するからな」
「お、おう。……わかっ、たぜ……」
「とりあえず、できることからやっていこう」
今回の木材の代金を受け取り、宿の安い部屋に泊まる。今回は誰にも絡まれなかった。
(一人だと絡まれやすいのかね、やっぱり)
ケイスの講義で知恵熱を出した二人はすぐに寝入ることとなった。
翌朝、ユーリとジンはソレイユ商店で朝食と、鶏のつがいとヤギを買いに向かう。うまそうなものが置いてあるけど、いつも素通りしていた、と言うジンはとてもうれしそうだ。
「おとといのチーズはうまかったぜ。他にもいろいろあるんだろ?」
「あまり余分なお金はないけど、せっかくだしね。必要なものを買ってからだけど」
ソレイユ商店に到着すると、やはり店主のソレイユが元気よく声掛けをしていた。
「おや、ユーリじゃないか!おはよ。隣は友達かい?あんたもよくこの店を見てたよね!」
「やっぱ、顔覚えられてるものなんだな」
「商人のサガだよ」
ジンはすこしばつが悪そうだ。
「それで、今日は何を買ってくれるんだい」
「鶏のつがいを一組。あとメスのヤギは買えるのかい」
「鶏はいいけど、ヤギはダメだね。ミルクをウチで買っとくれ」
そううまくはいかないか。ユーリは鶏のつがいを一組追加し、銀貨40枚を支払った。出発前に受け取ることにしてもらった。
「お待たせ、ジン。朝食買おうか」
「サンドイッチ食ってみてぇな」
「いいね。私もそれにしよう。あとヤギのミルクとはちみつだな」
「毎度!」
ヤギのミルクをジンと分ける。ユーリは飲まなかった。
「? 飲まないのか」
「警備隊の詰所で調理場を借りて、タンポポ茶のお茶会だ。カルネもいればちょうどいい」
「そういうことか」
「ソレイユさんにも飲んでもらおう」
警備隊の詰所はソレイユ商店から三軒隣だ。詰所に挨拶をして入る。グレットとほか数名が地図を広げて話し合いをしている。
「おお、ユーリか。昨日はカルネが世話になったようだな。楽しそうに話してくれたよ。しかし、賊はまだ出てくるようだな」
「まだまだお世話になりそうです。ところで、調理場をかしていただけませんか?ファーレン村で作ったお茶の試作品ですが、皆様に振舞いたいと思います」
「ほう。そういうことなら歓迎するよ。好きに使ってくれ」
ジンが手慣れた様子で火を着け、お湯を沸かす。ユーリがタンポポの根のチップを炒り直す。香ばしい香りが詰所の中に広がる。
「これは何かな?」
「まずは飲んでいただいてから、ですね。そのままと、はちみつ入り、ミルク入り、はちみつとミルク入りの感想をいただきたいです」
一度炒ってあるものだから、香りが出てきたところでお湯に入れる。茶色い液体をカップに注ぎ、そのままのもの、はちみつ入り、ミルク入り、はちみつとミルク入りのタンポポ茶をつくった。
「おはよ~、みんな。おや、ユーリとジン」
「よお、カルネ。昨日のリベンジだってよ」
カルネが出勤してきた。ちょうどいいタイミングだ。
「お、ミルクとはちみつだね。飲んでいい?」
「おかわりはあるから、どうぞ。私はソレイユさんに持っていくよ」
ユーリは4種類のタンポポ茶を盆に乗せてソレイユ商店まで持って行った。
「ソレイユさん」
「おや、ユーリ。どうしたんだい? ……いい香りするね。もしかして、あんた達の売り物かい」
「はい、味見をしてもらえますか。まずは何も入っていないものから、……どうぞ」
「……ふぅん。ハーブティーみたいなものかね。あとはもしかして、さっきのはちみつとミルクが入ってる?」
ソレイユはそれぞれ少しずつ、舌で転がすように味わっていく。
「あたしはミルク入りがいいかな。ただ、これは薬茶をさらに炒ったもので、はちみつやミルクを加えると相応の値段になるよね……」
そういう問題もある。大量に作れるわけでもないから、単価は高くなりがちだ。作る前に炒った方がいいから、燃料もばかにならない。
「申し訳ないけど、今のウチじゃ扱えないね。これを出す店があれば通いたいところだけどね」
「いえ、参考になりました」
(今の、か)
炒り直しの手間を省き、香りを飛ばさない工夫ができればいいのだが、それはまた価格に上乗せしなければならない。
「でも、頭がすっきりしたよ!次飲ませてくれたらお金払うわね!」
「……ありがとうございます!」
少し萎えていたユーリだったが、ソレイユの率直な評価になんとか持ち直した。
空のカップを落とさないように気をつけながら、警備隊の詰所に戻る。……ジンが鍋でタンポポ茶を炒っていた。
「お、ユーリ。なかなか評判よかったぜ。これの分についてはグレットが払うから、値段教えてくれってよ」
「残りを買い上げるから、あたしにも値段教えてね」
カルネも乗り気だ。自分の考えた商品をお金を出して買う、と言ってくれる人物がいることに、ユーリは無情の喜びを感じる。
「……毎度!」
今回は試飲と言うことで、銀貨1枚にミルクとはちみつ代を上乗せしてもらうことにした。もろもろを考えれば赤字だ。しかし、種を蒔かねば収穫はできないものだ。
「次からはいくらになりそう?」
「……その量で銀貨3枚は欲しい」
「うーん、それだと悩むね……」
まだまだ改善しないといけないことばかりだ。
今日中にファーレン村に帰りつかなければならないので、ユーリ達はソレイユから鶏のつがいを受け取り、セレストを発つ。今回も警備隊員がユーリ達に合わせて着いてきてくれるようだ。
「まあ、下心あるんだけどね。ファーレンに着いたら、またタンポポ茶を用意してくれないだろうか」
ヘンダールはすっかり気に入ってくれたようだ。
「こちらもそれで安全が確保できるなら安いものです」
道中では視線を感じたが、ヘンダールが付いてきていることもあって絡まれることはなかった。
到着後、タンポポの根を刻み、炒ってからヘンダールに振舞う。ミルクはないので、はちみつだけだ。ソニアとクレアにも振舞った。
「うん、やっぱりミルクだな」
「俺ははちみつとミルク」
「……そんなにミルク入りは美味しかったの?ヤギが売ってもらえなかったのは残念ね」
「……おいしい」
どうにかしてミルクをファーレン村でも手に入れたいものだとユーリは強く思った。
(……幻獣山脈に、ヤギいないかな……。そろそろ足を延ばしてみようか)




