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ノブリスオブリージュ  作者: RFSGN
6/6

ランク試験当日

クラス代表戦を終えた次の日、ついにランク試験の日が来てしまった。

その日は外の音で起き、部屋の暗さですぐに気がついたが、残念な事に今日の空模様は雨なようだ。

(これはどうにも嫌な予感がするぞ。もう面倒ごとはとうぶん勘弁してほしいのだが……)

そんな起きて早々体を伸ばしつつネガティブな思考をしていると、

「アーちゃん、起きてるー?ご飯できたよー」

1階のキッチンからノヴェルの呼び声と、フライパンで何かを焼く音が聞こえて来る。

「分かったーすぐ行くー」

俺はそう答えて着替えを済ませ、鞄や教材その他忘れ物がないかチェックしてから自室を出た。

1階のリビングに行くと、もうすでにテーブルの上にはパンの上に目玉焼きとベーコンを乗せたノヴェル自慢の朝ごはんがあった。朝飯だけは俺が朝に弱いため、こうしてノヴェルが作ってくれているのだ。

「アーちゃん、食べたらお弁当の作るの任せていい?キャナルを起こしてくるから」

「分かった、早く行って起こして来てくれ、さすがに今日は早めに着いて起きたいからな」

ランク試験当日とだけあって、昨日や一昨日のようにギリギリでの登校は勘弁したいところだ。

(寝坊助のキャナルをノヴェルが起こしに行って戻ってくるのが大体20分、用意も全て終えて家を出るまでもう20分といったところか……今日は雨だし早めに出た方がいいだろうな)

俺だけ先に朝ご飯を済ませ、台所で弁当の準備にかかる。

帝国は魔術大国なだけあって冷蔵庫などのものは、魔術結晶に魔力を充電しておく事で恒久的に動かす事が出来る。しかしキャナルが持っていたカメラもそうだが、仕組みが難し過ぎて一度壊れると専用の業者に頼むしか直せないといのが唯一不便なところではあった。

冷蔵庫を開き弁当に昨日の夕食の残りを入れ、あとはノヴェルが炊いておいてくれたご飯でおにぎりを作り、野菜を少し切って入れれば弁当は完成だ。今日の午後はいつもより激しく動くだろうと思い、おにぎりはいつもより1個多くしておいた。

弁当を3人分作り終えると、ちょうど2人も降りてきた。

「ほい弁当、ここにおいておくから忘れるなよ」

「ありがとアーちゃん、ほらキャナル、パパッと食べて顔洗ってきて!」

「う~ん、ああ飯か、おはよう~アデル、そしてお休み~」

「お休みじゃない!もう何度起きて寝てを繰り返すつもりよ!先に顔洗って来なさい‼︎」

席に着くなり、テーブルで再度眠り出すキャナルをノヴェルがしかりつける。

いつもの騒々しい朝だが、俺はこの光景が結構好きなので2人を傍観して楽しんでいると、俺もノヴェルに怒られてしまった。

「アーちゃんも眺めてないで手伝ってよ!」

「分かったよ。ほらキャナル起きろ、そろそろ起きないと遅刻だぞ?」

まだ時間的には余裕があったが、こうでもしないとキャナルは起きないため嘘をつくのが正解だ。

「何、遅刻~?はあ~仕方ない」

とてつもなく眠そうながらも起き上がり、顔を洗いに洗面所に向かって行く。

「もう、本当に世話がやけるんだから………」

「まあ今に始まった事じゃないだろ?」

昔からキャナルと俺は寝坊助なのだったので、同じ朝寝坊のよしみで弁護したのだが、

「でもキャナル、訓練生時代はちゃんと起きてたんだよ?なんで前出来たのに今出来ないのか、怠けてるとしか思えないよ」

どうやらノヴェルは寝坊助な所を言っているのではなく、心持ちの話をしていたようだ。

「まあ、今は訓練生時代みたく気を張らずに済むからってのもあるんじゃないか?少しくらい大目に見てやってくれよ。俺だって朝は苦手なんだから」

「はあ~アーちゃんは甘すぎだよ。アリシアさんに頼んでもっとシゴいて貰おうかな?」

ノヴェルが物騒な事を言い出したので、ノヴェルの機嫌とりに移る事にした。何気にこの2人の機嫌取りが俺の生活に直結するので、やっておいて損はない。

「ノヴェルももっと気を抜いていいぞ?いつもいろいろやってくれて助かってるし、明日の休みにはこないだ先生から貰ったスイーツバイキング行ってきなよ。家の事は俺がやっとくから」

