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隣の席のイケメンお姫様  作者: 井邑ハイリ
4/5

その後、相変わらず客寄せパンダよろしく人の視線にさらされつつ、放課後のことを考えているとあっという間に放課後、約束の時間になった。

「健闘を祈る!」「頑張って、無茶しないでね」と円香と美嘉から背中を押され食堂に向かおうとエレベーターを待っていると、肩をぽん、と叩かれた。


「よう。お疲れさん。珍しいな、江藤と新海はどうしたん?」


「あ、石塚か。私はちょっと別の子と約束があるから」


正直、あの後のLINEでも一連の事件を茶化すようなことを言ってくる石塚に、ちょっとイライラしていたので、どうしても投げやりな態度になってしまう。でも、全部私が悪い訳じゃないし、本人気づいてなさそうだからいいよね。

自分の中で自己完結して、ようやく来たエレベーターに乗り込む。

そこで、石塚は衝撃の一言を発した。


「なぁ、俺さ、例のツイッターの犯人知ってるで」


「え?」


思考停止。こいつなんて言った?


「だからお前をナイト様とか久野のこと姫とか言うて拡散した犯人、知ってるって」


石塚の言葉が終わると、ちょうど食堂のある2階に着いてエレベーターが止まる。

私が降りると、石塚もそのまま一緒に降りたが、そのまま食堂には入らず、ちょうど周りから死角になる空間へ収まる。


「で、その犯人は誰なん?」


私の問いにゆっくりと石塚が口を開いた。


「江藤」


「、、、円香が? う、嘘やろ?! 円香な訳ないやん、冗談きついわ〜」


「嘘ちゃうよ」


その時、ちょうど後ろから聞き覚えのある凛とした声が聞こえた。

慌てて振り返ると、さっき別れたはずの円香が俯きがちに立っている。


「円香、、、、、、そんな、なんでなん?」


動揺が大き過ぎて、掠れた小さな声で搾り出すように円香に問いかける。

すると、円香はすっと顔を上げ、ぎこちない歪んだ笑みを浮かべた。


「だって、私はずっとずっと優貴が好きやったんやもん」


「そんなん、私やって円香のこと「ちゃうねん!!」え?」


私の言葉を遮る円香の悲痛な叫び声に、私は思わず口をつぐむ。そのまま円香は言葉を続ける。


「私は高校の時から優貴のこと、恋愛感情で好きやったんや。高校の頃は良かった。周りは女の子ばっかで、部活もあったし恋愛なんてする暇なかったし。なのに、大学入ったら周りに男がいっぱいおって、不安やったけど、一回生の時は人見知り発動しまくって男子には関わろうともせんから安心してた。なのに、だんだん石塚とか、久野君とか優貴は男といっぱい関わるようになっていって、不安やったんよ。そんな時、たまたま用事はよ終わって、優貴と一緒の電車に乗れたから声かけようとしたら、優貴が久野君を助けた。気づいたらその様子を写真に治めてた」


「そんな、、、、、、」


呆然と立ち尽くす私を見て、円香は自嘲気味に笑みをこぼす。


「ごめんな。私もずっと優貴とは綺麗な関係で、綺麗な感情でいたかった。でも、たまらんくなったんよ。2人が別の車両に行ってもうて、その背中がまるで私から逃げてるみたいに見えてもうて。で、そしたらな、たまたまおった石塚が言うてん。『その写真、使わんの? 俺ならうまいこと使って、あの2人の仲引き裂けるで』って。だから、私、石塚に、、、、、、」


そこまで聞いて、思わずカッとなった。その感情のまま、今まで我関せずと見守っていた石塚を睨みつける。そんな私を見て、動じることなくニヤニヤと石塚は私を見返してくる。


「いやー、傑作やったわ。咲間、やっぱりお前はおもろいなぁ。こうも簡単に人を惹きつけて、惹きつけられた人を狂わせる。俺も江藤もそして久野もその1人や」


そう言いながら、ゆっくりと近付いてくる。その分逃げるように後ろへと下がる。しかし、元が狭い空間だ、あっという間に壁際に追い詰められてしまう。

どうにか抵抗しようと、右手を振りあげるが、簡単に掴まれて壁に押し付けられる。同様に左手も掴まれてしまい、振りほどこうとすれば更に力を入れられ、痛みに顔を歪めた。

そんな私を見て気持ち悪い笑みを浮かべると耳元でぼそりと囁いた。


「なぁ、咲間。壊れてくれへんか?」


「、、、、、、調子に、のるなっ!!」


「え、ぐはっ!!?」


私は近付いてきた石塚の豊満な腹に勢いよく膝を入れてやった。若干、脂肪がある分、効くかどうか不安だったが、お腹を抑えて蹲る様子を見るに、杞憂だったようだ。


「石塚。お前が何をどう捉えて、他人をどう思ってるかなんてどうでもええけどな、お前のくだらん厨二くさい思考に他人を巻き込むな、迷惑やねん!! その痛みに懲りたら金輪際、私らに近づくな」


私は痛がり続ける石塚を見下しながらはっきりと言ってやった。反応は返ってこないが、こんな奴にかけてやる時間が惜しい。

私はそのまま呆然として、しゃがみこんでいる円香に近付き、目線を合わせるように隣にしゃがんだ。


「円香。ごめんな」


「え?」


私の突然の謝罪に、驚いて顔を上げる円香の顔にある涙の跡に胸が締め付けられる。これは私のせい。私のせいで大事な友達を泣かせてしまった。


「私、円香が苦しい思いしてるのなんか、全然知らんと平然とした顔して円香の隣におった。円香の辛さなんも分かってやんと友達づらしててほんまにごめんなさい」


私が頭を下げると、円香が慌てている気配がする。


「違う、優貴は悪くない。私が悪かってん。優貴に自分の気持ち言わんと、勝手に傷付いて、全部優貴のせいにして、こんなことまでして。ほんまにごめん。謝っても許されることちゃうけど、ほんまにごめん」


