表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣の席のイケメンお姫様  作者: 井邑ハイリ
3/5

急変

あの日から、私の生活に変化が起きた。

次の日は朝から専攻だけの講義で、眠い目をこすりながらのんびりと音楽を聴きながら教室に入る。

すると、今までうるさかった教室が一瞬でぴたりと静まり、一斉に私に視線が向かってきた。

思わず、びくりと体を震わせ立ち止まると、石塚が大声で叫んだ。


「ナイト様のご登場や!」


「は?」


一体何のことかさっぱり分からない。


「あれ? 咲間さんおはよう。どうしたん?」


フリーズしていると後ろから、久野君が挨拶してくれたが、彼も教室の様子がおかしいことに気付いたらしい。

そっと中を覗き込む。


「今度はお姫様や」


次は久野君のグループの1人が叫ぶ。

しかし、そこからはみんな世間話に花を咲かせてしまったので、私たちも顔を見合わせてそれぞれいつもの定位置に座る。事情は円香達に聞こう。


「なぁ、何でこんなことになってんの?」


隣にいる円香に尋ねると、にやにやしながらツイッターを見せてくる。

そこには『電車の中で絡まれるお姫様を颯爽と助けるナイト様。惚れてまうやろ〜ww』

という言葉と、ぼやけて顔は見えないが、私が久野君の腕を掴んで女子大生の輪から連れ出す写真が載っていた。


「うちの大学の子が、たまたま見てたらしくて拡散されてるで。相変わらず男前やなぁ」


「ていうか、こんなこと前にもあったの?」


円香の言葉に美嘉が反応して好奇心いっぱいの瞳でこちらを覗き込む。ツイッターと美嘉の純粋な瞳のダブルパンチで朝から撃沈してそのまま机に突っ伏す。


「いやー、高校の時はクラスのやんちゃな子の厄介ないたずら止めたり、階段から落ちそうになった子助けたり、電車で隣におった後輩が痴漢されてて、痴漢とっ捕まえたり、あげたらキリないわ」


「すごいねぇ、、、武勇伝だ」


「円香! この口軽女!!」


円香によってバラされる過去話に、止めようと顔を上げて小さめに叫ぶが、澄ました顔で円香はさらに続ける。


「そのおかげでファンも多かったし、しかも3年の文化祭で騎士団の団長役やって、ついたあだ名がナイト様。あ、ツイッター流したやつ、もしかしたら、あんたのあだ名知ってんじゃない?」


「確かに、ナイト様なんて普通なら恥ずかしくて言えないよね。どんなロマンチストかと思ったもん」


円香と美嘉の言葉に、げんなりとする。昨日のあれを見られて、ツイッターに拡散されたというだけでもダメージ大なのに、さらに過去のあれこれも知られているとは何事だ。


「まぁ、そのうちみんなも飽きるよ。頑張って」


にこにこと美嘉の無責任な励ましに、大きくため息をついた。





「私は客寄せパンダとちゃうぞ!! どいつもこいつも腹立つ!!」


その日の昼休み。

誰もいない空き教室で3人、お弁当を広げながら、思わず演劇仕込みの大声で叫んでしまう。


「まぁまぁ、みんな話題のナイト様を一目見たいんやって」


「それにこんなのすぐ飽きると思うよ?」


円香と美嘉の笑いを含んだ言葉に、こいつら完全に楽しんでやがると確信する。とりあえず、円香には今度、カカオ100パーセントチョコをプレゼント(円香の嫌いな食べ物1位)をプレゼントして、美嘉にはこの間寝言で「健人君、好き」って言ってたことを健人君に教えてやろう。いや、これはカップルのイチャイチャネタにしかならない、やめよう。

1人脳内会議を終え、卵焼きを口に放り込む。今日は思ったより美味く出来てる。


「でも、ほんまに誰やねん。こんな悪趣味な真似するやつ」


苛立ちを隠しきれない私の言葉に、2人もう〜んと頭を捻らせる。

つくづくSNSというのは厄介だ。


「探そうと思えば探せると思うけど、気になるなら健人に頼もうか?」


「え、いや、そこまではいいよ」


ふわふわとしたオーラから何処と無く黒いモノが見え隠れしているので、その申し出は辞退した。というか、何者なんだろう健人君は。

友達とその彼氏のなんとなく触れてはいけない部分を垣間見た気がする。いや、私は何も見ていない。おい、そこで逃げたとか思った奴。これは逃げじゃない、勇気ある撤退だと言ってくれ。


「でも、久野君はそこまで動じてる感じせえへんよなぁ」


焼きそばパンをもそもそと咀嚼する円香に若干白い目を向けながら、もう1人の中心人物を思い出す。


「確かにせやなぁ。嫌じゃないんかなぁ、お姫様とか言われて」


「んー、傍目から見えないだけで、色々思ってるところはあると思うけどなぁ」


サンドイッチを口に運ぶ美嘉に相槌を打つと、突然、LINEの通知音が鳴った。

私は慌ててスマホを開くと、広告やゲームの宣伝に混じって石塚と久野君からメッセージが入っている。

とりあえず先に石塚からのメッセージを開くと、『流石やな、咲間。ナイト様ww』、、、、、、なんだろう、すごくバカにされてる気がする。『うるさい。迷惑してるねんからやめてくれる?(笑)』とりあえず、この後は放置で。

次は久野君。『昨日はほんまにありがとう。ごめんな、咲間さん。俺、犯人の心当たり当たってみるわ』 さすが、、、、、、


「さすがイケメンは言うことがちゃうなぁ」


円香と美嘉がいつの間にか私のスマホを後ろから覗いていて、唸るように円香が呟く。


「って、2人とも何ナチュラルに覗き見してんねん!」


私が慌てて、庇うようにスマホを隠すと、2人して不満そうな顔をする。美嘉、最近円香に染められてきてるよ、、、純粋なあの頃に戻って、、、、、、。


「でも、久野君犯人に心当たりがあるみたいだけど大丈夫なのかなぁ」


美嘉の言葉にはっとする。たかだか大学生に何か起きるとは限らないけど、犯人に文句の1つくらい言わないと気が済まない。

私はLINEで『私も一緒に行かせてもらえないかな?』と送る。すると、すぐに『分かった。咲間さん5限講義入ってたよな? 終わったら食堂に来てくれる?』と返信が返って来た。それに了承の返信を送ると残っている弁当をかき込む。

決戦は、放課後だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