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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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反撃開始

 決戦とはいえ、エクレールの取る戦術は以前と変わらない。

 徹底した遅滞戦闘と数の差を作り出しての各個撃破。


 違いがあるとするならば、ただ一点。

 秘匿して行っていたこの作戦を、敵味方に周知されるように。


 当然、敵勢力からの妨害は苛烈極まるものとなるだろう。

 だがそれ以上の利点として、情報の強制伝達を優先した。


 すなわち、特記戦力の捜索。

 未だ消息不明の英雄たちを呼び戻す為に、大規模侵攻の騒乱を利用する。


 エクレールだけではなく、多くの人々が気づいている。

 この戦い、彼らの力無しでは勝つことは不可能だと。


 彼らが生きていて、この戦いに参加する意志を見せること。

 そして全員が連携を取り立ち向かうこと。

 その全てを満たしてようやく、人類に僅かな勝算が発生する。


 だから、これは予想通りだ。


「深追いはするな、損傷の軽減を第一に考えろ!」

 各所から湯水のように飛び込む救援要請。

 それら全てに適切な対応をエクレールが指示することで、戦線の崩壊を遅らせる。


 事実、その作戦は順調に進んでいた。

 消耗は最小限に抑えられ、相手への損害は最大限に。

 最高潮に高まった士気は予想以上の戦果を各所で叩き出している。

 

 

 だが、それも一瞬。

 想定通りに、戦局は一気に変化する。


「出ました、“奴ら”です!」

 各所で出現報告が上がる、星喰獣を超える者。


 奴らが出れば、現状の優位など瞬時に逆転する。

 それを証明するように、一部戦線の後退速度が加速度的に上昇しはじめた。


「――早く」

 早く、来てくれ。

 エクレールの胸中で、祈りにも似た感情が溢れていく。


 全力を尽くして壊滅を遅らせることしか、エクレールたちには出来ない。

 英雄の登場を待って、命をかけて数秒の時間を作り出す。



「襲――!」

 だが、遅い。

 健闘空しく、防衛線が数箇所食い破られる。

 悲鳴交じりの報告が喧騒と爆音に掻き消され、防衛線内部は瞬時に地獄と化した。


「――――!」

 崩壊した戦線は、薄布に燃え移る炎のようにその範囲を広げていく。

 最低限の抵抗が未だ行われていることが、エクレールの成果であり無駄な足掻きでもあった。


 時間にして、およそ数分。

 たった一人の秀才による抵抗によって生み出された時間は終わり、予定通りの崩壊が始まる。


「――ッ!」

 エクレールの眼前に、数体の星喰獣が襲来する。

 それは直接的な脅威ではない。

 エクレール単騎であろうとも、数体の星喰獣程度ならば撃退は容易だ。


 だが、この中枢にまで星喰獣が現れたということが問題なのだ。

 それはつまり、ここまでの防衛が機能していないという事実を表しているのだから。


「……終わり、か」

 エクレールの心が、急速に冷え込む。

 それは諦めや停止。

 人類が歩みを止めた瞬間、胸に感じる冷気だ。


 己が力を振るえば、目の前の脅威は退けられるだろう。

 ああ、だがそれで?

 その後に待っているのが変わらない破滅であるのならば、ここで諦めるのと結果はなにも変わらない。


 振るうはずの腕が上がらない。

 両膝が大地に接触した感触が、全身にゆっくりと伝わる。

 全身の力が抜け、魂が抜け落ちたようにエクレールの体は崩れ落ちる。


「無駄、だったのか」

 そう、なにも変わらなかった。

 漏れる呟きは己の耳にさえ届かないほどの小さな声だ。


「無駄だなんて、悲しいことを言わないで」

 なのに。

 その呟きに答える声があった。


「ありがとう。おかげで、間に合った」

 エクレールの目に入る、一つの人影。


 それは希望。

 それは巧妙。

 それは英雄。


「リーリエ……?」

 それは、“あの日”から姿を消していた唯一無二の友人だった。

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