偶発遭遇
「流石、と言うべきか」
物言わぬ屍となった星喰獣を横目に、“軍服の男”は二人の前に立っている。
黒く沈んだ、黒曜石のような瞳がじっと二人を見つめていた。
「会話は可能か」
「……私、一人なら」
会話という手段を向こうが用いてきたという事実に、クリミアは反射的に警戒する。
しかし、抵抗すら許されない圧倒的な力の差がここではいい方向に働いた。
「加えて、この子の治療を治療する片手間であれば」
「ああ、それでいい」
抵抗や反撃が無駄な行動である以上、この状況下での最適解が単純化されたのだ。
それはクリミアにとっても“軍服の男”にとっても、想定外の事実ではあるが。
治癒魔術を輪廻へ行使しながら、クリミアは横目で“軍服の男”の様子をうかがう。
一切の思想や思考が読めない相手と相対するという状況が、反射的に警戒心を抱かせていた。
「名は?」
いきなりの質問。
名を問うという、あまりにも常識的でこの場にはそぐわない言葉にクリミアは一瞬耳を疑った。
だが、クリミアは決してぶれない。
問われれば返す。
一切の虚飾なく、己の真実を。
「私はクリミア。そしてこちらが、聖辺輪廻」
世界の英雄にして、私の患者です。
万人に問われれようとも答えは変わらない。
世界を救う英雄だとしても、クリミアにとって彼女は救うべき患者の一人。
いつもと変わらない口調で、そう言い放つ。
「クリミア、か」
小さい声でその名を呟き、“軍服の男”は口を閉ざす。
時間にすればほんの数秒。
なのにそれが相当な熟考であると、クリミアには理解できてしまう。
それに類似した光景を知っているからだ。
己の命よりも重大で崇高な決断。
それを連想させる目の前の姿に、クリミアは無意識に神経を傾ける。
想定外の遭遇から生み出された存在しないはずの可能性。
神など一度も信じたことはないが、全ての巡り合わせを切り捨てるほどクリミアは冷徹ではない。
縁や奇跡は尊いものだ。
ならばこそ、この遭遇にもなんらかの意味がある。
クリミアには、そう思わずにはいられなかった。
「――世界の真実を知る勇気はあるか」
そしてその口から飛び出した問いに、クリミアは反射的に頷いていた。




