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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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幕間 影の少女

 一人の英雄に、固有魔法は一つである。

 “影の少女”は元英雄であるが、そこに特別な才覚や事情等は何一つとして存在しない。

 ではなぜ、“影の少女”は無数に渡る異常現象を発生させているのか。


 答えは単純。

 “影の少女”の振るう異能は、無数であって唯一無二であるからだ。


 爆炎、轟雷、暴風、猛毒。

 その全ては“影の少女”の固有魔法ではない。


 真の正体は、《異能譲受》。

 両者が同意した際に対象の固有魔法を譲り受ける異能。

 

 それは最弱の固有魔法だった。

 単体では無に等しく、“影の少女”へと異能を譲渡すれば渡した側は固有魔法を失う。

 総合的な戦力は一切増えず、他者の異能を十全に使用はできない。


 だが、“影の少女”は受け継いだ。

 道半ばに倒れた同胞の想いを、その固有魔法と共に。




 “影の少女”がかつて英雄であったころ。

 彼女は心優しい、善良な少女だった。


 争いを好まぬ性格と戦いに向かない固有魔法。

 必然、彼女は後方に配属される。

 

 献身的に働き続ける彼女を、誰も役立たずとは笑わなかった。

 自分にできることを全力で。

 そのひたむきな姿に、英雄も軍人も勇気を貰っていたから。


 なんの力も持たない少女があれだけ頑張っているのだ。

 ならば力を持つ我々はそれ以上に努力を重ねるべきであろう。


 頻出していた内輪揉めや諍いは、すぐさま消失した。

 そんなことをしている場合ではないと、誰が言うでもなく理解したから。


 誰に強制されるでもなく、英雄たちは死力を尽くした。

 たった一人の少女が、英雄の心に火を灯したのだ。



 その結果、星喰獣の殲滅は驚くべき速さで成し遂げられた。

 

 犠牲は最小限。

 戦果は極大。


 平和の二文字を、最速で手にしたかつての英雄。

 だが、快進撃はそこで止まる。


 強大な英雄の力を危険視した一部上層部による粛清。

 混乱と喧騒の広がる瞬間、誰もその全貌を理解はできていなかった。


 ただ、後ろから背を刺そうとした愚か者がいたという事実だけは全ての英雄が認識していた。

 

 始まるのは第二ラウンド。

 英雄対ミズガルズの、どうしようもない仲間割れ。



 物量差は圧倒的だった。

 英雄たちは見知らぬ異世界で必死に抗った。


 だが、一人また一人と死んでいく。

 無念や嘆き、怨嗟の声を残したまま。


 彼らはせめてなにかを残したかった。

 自分が生きてきた証を。

 ここに己がいたのだという証明を。


 託したのだ。

 せめて彼女の力になりたいのだと。


 涙ながらに、彼女はそれを受け取った。

 この国の歴史から抹消されようとも、わたしたちは覚えているからと。


 一人、また一人。

 受け取った力を手に、彼女自身も戦地に立つ。

 

 死ぬわけにはいかない。

 自分が死んだら、託された思いは消えてしまうから。


 時に逃げ隠れ、泥を啜ってでも生き抜いた。

 全ては生きるために。


 だから、星喰獣の復活すらも利用する。

 奴らは敵ではあったが、恨み憎んだわけじゃない。


 敵はミズガルズ。

 世界を滅ぼすためならばどんな手段だろうと行使する。


【――ああ、故に死に絶えろ】

 日増しに強くなる感情はドロドロに煮詰まっている。

 遺志を受け取るたびに、個人としての感情は薄れていく。

 

 それでもかまわない。

 己で選んだ道だ。

 

 復讐鬼と化そうが、目的を果たすまでは止まれない。


 それが全て。

 “影の少女”の全てである。

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