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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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英雄の帰還

「ごめんなさい、遅くなって」

 展開された魔道防壁が、星喰獣の猛威を押しとどめていた。

 その術式には見覚えがある。

 何度もその目で見た、エクレールが最もよく知る教科書通りで無駄のない魔道陣。


「だけど、ギリギリ間に合った」

 そして、もう一つの影が動きを止めた星喰獣を切り払う。

 音も無く無数の斬撃を受けた星喰獣は己がなにをされたのか分からないままに崩れ去る。


「愚痴や叱責は後で。まずは命令をくれ」

 影の輪郭が浮かび上がる。

 影の正体は、言うまでもない。


「彼方――!」

 今宮彼方。

 血で染まった紅い包帯を全身に巻いた、傷だらけの英雄がそこにいた。


「私たちだけではないですよ。既にハリが各地の救援に向かっています」

 リンネとクリミアだけは消息不明ですが……。

 リーリエは頭を抱えて、そう伝える。


「――十分だ」

 ああ、十分過ぎる。

 エクレールは崩れ落ちた体をもう一度持ち上げ、立ち上がる。

 

 希望はここに舞い降りた。

 ならば地に伏す理由は存在しない。


「ああ、反撃開始だ。その身、十全に使い潰させてもらうぞ!」





 ここに人類の逆襲が開始する。

 突破された陣形は僅か三名の増援で瞬く間に再構築を完了した。 


 一騎当千とはまさにこのことか。

 二人の英雄と、一人の戦姫が戦場を希望で満たしていく。

 

 必然、人類の士気が蘇る。

 折れかけた心が再生し、立ち向かう意志が絶望を打ち壊す。


 湧き上がる歓声。

 それは恐怖を押さえ込み、実力以上の成果を誰もが叩き出す最高の環境を作り上げる。


「そして、貴様らの登場というわけだ」

 エクレールの声と同時。

 眼前に現れたのは、かつて見た暴虐の化身。


「まずは“怪物”の到来か……」

 四本の足を振り回して、“怪物”がこちらに迫る。

 

 人体を繋ぎ合わせたような、異形の外見。

「――いや、ここに来て戯言も言うまい」

 エクレールは気づいている。

 人体を繋ぎ合わせたようなではない。

 実際にそうなのだと。


「過程は知らん。理由も、嘆きも。どういった理由で人の身を捨てたのかは今更問わぬさ」

 貴様はただの討伐対象だ。


 エクレールの胸には、今も多くの感情が渦巻いている。

 かつての英雄がどうして墜ちたのかという疑問。

 己の正義を揺るがす多くの状況証拠。

 自分たちこそが悪なのではないかという、抑えきれない不安。


「祖国と国民を守るのが、私の使命だ。それを脅かす貴様らは、敵だ」

 だが揺らがない。

 一度揺らげば、戻れないことを本能で理解しているから。

 逃避と呼びたければ好きにしろ。

 そう決めて、そう走る。

 決意を固めたエクレールは、己の中に決めた規則と信念に従って悪を討つ。

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