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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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欠片が二つ

 その日、ミズガルズという国は世界から消えた。


 本国に待機していた英雄たちは、およそ組織とも呼べない有様だった。

 

 纏め役となる将の不在。

 最高戦力の消失。


 エクレール、リーリエ、七宝玻璃、今宮彼方を失った今、烏合の衆と表現するのが適切な団体。

 必死の抵抗も一切の成果無く無残に打ち破られ、残るのは肉片と飛び散った血液のみ。


 逃げた民は八割が殺された。

 立ち向かった兵は九割が殺された。

 

 そしてなによりも、最優先で英雄たちが殺された。


 “奴ら”は英雄を恨んでいる。

 恨み、妬み、死に絶えろと憤怒を周囲に撒き散らす。


 助かった人間は、近くに英雄がいたために優先順位の関係上無視されただけ。

 生き残るための条件は、幸運であることのみだった。



 あるいは、相手が星喰獣のみであったのなら。

 万に一つほどではあるが、勝利の可能性も残されていたかもしれない。

 勝利とまではいかずとも、生存率を五割程度にまでは上昇させることが可能だっただろう。


 だが、それはもしもの仮定だ。

 もしも、あるいは、こうであったら……

 そうした都合のいい夢物語。


 しかし現実はそうならなかった。

 どこまでも無残に無慈悲に老若男女も関係なく、人類は怪物に潰された。


 無論、人間はどこまでも勇敢に立ち向かった。

 力を持つ者は他者を守るために。

 力を持たぬ者も、必死に生きるために。


 ある者は戦うために剣を持ち。

 ある者は生きるために走り。

 ある者は救うために声を上げ。


 そして、全ては消え去った。



 死者の正確な数は不明。

 重傷者の正確な数は不明。

 生存者の正確な数は不明。


 死者過半数。

 重傷者数多数。

 生存者数、極めて少数。



 数少ない生存者は、その全てが行方知れず。

 反撃の牙を研ぐ者もいるだろう。

 隠れ潜み、ただ生きようと逃げ惑う者もいるだろう。


 だが、皆はすでにミズガルズの国民ではなくなった。

 国は消えた。

 礎も人も土地も理念も秩序も、あの星喰獣たちに奪われた。


 

 仮に。

 もし仮に、ここから人類が全てを取り戻したとしよう。


 星喰獣を全滅させ、謎の怪物も打ち倒し。

 世界に平和を取り戻せたとして。


 それでもこの世界は終わりだ。


 ここまで無残に徹底的に破壊されれば、待っているのは急速な破滅か緩やかな破滅かの二択である。

 奇跡が起きて絶望を振り払ったとして、たどり着くのはバッドエンドでしかない。


 無意識に、生き残った人間はそれを理解している。

 もう無駄なんだと。

 もう終わったのだと。

 エピローグのような人生を生き、残された自由はいつどのように死ぬか選ぶことだけだと。



 それでも。

 それでも、どんな常識にも例外は存在する。


 皆がそうなのだから奴もそうなのだろうという常識は、奴らには通用しない。


 終わっている。

 なにをしても無駄。


 ああそうか。

 なるほどなるほど、確かにその通りだ。


 だからどうした(・・・・・・・)

 

 それは我らが諦める理由にはならない。

 それは彼らが歩みを止める理由にはならない。



「世界の破滅? そんなものはどうでもいい」

 日本人形のような黒髪をなびかせて、聖辺輪廻は笑みを浮かべる。

 

「ええ、私たちの目的はそんな些事ではないのだから」

 鋭い瞳で天を見据え、クリミアは同意する。


 世界の破滅を些事と言い切る馬鹿二名。

 少なくとも、二人の人類が絶望とは程遠い領域にいた。



 人類はしぶといのだ。

 このような絶望程度で絶滅などしない。


 状況は最悪。

 戦力差は火を見るより明らか。

 

 だけど、それでも。

 もしも誰かがこの光景を見れば、きっとなにかが湧き上がる。

 

 それは言葉では言い表せない、暖かななにかだった。

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