「本当‼︎じゃあアリシアさんも誘ってアーちゃんにも来て貰おうかな!家の事は2人でやれば午前中には終わるだろうし、よしそうと決まれば学校に行ったらさっそくアリシアさんをお誘いしなくちゃ!」

俺の目論見通り、ノヴェルの機嫌が戻った。俺も行くことになったのは若干ミスったが、まあこれでアリシアの訓練がこれ以上酷くなることは免れた。

(良かったあ〜あれ以上厳しくなったらマジで廃人になってしまう)

「まあいいか俺も暇だし、着いて行くよ。アリシアとの交流会第2回もする予定だったし」

「そうね!あー楽しみ~あの店のスイーツってここに来る前から食べたいと思ってチェックしてたんだよー、キャナルに知らせてくるね!あの子洗面所で寝ちゃってるかもしれないから、この事を聞けばすぐに起きると思うから!」

洗面所で寝る?一体どうすればそんな事が出来るのだろうか?そう不可解に思うのだが、びっくりな事に実際に出来るのがキャナルだった。

キャナルは立ったまま寝れる才能を持っており、訓練生時代のキャンプでどこでも寝れる技術を身につけてしまい床や階段、ソファーやテーブル、うちの家で寝れない場所はないため、見張っていないと眠りこけてしまうのだ。俺もついこの間階段で寝こけているあいつを見た時は目を疑ったものだ。どうしたらあんなに幅の狭い階段で寝れるのか理解できない。

それでも人間とは慣れる生き物で、ノヴェルの言葉に驚く事もなく支度を進めて行く。

「よろしく、じゃあ俺は食器をかたずけておくから朝飯はキャナルの分は包んでおくから出るとき持たせよう」

こうして雨宮家の朝の慌ただしい時間は過ぎて行った。


学校に着き教室に入ると、試験の日とあって皆どこか緊張した面持ちで先生が来るのを待っていた。

「なんか重苦しい雰囲気だね〜」

「そりゃ大事な試験だからな、今回は初めてだからってのもあるだろうし、何より怪我人が出るって悪名高きランク試験だ。誰だって少しはビビるだろ」

ノヴェルの呟きに思いつく理由を答える。

「そういうお前はどうなんだよアデル?緊張してないのか?」

「少しはな、でも落第もないし午前中は測定だけなんだろ?今の内からビビってたんじゃ今日一保たないだろうからな。何事も平静が大事だ」

「お前、本当にアデルか?ちょっと前までならあの辺と同じ反応だっただろう」

そう言ってキャナルは顔を真っ青にしたダキアとライルを指差した。彼らは唇を噛み締め周りをキョロキョロと見回し、全く落ち着いて居られないと行った様子は、何かに怯えている小動物を思わせる。

「いや、そこまで酷くはないだろう?」

さすがにあれ程狼狽はしないと抗議したのだが、

「アーちゃん、大丈夫?ここ2日で色々巻き込まれて感覚が麻痺したりとかしてない?」

別の方向に心配されてしまった。

「そんなに俺って情けなく見られてたのか……」

言われたのが1番近しい2人なために負ったダメージは深刻だった。しかし俺の不幸はこれだけでは終わらず、追い討ちをかけてくる奴がいた。

「あら、自覚がなかったのね。昨日の5,6限の私との訓練時だって、一合目でヘッピリ腰になっていたじゃない。最後の方なんて、逃げることしか出来ていなくて、私はあなたの使え無さを心底実感したわ」

後ろから聞こえたが誰の言葉かは言わずもがな、アリシアだ。

透き通る様な声で罵倒を浴びせてき、何もかもを見透かした様な目で人を凍らせる事が出来る。我がクラスのクラス代表にして、俺のペアであり、ノヴェルとキャナルに心配されてしまうほどもう色々と慣れつつある俺を作り上げた、種悪の根源にして元凶。

(もうこいつがラスボスで良くない?俺ぴったりだと思うんだけど?)

