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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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混沌の盤面

 かつて“英雄”であった者。

 “英雄”であろうとする者。


 両者の決闘は少しづつ、しかし確実に終局へと近づいている。

 

「――ぐ、うっ」

 互角であったはずの玻璃の剣が、徐々に押され始める。

 降りかかる連撃を受けるたびに、その顔に苦悶の色が浮かぶ。

 

 理由は明白。

 精神の磨耗により、すでに玻璃は固有魔法を使用できていないのだ。


 魔の力を手にしてようやく五分だった戦いが、その力を失えばどうなるか。

 防戦一方の状況へと追い込まれたのは、至極当然の流れといえる。


 

「……しぶとい、な」

 “軍服の男”はふと思考する。

 この男の強固な意思は、すでに理解している。


 たとえどのような窮地に追い込まれようとも、玻璃という男は限界まで戦い抜くのだろう。 

 力なき者を守る英雄として、文字通り命尽きるまで。


 だが、それはあくまでも精神論だ。

 どれほど強く念じたところで、世界の法則は変わらない。

 一部の固有魔法なら別だろうが、玻璃は既に固有魔法を使用できない状態にまで疲弊している。


 ならば、目の前の光景はどうだ。

 今にも命を落としかねない死線を幾度も越えて、隙あらばこちらの首を狙ってくる英雄の姿は。


 奇跡など、現実には起こりえない。

 厳然たる実力差は確実に存在する。


 そのはずなのに。

 

 玻璃の剣は、“軍服の男”へ迫っていた。

 回避は容易だ。

 だがしかし、そもそも玻璃の剣撃が“軍服の男”の喉元へ迫っているという事実が異常なのだ。


「シッ――!」

 横薙ぎの一閃。

 軽く飛び退くだけで“軍服の男”はそれを回避する。


 一切の油断はない。

 全身全霊をもって、“軍服の男”は七宝玻璃を殺そうとしている。


 だというのに、玻璃は未だその剣を下ろさない。

 燃え盛る意志を瞳に宿し、ボロボロの体を突き動かして立ち向かう。



「いったい、なにが」

 だから、“軍服の男”は問う。

 問いかけてしまう。


「貴様を突き動かすその原動力はなんだ!」

 理解が出来ないから。

 納得が出来ないから。


「誠実な男なのだということは理解した。その根底に清く強固な正道の意志があることも納得できる。だが、貴様のその不退転の決意はどこから湧いている!」

 この世界で生きた時は僅かで、この世界を守る理由は希薄。

 なのにそれだけで十分だと命を差し出すその光景を、“軍服の男”は糾弾せずにはいられない。


「ああ認めよう。貴様は間違いなく英雄だ。だが、貴様、いつからだ?」

 いったいいつから、そのような異常極まりない精神構造で生きてきた?


「……黙って聞いていれば、好き放題に」

 肩で息をし、霞む視界に“軍服の男”を捕らえ。

 玻璃は静かに、口を開く。


「理由が必要ならば教えてやるさ」

 同じだよ。


 そう短く、玻璃は“軍服の男”へと言葉を投げる。


「同じ、だと……?」

「ああそうさ、かつての英雄。“どこかへ行きたい”と願い、この世界に呼び寄せられた先人よ」

 どこかへ行きたい。

 始まりは皆等しくそうだった。


「やり直す。それが俺の願いだ。かつて失敗した正道の歩みを、今度こそ踏破する為に」

 それこそが全て。

 命を賭すに値する、七宝玻璃の存在理由。




「――そうか」

 詳細は理解できなくとも、言葉は不要と伝わった。

 “軍服の男”はそれで終わりだと、軍刀を再度正眼に構える。



「アレス。それがかつての俺の名だ」

「――玻璃。七宝玻璃だ」

 名を告げたのは、決意のためか。

 それとも、目の前の英雄への敬意か。


 剣撃の速度が急激に加速する。

 人体の限界を超えて振るわれる軍刀によって、玻璃の体から鮮血が舞う。



 終焉は、僅か数分で訪れた。

 パキンと、小さな音を立てて玻璃の持つ剣が砕かれる。


「――終わりだ」

 無防備になった首へと振るわれる横薙ぎの一閃。

 

 回避は不可能。

 防御など言うまでもなく。


 一切の無駄を排除した、命を奪うためだけの一撃。

 首元へと迫るそれは、ゆっくりと玻璃の皮膚を、そして肉を裂き――。


 

「――――なッ?!」

 突如現れた影が、玻璃を覆い隠す。


 瞬間。

 玻璃のみが存在していたはずの地点には、新たな人物が姿を現していた。


「久しぶり、まだ生きてる?」

「き、貴様は……」


 黒い髪が風に揺れる。

 赤く汚れた衣装が存在を主張する。


「――聖辺、輪廻!」

 そう、その正体は聖辺輪廻。

 英雄の一人にして、最優先捜索対象であった一人。


 放っておいても死にかねない病をその身に宿した少女。

 最弱にして最悪。

 最強にして最凶。


 分類不可能の特異英雄が、戦場に現れたのだ。

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