最終決戦
そこは、不思議な空間だった。
風も無く、音も無く。
“無”という概念が有るとでも言うべきだろうか。
周囲から断絶された空間に、“影の少女”は一人で立っている。
黒曜石を埋め込んだように淀んだその瞳からは、一筋の涙が頬を伝っていた。
【――スナーク、ルリ、シルヴィ、カルラ、キルケニー、スプライト、アレス、ジェミニ、キャロル、シン、チェシャ、レイ、ヘンゼル、ヒイラギ、メアリ、ネロ、アリス、イブ、ライム、リン、サイト、グリム、ライヒ、ジャック、ツバサ、エイダ、マリン、フィル、トキ、ウィズ、グレン、ラスト……】
綴られる無数の名前は、かつての友。
脳裏には彼らの最後と、託された想いが渦巻いている。
もう駄目だ。
あとは頼む。
死にたくない。
逃げてくれ。
許せない。
どうして。
そう言って動かなくなっていく。
一人、また一人と戦友は消えていく。
歩みは止めず、残った者が引き継いで。
止まってしまえば、彼らの死は無意味であったと認めてしまうようだったから。
無論、理解はしている。
恨みを晴らすべき相手は、既にこの世にはいない。
後世の人類に一切の罪は無い。
英雄たちも、言うに及ばず。
だが、理屈ではないのだ。
復讐とは、そのように理性的に行われるものではないのだ。
八つ当たりだという自覚は有る。
たとえ現代の人類を皆殺しにしたところで、なにも変わらないということも分かっている。
それでも、少女は止まらない。
それら全てを理解して、それでもと走り続けてきた。
ああ、だから道をふさぐものは全てが敵だ。
たとえ初対面であろうとも、欠片ほどの因果も存在しないとしても。
涙が止まり、滲んでいた視界が明瞭になる。
少女以外なにも存在していなかったはずの空間には、新たな影が現れていた。
【――もうすぐ、終わるから。みんな、待っていて】
少女は手に持った杖を軽く振るい、大地に突き立てる。
明確な戦闘の意思を見せ、少女は影を待ち受けた。
「――会話が出来る雰囲気ではなさそうだな」
「なにを今更」
影の会話が、少女の下へと届くほどの距離。
お互いの顔をはっきりと認識できる距離になって、影は歩みを止める。
「同情はしない。お前たちの事情も想いも、こちらには一切関係が無い」
男が冷淡に、ただ事実のみを口にする。
「これは“戦争”だ。お互いに正義があり、主張がある」
ならば戦うだけだと、男は両の拳を構えた。
「勝てば正義。明確でいい話だ。まったく、嫌になる」
表情は崩さず、しかしその声色には悲しみが混ざって。
その悲しみはいったい誰に向けたものなのかはわからない。
ただ、この場にいる全員がこの決戦を無価値であると無言のままに断じている。
それでも、止まらない。
生きるために、生かすために、死ぬために、殺すために。
今、最後の戦いが始まった。