こう思ってしまうくらいには、もうすでに俺はこいつに苦しめられていた。

半眼で振り返りつつ声の主に言い返した。

「おい、魔剣に木刀で挑んで何をしろと言うんだお前は、たった一合打ち合っただけで魔力強化してたのにへし折れるなんて、どんな破壊力してるんだよ………」

昨日の5,6限は、ペア同士での模擬戦を行うこととなった。

大体皆んな、使える術や武器の見せ合いで真面目にやる奴なんていなかったのだが、このアリシアは俺の武器強化魔術が弱いと言い出して本気の模擬戦をやりだした。もちろんやるとなれば真面目にやる俺は、言われた通り木刀に魔力強化を全力で付与して構えたのだが、このバカは何をトチ狂ったか自前の武器である魔剣を持ち出してきた。まあ百歩譲ってここまではまだ許せるとして、武器の性能を解除しているなんざ知らずに打ち合い、木刀はへし折られ、俺はそのまま吹っ飛ばされた。

自分の体が意志と反して宙に浮く感覚は到底慣れるものではなく、その恐怖と武器が無くなった事から俺は逃げの一手に変更したのが、昨日の全容だ。

その時、薄情なクラスの連中は俺がもう一回空を舞うか逃げ切るかで賭けなんぞしだし、遂には遊び半分でユリアーノ先生もアリシア側について攻撃魔術を撃ってきて参加しだし、俺は大変な目にあったものだ。軽く10回は宙を舞ったのは覚えている。

「あなたの武器強化の強度弱いから悪いんじゃないの、私は責められるいわれはないと思うけれど?」

「魔剣の魔術解放しといてよく言えたな……」

S級以上の特殊な武装の中には、解放状態というものがあり、これは武器に備わって魔術を解放する事から魔術解放という。これには単純に魔術の威力や刃の切れ味が上がるなどだけでなく、武器そのものの重量が変わったり、形が変わる様なものもあるらしいく実戦であればかなりの脅威だ。

ただでさえ等級すらない訓練用の木刀とS級相当の魔剣が相手と無茶なのだ。それなのに魔術解放もされたらどうしようもない。

アリシアもそれくらいわかっているはずなのだが………

「当たり前じゃない、あなたが私の魔剣の解放状態を見たいと言ったから、わざわざやってあげたのよ?むしろ感謝してほしいものだわ」

全く悪びれた様子もなく、当たり前と言われてしまった。だが俺にそんな事を言った記憶はない。

「あの~いつ俺がそんな事を?」

「あら、昨日の5,6限はペア同士の実力や得意魔術、武器の性能を見せ合うものだったのよ?聞いていなかったの?」

(うん、いや知ってたよ?……それどころか俺始めにそう言ったはずだよね?……)

すごくこうツッコミたかったが……こいつ相手にツッコミしていたらきりがないので、

「待て、そうやって可愛く首を傾げてボケてもダメだ。俺は魔術解放を見せてくれとまでは言ってない。それにもしお前のいう通りなら俺だって自前の武器を使えたはずだが?」

今回は理屈っぽく反論して行く路線で攻めてみた。

「あなたの意見なんてどうでもいいわ。私は授業通りにしただけよ」

「ほう、ならなんでお前は俺が宙を舞った時に、ち、浅かったかしら、まだ生きているのね残念だわって言ってたんだよ!その後も人の首ばっかり狙って来やがって、そんなに俺を殺したいのか?‼︎」

しっかり昨日の事は覚えていたので、嫌味も込めて声真似までして再現してやったが、

「あなたに真似をされると心底気持ち悪いわね………それにそんな細かい事まで覚えているなんて、あなた男性にしては女々しいわよ?私はそんな人間は殺す気でやらなければ改善しないと思うの、ほらやはり私が正しかったわね」

ゴミを見るような目で3歩ほど後ずさり言い返してきた。

(……いい笑顔で何言ってんだこいつ………)

俺は任務や暗殺者なんかより、こいつに殺られそうで気が気でならない。さらに必死になって逃げまわった結果、無駄に胆力がついてしまったのも計算外だ。

「もういいや、お前相手に朝から喚いて体力を使うのは今日は特にやめといた方が良さそうだ」

「あら、あなたにしてはマシな判断が出来るじゃない。いつもそれくらいの心持ちでいることね、冷静じゃない味方なんて敵と同じよ?」

アリシアがまた俺を挑発して来て咄嗟に噛みつきそうになるが、逆に睨み返され氷漬けにされそうになった。(心が)

「あはは、朝から元気で仲がいいのね~」(苦笑い)

「はあ、これはまだまだ時間がかかりそうだ」(ため息)

