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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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脱落、或いは離脱

 星喰獣の消えた戦場に、輪廻は一人佇んでいる。

 なにもせず、傍目からは生を失ったのかと思うほどに彼女は動かない。


 アレスは消えた。

 玻璃も、次の戦場へと歩みだした。


 輪廻はただ一人、ただその場に残っている。



 

 いったい、どれほどの時間がそのまま経過しただろうか。

 時折吹く風以外、一切の動きが無い空間。

 まるで世界が静止したように錯覚する空間に、変化が訪れた。


「…………」

 黒い、喪服のようなゴシックドレスが風に揺れる。

 負傷兵の治療を終えたクリミアが、輪廻の元へと歩いていく。


 言葉はない。

 規則的でゆっくりとした足音だけが、その場に響く。


 その足音は、輪廻の元で止んだ。

 膝をつく輪廻を、クリミアは黙って見下ろしている。


「………………」

 輪廻は一切の反応を示さない。

 クリミアの存在にすら、気がついていないのだろうか。


 決意と我欲に燃えていた瞳は、泥水のように濁っている。

 人の身を凌駕していた精神力は、もはや見る影もない。

 今の輪廻はただの重病人だ。


「――帰るわよ」

 だから、クリミアはここへ来た。

 病を治すために。

 彼女を癒すために。


「ここは空気が悪い。後方に帰還すれば多少の設備は――」

「帰、る?」


 初めて、輪廻は口を開く。

 首だけをクリミアの方へと向け、油の切れた機械のような動きで目を合わせる。


「どこ、へ?」

 弱々しい、蚊の鳴くように小さな声。

 意志も希望も砕かれた、死に行く少女の嘆きの声。


「もう、いい。もう、疲れた」

 可能性が潰えたわけではない。

 むしろ塵のような奇跡の残滓を発見しただけ、輪廻の目的には近づいているとも言えるのだろう。


 だが、すでに輪廻の心は限界を迎えている。


 ああむしろ、今まで折れずにいたのが奇跡なのだ。

 いつ命を落としても不思議ではない病を抱えて、ここまで走り続けてきたことが。


「――そうですか」

 クリミアは、無理矢理に輪廻を連れて行きはしなかった。

 今までの経験から知っているのだ。

 意思の砕けた病人の病を治すことは不可能だと。


 しかし、クリミアは動かない。

 ただじっと、輪廻のそばを離れない。


 一人の病人をただじっと、見つめたままだ。


 二人は既に、世界の行く末などには興味がない。

 ただ己の人生を、己の生を生きている二人。


 どこまでも我欲に従い生きる二人は、今英雄の座を降りたのだ。

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