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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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狂人は狂人を理解できない

 真実を語るならば、輪廻の行動にはとある理由が存在した。


 “影の少女”を打倒するには、ただ勝つだけでは駄目だ。

 それが輪廻の出した結論である。


 異常なまでの意志力は、多少の負傷など乗り越える。

 前例を知っているからこそ、意志の力は条理を捻じ曲げるのだと輪廻は誰よりも理解している。

 致命傷を負わせようと、きっと奴は意志の力で覚醒を成し遂げるのだと確信できる。

 

 現に今、無数の病魔を押し付けようとも“影の少女”は止まらなかった。

 物理的な痛みや負傷は、枷にこそなれど“影の少女”を打倒するまでには至らない。


 ならば攻めるはその心。

 強靭に構築されたその精神を圧し折らなくては、この復讐鬼は決して止まらない。

 


 だから輪廻は妖しく嗤う。

 焼かれた肉体や体内を蝕む病魔を我慢すれば、相手は勝手に恐れを抱くのだから。


 己にとっては慣れ親しんだ苦痛であろうとも、万人にとってはそうではない。

 永劫に続く死の苦悩に晒されて正気を保てる人間は、その存在こそが恐怖の対象なのだ。


 そう、“影の少女”は怪物であるが人外ではない。

 狂気と殺意に塗り潰されようとも、そこには確かに人としての意志や常識がある。


 こうであるべき、それはおかしい。

 そんな常識こそが輪廻にとっては付け入る隙だ。


 生きているのが不可思議である輪廻は、ただ立つだけで他者の不安を煽る。

 怪物と化した復讐鬼ですら、かつての恐れを思い出すほどに。



 その試みは成功した。

 “影の少女”は狂気に触れて人の心を僅かながら取り戻した。

 それはつまり、付け入る隙が生まれたということなのだが。

 

(――とはいえ)

 だが、輪廻にとっても想定外はあった。

 炎に包まれた瞬間に、輪廻は“影の少女”へと固有魔法を使用している。


 送り込んだ病魔は輪廻の所有していた中でもトップクラスに悪辣な物のオンパレード。

 どれ一つとっても常人であれば喚き叫んでのた打ち回り、ショックと苦痛に命を手放しかねない。

 そんな特大の爆弾を、“影の少女”は軽く二桁を超える量を押し付けられた。


 ――はずなのだが。

 “影の少女”は立っている。


 心は動揺、外面は狼狽。

 しかしそれでも、その肉体に変化は見られない。


(怪物、ね。確かに舐めていたとはいえ、これは……)

 輪廻はそう、心中で毒づく。

 

 目の前の少女は、はたして本当にひとであるのだろうかと。

 輪廻はそう、疑問を持たずにはいられなかった。


 たとえそれが、今更な疑問であったとしても。

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