横で見ていたキャナルとノヴェルは、今の俺たちの会話を聞いて肩を落としていた。

そうやってアリシアと少々騒いだ結果緊張などなくなっており、ユリアーノ先生が入って来る頃にはいつもの調子に戻っていたのは唯一、益になった。

「は〜い、では今から測定を始めるので女子は保健室、男子は訓練場に向かって下さい~」

男女別に分けられ始まった測定では、普通の基礎体力測定とあまり変わらずすぐに終わっていく。

最後の測定は魔力量測定なのでその列に並んでいると、後ろに並んでいたダキアが話しかけてきた。

「なあ雨宮、お前ノヴェルさんやキャナルさんと仲がいいのは分かるけどよー。アリシアさんまで持っていくのは、どうかと思うぜー?」

訂正しよう。話しかけられたのではなく、正確には絡まれただ。

「アリシアは別にペアなだけだぞ?それとこれは忠告だが、ノヴェルとキャナルを狙うなら恥をかくことになるからやめておけ、アリシアを狙うのは構わんが、どうなっても知らんぞ?」

「え、なになに面白ろそうな話してるんじゃん俺らも混ぜてくれよ」

女子の話となると耳ざとく、1-2のバカどもは集まり出してしまう。

「俺は別になにもしてないぞ?先生の件だって納得してたじゃないか?」

面倒な事を言われる前に釘を刺したのだが、

「確かに納得はしたが、許せるわけじゃなーい!」

「「そうだそうだ!」」

「2人も可愛い従者がいるんだ!アリシアさんからは手を引けー!」

このあいだのゴルドー戦の時に、叫んでいたアリシア派が騒ぎ出した。

「何をいう!ノヴェルさんとキャナルさんこそ我がクラスの女神様だ!」

メガネをかけた普段は目立たない奴が今度は何やら叫び返す。

「ユリアーノ先生だって美人でいいじゃないか!同年代ばかりに目を向けて、お姉さんの良さが分からん若輩者どもめ!」

さらにそれらに呼応する様に第3の勢力が出てくる。

アリシア派は知っていたがいつの間にか派閥が増えており、1-2だけでなく他クラスまで参加する事態にまで発展していた。

「俺はこいつらを纏めて行かなきゃならんのか………」

(ノヴェルとキャナルは従者で仕方ないし、その上アリシアはペアだし放ったらかしにするわけにもいかない、ユリアーノ先生はまあ自分でどうにかしてくれるでしょう。とりあえず放置でいいか……)

兎に角俺の周りの女性陣は男子生徒には人気で、それを俺が独占していると思っているらしい。しかし残念なことにアリシア達を放ったらかしにしたら俺は殺されかけないし、逆に仲良くしたら次はこいつらに吊るされてしまう危険もある。さらに悪い事にここまでヒートアップしている男子生徒の暴走を放っておくと今度は先生達にクラス代表の立場という事で怒られる可能性がある。

なかなか面倒な状況の中どれを優先するべきか考えると、先生達の次にアリシア達で男子連中は最下位となったのでとりあえずこの場を収める事にした。

「おーい、お前ら少し静かにしろ〜じゃないと今名前がでた女性陣にチクるぞ?」

今のこの状況と会話の内容の中心人物達の事を使うのが1番有効と判断した。

((ササ!))

蜘蛛の子が散っていくかの如く一瞬で全員が列を形成し直す、予想以上の効果だ。

「よし、これなら何とかなるかもな」

なかなかいい手を思いついたと記憶しつつ俺も前を向き直ったのだが、明らかに先程の友好的な絡み方ではなく、殺意のこもった声で真後ろのダキアからこんな事を言われてしまった。

「いい気になるんじゃねーぞ?雨宮………お前は今俺達男子連合を敵に回した。月のない夜道には気をつけな、俺達はいつもお前を狙っているぞ。……」

背筋にいくつもの視線?いや殺気を感じる。

俺の指示に従い列に並び直した連中を見ると、全員が全員笑顔で俺を見ていた。

ただし、首を掻っ切る動作をしていたのはご愛嬌だろうか?………

「次の人~」

一瞬で静かになった訓練場に魔力測定の係の人が呼ぶ声がよく通る。ついでに測定の説明と測定値をあげるためのアドバイスまでしてくれていた。

(俺の犠牲で仕事がやりやすくなったようで何よりだな………)

