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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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正々堂々とした不意打ち

 残酷とも言える話ではあるが、輪廻の援軍という追加戦力は微細な影響しか与えていなかった。

 以前の焼き直しの映像が流れるように、アレスの優位は揺るがない。


 仮にこの場に現れた戦力が今宮彼方のような玻璃に匹敵する力を持つ者であったのならば、あるいは数割の光明が見えていたのかもしれない。


 聖辺輪廻は確かに優秀な戦力だ。

 だが、その戦い方は邪道の極み。


 相手の弱点を最大限に突く、強さではない強かさ(・・・)を生かした戦闘こそが本領。

 故に輪廻の戦い方にとって、アレスのような王道を行く相手は天敵なのだ。


 弱みが存在しない。

 全方位に隙の無い、王道で万能型の純正戦士。


 悪く言えば器用貧乏ともいえるが、その水準の高さは器用万能という言葉が適切なほど。

 ただ強く圧殺する堅実で順当な戦い方をするアレスに、突くべき隙など存在しない。


「くっ……」

 なのに、アレスは脳裏に宿る微かな不安が拭えない。

 正面から潰せばいいだけなのに、目の前の女が不気味に嗤っている状況が生理的に受け付けない。


 本人は自覚していないが、それは一種の恐怖であった。

 初めて出会う種類の脅威に、本能が向き合うことを避けようとしているのだ。



 そしてそんな様子を遠巻きに眺めつつ、輪廻は嗤う。

 時折遠距離から牽制を行うだけで、決してアレスに近づこうとはしない。


 あくまでも主力は玻璃であると主張するかのように、その戦い方は影に徹している。

 影と呼ぶには少々存在感が強過ぎるが、その役割は援護射撃の一点のみ。


「――シッ!」

 玻璃の剣は、決してベストコンディションではない。

 甘く見て七割程度の力にまでしか回復はしていない。


「く、うぅッ!」

 だが、玻璃とアレスの斬り合いはまさに拮抗している。


 輪廻の援護も、もちろん理由ではある。

 だが、その直接的な効果は皆無に等しい。

 ならばなぜ、現状玻璃は格上の剣士を相手に互角の戦いを繰り広げることができているのか。


「やりにくい……!」

 理由は単純。

 輪廻の存在そのものが、アレスへの強烈な精神的負荷となっているからだ。


 決して近づかない。

 羽虫のような牽制を散発的に繰り返し、己の存在を強調するのみ。

 意識しないように意識するほど、精神は乱れ集中は欠ける。


 星喰獣とは違い自我を持つからこそ脅威であったアレス。

 だが今だけは、その強みであった自我こそがアレス自身を追い詰める枷となっていた。



「なら、ばぁ!」

 鍔迫り合いから大きく剣を弾き、アレスは駆ける。

 目標は当然、遠方に位置する輪廻。


 災いの元を断つ。

 ああそれは確かに、順当で至極最もな手段だ。


「ああ、ありがとう」

 故に、輪廻は感謝の言葉を迫る脅威へと言い放つ。


 王道で、順当で、正道で。

 ああ全く本当に読み通り。


「奥の手、見せてやるわよ――!」

 振るわれる剣と交差するように、輪廻の右手がアレスへと伸びる。


 アレスがまず感じたのは、戸惑いだった。

 逃げるでも防ぐでもなく、輪廻が取った行動は反撃。

 それは全くの考慮外。

 動揺によって判断は鈍り、伸ばされた手への反応が刹那遅れる。


 手が触れる。

 ただそれだけの結果が、当然のように発生する。

 

 紡がれる魔力光。

 アレスがその正体を推察使用とした瞬間、暴力的なまでの結果で正解は発表された。



「ガ、ハ、アァァァ――!」

 そしてアレスが次に感じたのは、痛み。

 体の内部を食い破られたと錯覚するような激痛が急激に襲ってきたのだ。


「内臓を侵された気分はどう? 控えめに言って、死にたくなるでしょ」

 送りつけられた病に、アレスの体は拒絶を示す。

 一瞬でズタボロにされた各種内蔵機能は、もはや生者が耐えられる類のものではない。


 内臓癌、白血病、遺伝子疾患、神経麻痺、エトセトラエトセトラ。

 触れた一瞬で譲渡できる限界値まで病を転移させられたアレスは、ただ苦悶の声を漏らすだけだ。



「ああ、改めて感謝するよ、聖辺輪廻」

 そして、ついに生まれた好機をこの男が逃すはずもなく。

 苦痛とそれによる疑問に精神を掻き乱されたアレスを襲う一閃。


 遅れて接近した玻璃の剣が、ついにアレスの喉元を切り裂いた。

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