理解不能の天変地異
玻璃の“気圧操作”。
輪廻の“概念転移”。
彼方の“狂戦士”。
そしてアレスの“超再生”。
固有魔法とは人知を越えた力であり、物理法則を嘲笑う脅威だ。
その優位性、脅威は既に十全に知れ渡っており、まさに魔の力と呼ぶに相応しい。
ならば、“影の少女”の固有魔法とは。
その正体を解き明かさない限り、人類に勝利は訪れない。
変わらず続く爆発の脅威。
だが玻璃の一撃を回避した“影の少女”の姿が、絶望の二文字が確実に迫っていることを伝えていた。
それは確かな変化であり、英雄たちにとっては望ましくないものだ。
正体不明の爆発こそが、“影の少女”の固有魔法だと誰もが推測していた。
問題はその詳細であり、正体を解き明かすのが課題であると。
しかし遥か天空で英雄たちを見下す“影の少女”は、そんな推測を粉微塵に打ち砕く。
当然の事実として、人は空を飛べない。
ならば固有魔法が関わっていることは確実なのだが。
「どういうことだ……!」
爆発と、空中浮遊。
その二つの超常現象を両立させる固有魔法など、存在するというのか。
爆発の回避に意識を割きながら、英雄たちは必死に思考を巡らせる。
だがどうしても、あるはずの回答に辿りつくことが出来ないのだ。
そして、絶望は加速する。
英雄たちを襲う脅威に、新たな現象が加わりだしたのだ。
【死に絶えろ、英雄共!】
大地が裂ける。
爆炎が生き物のように英雄へと襲い掛かる。
万物を凍らせる冷気が、“影の少女”の周囲に展開される。
雲一つ無い快晴だというのに、雷が次々と降り注ぐ。
連続して巻き起こる天変地異。
英雄たちは避け、防ぎ、庇い、その脅威相手に命を繋ぐ。
だが、その光景はもはや己が目を疑わざるを得ないものだった。
「……これは本当に、かつての英雄なのか?」
誰かが、気の抜けた声でそう呟く。
目の前の“影の少女”は、英雄の持つ固有魔法という力を行使していた。
だが、そもそもの前提条件が違い過ぎる。
ああ確かに、力の一つを抽出すればそれは特別なものではない。
問題はそれを一人で複数使用しているということだ。
誰かが言っていた。
固有魔法とは、神より与えられた英知の欠片であると。
ならば“影の少女”は、神の欠片を複数所有しているとでもいうのだろうか。
それは神より与えられた英知を振るう英雄ではなく。
まるで神そのもののようだ。
猛威は秒速で加速を繰り返し、暴威は際限なく周囲を破壊する。
増し続ける脅威に比例するように、“影の少女”の理性は失われだす。
【アアアアアアアァァ!】
獣のような叫び声からは、かつての理性や英知などは微塵も感じられない。
伝わるのはただ純粋な殺意と憎悪のみ。
人知を越えた力の種類は増加の一途を辿っている。
もはや、どれが本当の力なのかなどと考察するのも馬鹿らしい。
これら全てが、彼女の力なのだ。
これら全てが、英雄を殺すためだけに振るわれる。
これら全てが、世界を壊すためだけに振るわれる。
残る世界の脅威は、“影の少女”ただ一人。
だがこの少女をここで止めなければ、一切の比喩抜きに世界は終わる。
その事実を、この場の全員がようやく本能で理解した。