「はい、ここに手をかざして全力で魔力を込めて下さい。その際大きな声を出すと測定値が上がることがあるのでやってみてもいいですよ?」

次の生徒であるライルが測定のために装置に手をかざし、アドバイス通り魂の叫びと共に、魔力を全開で出力する。そしてこの日最悪の予期せぬことが起こった。


「雨宮に不幸を!!!!!!!!ーーーーーーーーーー」

「「雨宮に不幸を!!!!!!!!ーーーーーーーーーー」」


ライルが魂の叫びを出し、周りの男子生徒達がそれに呼応していた。


それからというもの1-2の生徒は皆、いや、この場にいる全男子生徒が俺への罵倒と共に全力で測定を行った。測定の度に訓練場が揺れているような錯覚に陥る程の音圧を作り、そして叫び声に男子連合のバカどもが後に続く。

後にライルのこの叫びは男子連合の合言葉となったのは、もはや必然だと言えるかもしれない。

そんな超アウェーな状況の中、俺が測定する時が来た。

さっきまでうるさかった訓練場がいきなり静かになり、俺の測定が終わると同時に凄まじいブーイングの嵐に見舞われてしまったのもまた必然なのだろう。おかげでこの時俺は、四面楚歌という状況を身を持って体験したのだった。


測定が終わり1-2男子全員が教室に戻ると、少し遅れて女子達も戻って来た。しかしどう言うわけか、俺を見ると笑う輩が多数見受けられる。

例に漏れずノヴェルもキャナルも俺の隣に来ると笑っており、アリシアまでもが笑いを堪えて顔を背けていた。

「おいお前ら、何で俺を見て笑うんだよ?何かついてるのか?」

3人の見たこともないような反応に、たまらず何事かと聞いてみると、

「ああ、ぷぷ、お前を見るとさっきのアレを思い出してな」

「アーちゃん、可哀想、ぷふ、だけどごめんね、笑いが止まらないよ、ふふ、ふふふ」

「あなた、凄まじいわ、はあはあ、最高よ、はあはあ、ぷ、もうダメ、私耐えられないわ。あははは」

3人とも堪え切れず笑い出した。驚く事に1番笑っているのはアリシアだった。いつもの鉄仮面はどこへ行ったのだろうか?

「アリシアが笑い死にかけているだと?!……本当にどうしたんだよ?……」

女性陣の異常な反応を見て困惑した俺がフリーズしていると、

「さっき保健室で測定を行っている時に、お猿さん達の大合唱が聞こえてきたん出すのよ」

この異常な状態の中に、唯一ノーマルなクレアが呆れ顔で教えてくれた。

「まさか、あの四面楚歌が保健室まで聞こえたのか!?」

ノヴェルとキャナルを始め女性陣が爆笑し出し、男子生徒は居た堪れない様子で顔を隠した。

「どうだろう?あの叫びは保健室だけじゃなくて、全校生徒に聞こえたんじゃない?」

「よかったなアデル、これでお前の名前は恐らく1年では最も有名になったぞ」

「いいわ最高よ、本当に素晴らしいと思うわ。ここまで笑ったのは久しぶりだわ」

(これはヤバイな……全校生徒に聞かれるのはまだしも、教職員にまで聞かれたとなったら俺に何か責任問題や疑いが掛けられてしまう可能性が低くないぞ……)

このまま笑い話で終わってくれることを願いつつ、4限のチャイムが終わるのを待っていたのだが、悪い俺の予感はよく当たるもので、校内放送が流れ出した。

「あー1-2雨宮・アデル・バンガード君至急教務課まで来なさい。校長先生とユリアーノ先生がお待ちです。繰り返します、至急教務課まで来なさい」

「「……………」」

沈黙を守っていながらもクラス全員の視線が俺に集まっていた。

予想通りの呼び出し、しかし校長までも出てくる事になってしまったのは予想外だった。

無言のまま憐れみのこもった視線を浴びながら教室を後にし、俺は気の毒に思ったノヴェルとキャナル、俺の不幸を楽しみついて来たアリシア、合わせて3人に付き添われ教務課へ向かったのだった。

クラスの方は女性陣をクレアが収めてくれて、男子のバカどもは全校生徒に聞かれたと恥ずかしさと、これからの処分の恐ろしさに縮こまっていたので、さすがにこれ以上問題は起こすことはないだろう。

