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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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狂戦士の進軍

 この場に集った英雄たちには、ある共通の欠点が存在した。

 それは今までの戦いでも浮かび上がっていた、少数精鋭だからこその綻びだ。


 即ち、優秀な遠距離攻撃者の不在。


 リーリエは防御こそ一流だが、攻勢には性根も力も向いていない。

 エクレールは万能であるが故に、特化した強さを何一つとして持ってはいない。

 玻璃は全てを切り捨てる剣士としての力と戦い方のみを習得している。

 彼方は玻璃以上に偏った存在であり、拳の届く距離に近づかなくては戦闘行為にすら移れない。


 彼らが取れる遠距離の攻撃は、星喰獣すら倒せはしない牽制の一撃のみ。

 そしてそのような児戯では、絶え間なく降り注ぐ破壊の雨に対抗することなど不可能だ。


 それを理解しているからこそ、彼らは回避を繰り返す。

 接近しなければ攻勢に移れないのに接近が不可能なのだから、選択肢はそれしかない。

 

 体力が尽きるか、精神力が尽きるか。

 “影の少女”が疲弊し、攻撃の手を緩めた瞬間を狙っている。


【アアアアアアアァァ!】

 だが、その暴威が緩む兆しはない。

 怪物の体力は無尽蔵で、化け物の精神は揺るがない。


 破壊の質と種類だけが無尽蔵に増加の一途を辿り、回避しきれない一撃が英雄たちの皮膚を裂く。

 断崖絶壁へ向かって歩みを進めるように、破滅の時は着実に近づいている。



「……キリが無い」

 だから、無謀だとしても踏み込む決意を固めなくてはならない。

 それを誰もが理解しているからこそ、彼方は“影の少女”へと接近を開始する。


「――援護を!」

 短く叫んだその一声で、皆は彼方の援護に回る。

 全魔力を両の足に集中させ、彼方は一直線に駆け出した。


 生き物のように蠢く大地が、鋭い槍と化して彼方を襲う。

「――くぅッ!」

 リーリエの防壁が、無数の槍を全て弾く。


 天空に生まれた氷の塊が、彼方を押しつぶさんと迫り来る。

「――が、あぁァ!」

 割り込むように発生した玻璃の真空壁に包まれ、氷の塊は自発的に崩壊する。


 業火が、雷鳴が、猛毒が、重力が、光線が、鋼糸が、砂塵が、暗黒が。

 ありとあらゆる猛威が彼方の命を奪うためだけに襲い掛かる。


 そして時には躱し、時には防ぎ。

 一秒が永遠に感じられるほどの濃密な死線を越えて、彼方は“影の少女”へと近づいていく。



【失せろォ!】

 無論、その距離が近づくほどに破壊の密度は増していく。

 彼方の全身には次第に深い傷が刻まれ始めている。


「生憎、俺の力はこれしかないんでねぇ!」

 だが、彼方は止まらない。

 固有魔法の力で強引に跳ね上げた身体能力。

 傷を負うほどに増していく速度は、“影の少女”との距離を確実に詰めていた。


 一歩進むごとに、その身は紅く穢れていく。

 一歩進むごとに、その足跡は真紅に染まる。

 


 そしてようやく、彼方の眼前には“影の少女”が立っている。

 立っているどころではない、生きているのが不思議なほどの傷が全身に刻まれながら。

 全てはこの一撃のために。


「一撃、必殺!」

 無数の傷を糧として練り上げられた全魔力を込めた拳。

 その一撃が、ついに“影の少女”へと届いたのだ。

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