煉獄の炎は狂人には生温く
【アアアアァァァァ!】
「アハハハハァ!」
狂気と狂喜が入り混じり、バチバチと肉が焼ける音と絶叫が混ざって轟く。
業火に焼かれながら相手を睨みつける“影の少女”。
狂った声で嗤い続ける輪廻。
どちらも等しく狂っている。
重篤な負傷など意にも介さず、ただ目の前の相手を潰すという意志のみが優先されて。
その結果生まれたのは、究極の我慢比べ。
魔の業火はその勢いを緩めることなく、二人の狂人を焼き続ける。
焼けた手足が黒く変色しはじめる。
酸素の欠乏によって、意識が薄れだす。
薄れた酸素を求めて呼吸を行えば、喉に流れ込む炎が内部からも彼女らを襲う。
それはまさに、地獄と表現するのが相応しい光景だった。
絡まりあい、もがく姿はまるで怪物のよう。
眩しいほどの熱に照らされ、二人はなおも離れない。
いや、性格には離れることを許されない。
輪廻の両腕は、未だ“影の少女”を捕らえている。
焼かれ続ける激痛の中、炎の元を捉える輪廻はまさに狂っているとしか言えないだろう。
【が、アアアアァ!】
そして、先に折れたのは“影の少女”だった。
それ即ち、輪廻よりも“影の少女”は人に近い事の証明である。
炎が突如消失し、代わりに生まれたのは水流。
天空から飛来した水が二人を覆い、乱暴な消化を行った。
【き、貴様……】
ぜいぜいと荒ぶる呼吸。
肉体と精神の両方が安定を欠いて、“影の少女”の心は激しく動揺していた。
【狂っている。痛みや苦痛を笑顔で受け入れるなど正気の沙汰ではないだろうが!】
それは、当然ともいえる心からの疑問。
誰しもが。“影の少女”ですらそれは変わらない、魂に刻まれた衝動。
痛みや苦痛は、避け疎み忌避するものだ。
それを笑顔で受け入れる輪廻に、“影の少女”は異質な気持ち悪さを覚えている。
それは人の道を外れていると。
人を捨てた少女に、輪廻は人でなしと非難された。
「ははっ」
輪廻は笑う。
なにを今更とでも言うように。
「痛い、辛い、苦しいのが嫌? それが人の義務だというのなら、私は誰よりも人だって断言できる。だって私は、こんなにも痛くて辛くて苦しいんだから」
もはや健常な部分など存在しない状態で、輪廻は焼け焦げた喉を震わせる。
そう、彼女にとって苦痛とは常に寄り添っていたものだから。
不治の病に侵され、周囲にはなぜ生きているのだと忌避されて。
それでも彼女は生き続けた。
生きるために苦痛を飲み込み、あらゆる困難を乗り越えた。
「苦痛なんて、なにを今更。この程度で文句を言うほど、私は弱者じゃないのよ」
【――狂人め】
「それこそ、今更ね」
けらけらと、輪廻は笑った。
誰にどう思われようと、そうして笑うことが己の誇りなのだと。