しかし処分が怖いのは俺も同じで、教務課に向かって動かす足はまるで金属の塊になったかのように重たかった。

「なあ……俺ってそんなに悪いことしたかな?………そろそろ体より先に心が折れそうなんだけど?」

少しでも気を紛らわそうと、移動中3人に尋ねたが、

「したからこういうことになるんじゃない、その女好きもいい加減にしろと言うことよ」

「アーちゃん、大丈夫だよ。何とかなるって!そりゃー今は嫌われてるかしれないけど、私達はアーちゃんの味方だよ!」

「アデルはついにクラスだけでなく、全校の有名人になったか。私も鼻が高いぞ」

アリシアからは罵声、ノヴェルからは励まし、キャナルからは称賛と三者三様の返しが来た。しかしよくよく考えてみると、

(そうだ、元はと言えばこいつらが原因だったな………原因に聞いても答えが出るわけないか……)

全くの他人事でさっぱりしている3人に、さすがの俺の心も疲労しきってしまった。

それでも現実という奴は残酷で、校長面談という心底精神力を削るイベントまで発生させやがった。

今日はまだ午後に大事なランク試験があるというのに、昼休み前に心労で死ぬかもしれない…………

付き添いの3人には教務課前で待っていて貰い、心労から重度の寝不足患者の様に目を曇らせながら教務課の扉に前に立ちユリアーノ先生を訪ねる。

「失礼します。1-2雨宮・アデル・バンガード只今参りました。お手数をかけして申し訳ありませんが、ユリアーノ先生をお呼びして貰えるでしょうか?」

声ははきはきと言葉を喋り、極めて相手に失礼がないよう心掛けながら、少しでも印象を良くしようと努力したつもりの挨拶だったが、事務員の先生が呼び出すより先に、ユリアーノ先生が手を挙げ俺を呼んでいた。

「はーい雨宮君~こっちですよ~」

微笑み混じりでユリアーノ先生は迎えてくれており、何やら怒られる雰囲気ではなかった。

(あれ?先生あんまり怒ってない?)

こう思って油断したのが悪かった。

俺が気を緩めた瞬間、ユリアーノ先生以外の教務課にいらっしゃった先生方全員に怒りオーラ全開で睨まれた。あまりの圧に一瞬心臓が止まったかと勘違いする程皆様お怒りのようだ。

(さすが元軍人や高官の集まり、男子連合の奴らとは格が違う。殺意を怒気が凌駕している)

迫力ある圧を感じながら再び緊張の糸で自分を縛り、背中に冷や汗をかきながらユリアーノ先生の後を肩を縮めてついて行く。

そんな俺の姿が可哀想に思ってくれたのか、ユリアーノ先生が話しかけてくれたが、

「雨宮君もさっそく大変みたいですね~入学3日目で全校生徒に知られる有名人になっちゃうなんて~やっぱりオモチャとして申し分ないです~」

(はあ…そんなトランペットの入ったガラスケースを覗く男の子のような顔で俺を見ないで欲しい……)

この先生も優しさではなく、面白さに乗る人だったと思い出しつつ殊勝な態度のまま後ろに続いた。

教務課を抜け扉を一つ潜ると長い廊下に出る、幅は人が2人ギリギリ通れるくらいの狭さだ。その先には扉がもう一つあり、その扉の枠組みには校長室と書かれてあった。

「校長先生、ユリアーノです。雨宮君をお連れしました。」

「お待ちしてました。入室を許可します。」

入学式で聞いた少ししわがれた声を聞き、ユリアーノ先生が扉に手を掛け俺に入るよう促してくる。

先に入室にお辞儀を一回、その後ユリアーノ先生が扉を閉めた頃合で自分も挨拶を行う。

「1-2雨宮・アデル・バンガード只今参りました」

その俺の声を聞き、椅子を窓側に向けて座っている初老の女性が振り返り、目が合った。

「ようこそ校長室へ、さっそくですが雨宮さんあなたにお聞きしたいことがあります」

単刀直入に強い口調で言われ、無意識の内に背筋が伸びる。そしてそんな状況の俺は、中今後の展開を予想しているのは自己防衛の習性からだろうか?

(はあ~やっぱり聞こえてたんですね~怒ってますよね~事情聴取ってやつですよね~)

どう考えてもこれしか思い当たる理由がないので考えるのを後にし、なけなしの精神力を振り絞って覚悟を決め、校長の次の言葉を待った。

「ニシル・ゴルドーとマルレ・ウィルトールの所在について何か知っていることはありませんか?」

だが校長の言葉は俺が予想していたものとは違い、不穏な音を伴っていた。


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