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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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血染めの戦士

 聖辺輪廻は生きている。

 この光景を、生きていると軽々しく口にできるのならばだが。


 十を超える星喰獣の死骸に囲まれた、二人の女。

 クリミアと輪廻の全身は赤く濡れていた。


 外傷は皆無。

 八割が返り血、二割が吐血。

 凄惨な惨状は一切の怪我なく作られている。


 陸に上がった魚のように息を荒げる輪廻。

 少しでも酸素を取り込もうと、全身の筋肉が必死に脈動する。


 無理もない。

 つい先程まで、輪廻の呼吸は停止していたのだから。


 周期的な連続戦闘と劣悪な生活環境。

 止めとばかりに襲い掛かった集団を殲滅した瞬間、限界は訪れた。


 戦闘後まで耐え切ったことを評価するべきか。

 それとも、緊張の糸が切れたと判断するべきか。


 生死の境をさまよって数時間。

 クリミアの治癒魔術と輪廻の強固な生存本能により、命だけはこの世に繋ぎとめられていた。




「……危なかった」

 そう、クリミアは自分と目の前の輪廻に向けて呟く。

 普段は出さない弱気な本心が微かながら漏れているあたり、彼女の限界は近いのだろう。


「副作用の強い薬を投与したから、しばらくは大人しくしていなさい」

 全力に全力を重ねた治癒魔術の長時間連続行使は、クリミアの精神を限界まで削っていた。

 だがクリミアはそんな様子を一切外に出さず、淡々と必要な言葉を告げる。


「近場に水場があれば……」

 この血も落とせるんだけど。

 そんな呟きは、この異常極まる状況に比べて異常なほどに呑気だと言える。



 もし、新手の星喰獣が現れでもしたら。

 その瞬間に二人の命は尽きるだろう。


 唯一の戦力である輪廻は今、己の命を繋ぐことに全力だ。

 クリミア一人では些細な抵抗すら許されず文字通り瞬殺される。


 だからこそ、というべきなのか。

 クリミアは一切の警戒を放棄し、己と輪廻の体力の回復に努めていた。


 出会えば終わる。

 一切の抵抗が意味を成さないのなら、警戒など体力を無駄に消耗するだけでなんの意味も無い。

 

 それは確かに、理論上は正しい選択だ。

 しかし、それが人の選択として正しいのかは別だが。




「――見つけた」

 そして、その報いとでもいうべきか。

 最悪の想定を切り捨てた代償が、目の前に現れる。


 “軍服の男”が、戦闘能力を失った二人の目の前へと現れたのだ。

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