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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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狂気の前には命も霞む

「くッ!」

 十二度目の接近も不発に終わり、輪廻は回避行動をとりながら距離を離す。

 

 絶対的な距離の差。

 それが圧倒的な絶望となって輪廻へと降りかかっていた。


 接近を許さない。

 ただそれだけで、輪廻は“影の少女”へなにもできないのだ。


 

 機械のように、作業のように。

 持ちうる全ての力で面の制圧を繰り返す“影の少女”。

 遠くから削り殺すことこそが最適解である以上、その行動を変える理由などありはしない。


【――――】

 だから。

 そう、だからこそ“影の少女”は疑問を抱く。


 なぜ、意味の無い突撃を繰り返している?


 “影の少女”は、目の前の輪廻を無能であるとは思っていない。

 知恵の回る厄介な相手だという認識を抱いている。


 ならば、この光景はなんなのだ。

 無為無策の突撃を、それしかないのだと言わんばかりに繰り返す。


 ふと生じた違和感は、瞬く間に増大し膨れ上がる。

 想像と現実の差異を埋めようと、思考が回転を開始する。


 破れかぶれの突撃ならば問題はない。

 いずれ命は散り、それだけだ。


 だが、もしもこの光景がなんらかの策であったのなら。

 もしもの可能性に、“影の少女”の思考が加速し始めた。


 その瞬間。

 視界の端に映ったのは、遠くで治療を受ける英雄たちの姿。


【時間、稼ぎ……!】

 一人では勝てない。

 ならば数を揃えるのみ。


 ああ、どうしてこんな単純な可能性を見落としていたのだ。

 数の優位こそ、奴らの持つ最大の優位であったはず。


 “影の少女”は、攻勢を続けながらも目の前の輪廻を睨みつける。


 そうだ、この女は最初から私怨で動くという部分をやけに強調していた。

 連携という可能性を覆い隠すためのカモフラージュと考えれば納得だ。


【だが、間に合った】

 切り替え、生み出したのは炎熱術式。

 無から現れた炎は、軌道を変えて遥か遠方へと向かっていく。


 狙うは負傷兵。

 回復が完了する前に確実に命を絶つのだと、“影の少女”は狙いを変えた


【これで、勝ちだァ!】

「ええ、そうね」

 そう、“影の少女”は負傷兵を狙った。

 意識も視界も、動かされた。


 “影の少女”は見誤ったのだ。

 口ではああ言ったものの、私怨のみで身を投じるなどありえないと。

 “影の少女”は、輪廻を信じることができなかった。

 まさか本当に、ただの憂さ晴らしに命を懸けるなど、思いもよらなかったのだ。


 狂った思考では、己がまさにそうなのだという事実にも気づけなかった。


「ただし、私のね――!」

 声に反応して振り向けば、そこにいたのは最弱の英雄。

 両者の距離は、手を伸ばせば届くほどに近く。


 そして事実、輪廻はその手を“影の少女”へと伸ばす。

 己の固有魔法を、発現させるために。


【あ、あああァァァァ!】

 そして、影の少女が取った手は完全な悪手に見えるものだった。

 負傷兵へと向けていた炎熱を解除し、すぐさま再発動。

 狙いを付ける手間を惜しみ、最速の発動を優先。


 結果、“影の少女”は己の体を炎で焼いた。


 肉の焼ける音と共に、“影の少女”は輪廻へと手を伸ばす。

 自分自身諸共に、英雄を焼き尽くすために。



 “影の少女”の敗因は、相手の狂気を理解できなかったことだ。

 狂った相手に常識など通用しないということを、自分自身から学べなかったことだ。


 炎が襲いかかれば相手は回避を優先するはずなどという常識に頼ってしまった。

 

「あら、利害一致?」

 輪廻の目的は、一切変わっていないというのに。


 炎を迎え入れ、抱き寄せる。

 そう。相手に、触れたのだ。

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