そう言ってお互い謝りあって、しばらく頭を下げていたが、拉致があかなくなって、段々可笑しくなってきてしまって、最後は2人でいつものように笑いあった。

しばらく笑い続けて、なんとか笑いを収めた後、円香はすっと立ち上がると、真剣な顔で頭を下げるとさっと手を出す。


「優貴、私と付き合って下さい」


私は円香の細く頼りなくわずかに震える手をしばらく見つめた後、立ち上がって、微笑んだ。


「円香とは、ずっと友達でおりたいから、、、ごめんなさい」


私が言った後も、しばらく顔を上げず、その体制のままでいる円香に、さすがに心配になって、何か言おうとしたところでゆっくりと円香が顔を上げた。


「、、、、、、ありがとう、優貴。これからもよろしく、な?」


そう言った円香の笑顔とすっと一筋流れる涙を見て、思わず、指でその涙をすくう。

円香は少し驚いた顔をしてから、ふっと微笑んで私の手を握った。


「今度は、優貴の番やで?」


「え?」


「もう、分かってんねんやろ、自分の気持ち。せやったら、早よ伝えておいで。振られたら私と美嘉が残念会して慰めたる」


「円香、、、、、、」


心優しい友人の言葉に、いつの間にか力強く握られた手の頼もしさに私は大きく頷いた。


「ありがとう、円香。大好きやで」


私が滅多に言わない言葉に円香は笑みを深くして、「伝える相手がちゃうやろ?」と、私の肩を掴むと、くるりと180度回転させた。すると、そこには。


「久野君、、、、、」


「咲間さん。ちょっといいかな?」


私が戸惑っていると、後ろから背中を押されてつんのめる。振り返ると、円香が拳を前へ突き出して、口パクで「頑張れ」とエールを送ってくれる。それに大きく頷き、久野君に向き直る。


「私も話したいことあるねん」






「ごめん。俺、全部聞いてもうた」


2人で人気のないテラスに出て、備え付けのベンチに腰を降ろしてからすぐに久野君が言った。


「そっか。私らがあんなとこでやってたんが悪いんやから気にせんとって」


私が苦笑を浮かべて言うと、久野君も釣られたようにそっと笑みをこぼす。

今思えば、よく人が通らなかったものだ。死角になっているとはいえ、声は響くし、人が通ればきっとすぐに分かってしまうのに。


「俺な、実は今めっちゃ怒ってることあるねん」


突然のカミングアウトに思わず立ち上がって、久野君の顔を見る。しかし、彼の顔からは怒っている様子が微塵も見えない。


「俺、咲間さんを待ってる時に、石塚とLINEしててん。おれはあいつが犯人やと思ってたから。そしたらな、『悪いけど、お前のナイトは俺が貰うから。ヘタレなお姫様はずっと黙ってみとけ。』って書かれてて。イラついて返信返そうとしたところで、石塚と咲間さんが2人でエレベーターから降りてくるの見て、あれ?って思って覗きに行ってん。そしたらすぐに江藤さんが来て。出るタイミング逃してもうてそのまましばらく見てたらな、石塚が咲間さんを壁際に追い詰めていって、、、、、、。俺、あの時ほとんど飛び出しとってん。でも、咲間さんは石塚に膝入れて、はっきりと言いたいこと言うて、江藤のこともあっさり許してもうて。あぁ、強いんやなぁって思って、自分がめっちゃ情けなかった」


「そんなこと、、、、、、」


私が何か言おうとするのを遮るように更に口を開くので、そのまま口を閉じる。それを見て、久野君はすっと、私の両方の手首を取る。そこには先ほど石塚に握られ、壁に擦れたせいで出来た擦り傷と赤い跡が残っていた。それを見て、久野君は眉をひそめると、それをぎゅっと握った。


「俺はもっと強くなりたい。強い咲間さんを守れるくらい、もうこんな女の子に無茶させることないように」


真剣な瞳に、私はまるで繋がっている手首から自分の体温が上がっていくのを感じる。


「わ、私は強くなんかないで。久野君の方がよっぽど強くて優しい。私が今日ずっとイライラしてたときに久野君のメール見て、自分も辛いのに他人の心配できる久野君はすごいなぁって思ったもん。そんな久野君やから私は!」


私がそのまま告白しようと必死に吐き出した言葉は、そのまま柔らかい何かで止められてしまった。

目の前にあるのは久野君のどアップで、キスしてるのかと、頭のどこか冷静な部分が受け止める。

ゆっくりと目を瞑って、互いのぬくもりを感じ、どちらかともなくゆっくりと離れた。

しばらく、2人でぼんやりと見つめあっていたが、ふっと久野君が笑みを漏らした。それに釣られて私も笑みをこぼす。


「咲間優貴さん。僕はあなたが好きです。付き合ってもらえませんか?」


「、、、はい。私なんかでよければ、喜んで」


真っ赤に染まる夕焼けの中。私達は互いの顔の赤さを夕焼けのせいだと心の中で呟いて、幸せと、はずかしさを分かち合うようにぎゅっと手を繋いだ。

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