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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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狂人を超える超人

「動かないで、傷は深い」

 驚愕に包まれた空間で、どこまでもマイペースにクリミアは英雄たちを引き止める。


「全力で応急処置はしたけれど、表層の傷が塞がったにすぎないから」

 

 その言葉通り、英雄たちの首は実際に“半分ほど”両断されていた。


 

 種明かしはとても単純。

 輪廻の“概念転移”により、共に戦った経験のある四人を所有物(・・・)と拡大解釈することで両断が完了する直前に回収。

 クリミアの全力治癒によって、即死を免れた四人を救命。


 理屈としてはそれだけの、ただの力技だ。

 そう、起きた現象そのものは多少奇妙なだけのもの。


【英雄でもなく、世界の守護者でもない脱落者の分際で……!】

 だが、聖辺輪廻がこの戦場に舞い戻ったという事実。

 それこそが最大の異常事態であり、予測不可のイレギュラーなのだ。



「さて、と」

 軽く肩を回し、一人前へ出る輪廻。

 距離の離れた英雄たちを置き去りに、単騎で“影の少女”へと相対する。


 無論、目的は守護及び討伐。

 世界に興味はないが、世界を守ることで目の前の女が不快になるというのなら是非もなし。

 そんな理解不能の持論だけを理由に、再び命を掛けて輪廻は復活を果たしたのだ。


 重ねて宣言しよう。

 照れ隠しや秘匿などは一切存在せず、聖辺輪廻は世界に興味など持っていない。

 

 昔からそうだ。

 世界の趨勢と己の病ならば、迷わず後者を優先する。

 そう生きてそう死ぬと決めた女の人生は、揺らぐことなどありえない。


 この女、聖辺輪廻は。

 ただの憂さ晴らしと嫌がらせのためだけに、ここに立っているのだ。



 こんな思考、“影の少女”どころか全世界の誰だって予測できるはずがない。

 常人どころか狂人ですら戦慄する独自の思考回路は、今も正常に回転を続けている。


【――そうか、分かった】

 だから、“影の少女”は割り切った。

 予想外の妨害は仕方がない。

 状況は依然、変わってなどいない。

 

 もう一度、同じことをすればいいだけだ。


【理解など不要。貴様も纏めて、死に絶えろ】

 理解を放棄。

 思考を停止。


 そう、それで問題などなにもない。

 立ちふさがるのなら、味方ではない。

 いいやそもそも、“影の少女”の味方はすでに皆ここにはいないのだ。

 

 目の前の全てを破壊し、殺す。

 そうであろうとして、そうなる存在。


 それが“影の少女”という、怪物の定義だ。



 大地が裂け、拳大の大きさをした岩石が無数に“影の少女”の周囲を飛び回る。

 それは大地を材料とした弾数無限の飛び道具。

 世界ではなく、目の前の英雄を殺すための怪物の武器だ。


 標的は最弱の英雄。

 油断や慢心など、欠片も存在しない。

 機械のように、現象のように。

 ただの事実として、“影の少女”は英雄の命を狙う。

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