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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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異物乱入

 巻き上がる土煙を眺め、“影の少女”は口端を吊り上げる。

 

 生成した刃から伝わった、首の肉を裂く感覚。

 ついに果たしたのだという歓喜をその顔に浮かべて、“影の少女”の全身から力が抜けた。


 限界まで酷使した肉体は弛緩という休息に歓喜の声を上げ、自然と“影の少女”の膝は折れ崩れる。

 霞む瞳をそれでも見開き、目の前の惨劇を見届けようとその場に座り込みながらも臨戦態勢は維持。



【――――は、ぁ?】

 だが、土煙の晴れた眼前の光景は、“影の少女”の想像とかけ離れていた。



 刃の落ちた四つの地点は無人だった。


【消え、た……?】

 小さな水溜りのような血痕が残っているものの、肝心要の英雄たちの姿がそこには存在していない。

 

 無尽の荒野に広がる、紅い跡。

 それが意味するものを、“影の少女”の脳は導き出すことができないでいた。



 数瞬、あるいは数秒か。

 “影の少女”は、己の視界の端に映る異物を認識する。


 それは影。

 ゆっくりと、そして無意識に、影の方向へと“影の少女”の視界が動く。

 

 ぼやけた輪郭が徐々に鮮明となり、その実像を結びだす。



【――なッ】

 にが。

 と、続く言葉は声にすらならない。


 その影の正体は、断罪されたはずの四人の英雄たち。

 首を両断されたはずの、罪人の姿であった。



【なぜ、どうして……!】

 混乱、錯乱、動転。

 溢れ出る疑問と動揺の渦に振り回されながら、“影の少女”は目の前の現実を直視する。

 

 拘束が不完全だった?

 否。

 あの短時間で打ち破れるような縛鎖ではない。


 断頭は執行されなかった?

 否。

 広がる四つの鮮血が、刃は届いたのだと主張している。


 ではなぜ、なぜ、なぜ。


 荒れ狂う思考だが、答えはすくさま提示された。

 四人の英雄たちに気を取られていたが、その背後に新たに二つの影が見える。


 つまり、答えは援軍。

 それだけの、シンプルな答えだった。



 膝をつく四人の英雄たちの背後にたった、二人の女性。


 人形のような死人と、機械のような狂人。


 英雄の座を降りたはずの二人は今再び、戦場へと舞い戻った。


「なぜ……」

 それは“影の少女”の言葉ではなかった。


 しかし、それはこの場の全員が抱く共通の疑問。

 おまえたちは既に降りたのではなかったのか。

 そんな疑問と共に、全員の視線が二人へと集中する。


【新たな、英雄か】

「違う」

 人形のような少女は、その問いを否定する。

 己はもはや英雄ではないと。


「私はもう、英雄なんてどうでもいい」

 それは彼女の宣誓。

 

「世界の命運なんて興味はないし、あんたたちの復讐なんて知ったことじゃない」

【ならばなぜ、そこに立っている!】

 気だるげな言葉に苛立つように、“影の少女”は声を荒らげる。


【どうでもいいというのならば、好きにしろ。邪魔をするな!】

「ええ。好きにさせてもらうわよ」

 だからここに来たのだと、少女は答える。

 誰の命令でもなく、自分の意思で己はここに立っているのだと。


「正直、あんたの事情も思想も興味はない。ただ、私はあんたの邪魔をしにきただけよ」

 一歩。

 また一歩。


 ゆっくりと歩みを進め、英雄たちと“影の少女”のちょうど中間で一人立つ少女。

 

「まぁ、つまりはアレね」

 拳を握り、笑顔を浮かべ。

 

 だがその心には、極大の熱を滾らせて。


「――憂さ晴らし」

 かつての英雄、聖辺輪廻は舞い戻った。

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