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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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敵対宣言

 この世界の真実。

 正直なところ、クリミアはそのような些事に興味があるわけではない。


 真に欲しているのは、未知の知識と技術。

 輪廻の病を治すために、新たな情報を求めているにすぎない。



「…………」

 だが、目の前の存在から語られた真実には少なくない動揺があった。

 クリミアは口を閉ざし、その内実を脳内で循環させる。


 今まで戦ってきた相手が、過去の英雄であるという衝撃。

 同胞と争っていたという事実が、クリミアの心中を揺さぶりだす。


「理屈は通っていますね。あなたの言葉を信じるならば」

「……思っていたよりも、冷静だな」

 そう、クリミアはそれでも冷静な心を失わない。

 他の英雄たちと比べて信念などに欠けている部分があるというのも事実。

 だがそれ以上に、理を重視する心根がクリミアの芯であるということが大きい。


 一般的な英雄であれば、本能が忌避する可能性。

 しかしその可能性には、確かな理由と説得力が存在するのだ。

 そうでであるのなら、クリミアは一考するだけの価値があると判断する。


「だからこそ、ここに姿を現したわけだが」

 “軍服の男”の口元が、薄く歪む。

 

 その様子に、クリミアは一つの疑問を抱いた。

 以前遭遇した時に感じた、あの鮮烈な殺意を感じないことに。

 こうして会話が成立しているということが、すでに大きな異常であるのだと。


「貴様らが凡百の英雄たちであったのならば、会話の余地なく殺戮していたさ」

 だが、貴様らは違う。

 そう“軍服の男”は口にした。


「世界よりも、なによりも。全てを犠牲にしてでも叶えたい願いがあるのだろう?」

 ならば、会話の余地はある。


 幽鬼のような表情からは、その真意を読み取ることができない。 

 ただ、伊達や酔狂で“軍服の男”がここにいるわけではないということだけが鮮烈に伝えられている。


「我々は、この世界が憎い」

 一切の感情を込めず、“軍服の男”はそう宣言する。


「故に、この世界を守ろうとする“英雄”が憎い」

 世界を敵に回す。

 世界を守る者を敵に回す。


「――ならば、私たちも敵ということですか」

「ふむ、貴様らは世界に興味がないとばかり思っていたが……」

 違うのかと、“軍服の男”が問いかける。

 どこまでも誠実に、どこまでも滅裂に。


「世界の平穏などには、興味がない。ただ、世界の破滅など御免被る」

 そんなことをされては、治せる者も治せなくなるじゃないですか。

 そう、クリミアは宣言した。


 クリミアの行動原理は絶対不変。

 全てを治し、全てを救う。


 世界ではなく、個人のために。

 全ての個人を救うために、彼女は戦っている。


「故に、あなたたちとは相容れない」

 “軍服の男”が殺意を向ければ容易に死に至るこの状況で、クリミアは堂々と宣言する。

 私はお前の敵であると。


「――そうか」

 納得したように、“軍服の男”は踵を返す。

 聞きたいことは全て聞いたとばかりに、未練なく。


「ここで殺しておかなくて、後悔は?」

「次に会えば、そうするさ」

 次はない。

 そう言って、“軍服の男”は小さく首を振る。


「ああ、はるか昔だがな。誰かを守るためにという気持ちを、我々も持っていたのだよ」

 誰に向けたものでもない、そんな独白。

 その言葉の真意は不明だが、それは紛れもなく“軍服の男”の本心であった。




 そして、その場には静寂が残る。

 クリミアは口を噤み、ただ黙って“軍服の男”の立ち去った先を見据えていた。

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