決戦の火蓋
「――時期尚早ではないでしょうか」
エクレールの隣で、一人の部下がそう苦言を呈する。
「戦線は今だ広大です。事前の戦略どおりであれば、今しばらくは敵戦力の消耗に勤めるべきかと……」
「正論だな。教科書通りの最適解だ」
そして、エクレールはそれを否定しない。
現状での反転攻勢は、決して勝率が高くないだろう。
楽観的に見積もって四割。それがこの最終攻勢の成功率だ。
「だがな、貴様の理論は机上のものだ。相手がこちらの手に気づけば、この消耗戦略は破綻する」
その四割に全てをかけるだけの理由があるのだと、エクレールは語る。
まるで出来の悪い生徒を諭す教師のような、この場にそぐわない奇妙な声色。
「常に最悪を想定しろ。都合よく向こうが消耗し続けてくれるという根拠も、こちらの損傷が最低限で済むという根拠も存在しないのだ」
故に今。
勝率が最大限に高まった今にこそ、勝負するべきなのだとエクレールは口にした。
そして、エクレールも部下も口を閉ざした。
決意を固めるためか。あるいは、振り返る時間か。
「志願者を集めろ。強制はしない」
エクレールの、いつもの宣言が部下へと言い渡される。
この上官は、決して他者へ戦いを強制しない。
戦える者は、戦うべきだ。
力ある者は、その力を有意義に使用するべきだ。
そんな持論を持ちながら、それを決して他者へは振るわない。
己がそうあればいいと、自分だけがその義務を果たし続ける。
「馬鹿者共が……」
だからこそ、彼女の部下は己を幸せだと誇るのだ。
先頭で旗を振るう彼女にならば全てを預けられると、進んで命を差し出せる。
それは妄信ではない。
それは純粋な憧れだ。
憧れ、羨み、焦がれるからこそこう願う。
彼女の傍に、永劫ついていきたいと。
「三十四名全員が、決戦参加を希望しました」
誇らしげに、一人の部下がそう宣言する。
三十四人全員の目は、一切の淀みなく輝いていた。
己は幸せ者だと、エクレールは想う。
これだけの部下に恵まれた人間など、そうはいないだろう。
だからこそ、失ってはならない。
そう心中で唱え、エクレールは一人決意を固めた。
「――終わらせるぞ」
短い、最低限の情報すら足りていない呟き。
だがその言葉に、三十四人全員が同意した。
いつもと同じように、エクレールが歩を進める。
戦いを終わらせるために。
平穏な世界を取り戻すために。
最終決戦の幕は今落とされる。




