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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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終焉、開始

 星喰獣対策部隊総司令官であるオルデンという男の対外的評価は、星喰獣の侵攻が開始してから何度も二転三転していた。


 優秀な男かと問われれば、ほとんどの国民がその通りだと答えるだろう。

 だが有能な男かと問われれば、多種多様な答えが返ってくるに違いない。



 誰よりも速く星喰獣襲来への対策を講じ、英雄召喚を実施。

 

 だが、その英雄に過大な期待を抱いていたせいで戦線が一時崩壊。


 上層部と前線の仲介役として、摩擦の軽減に努める。

 エトセトラ、エトセトラ。



 功罪が入り混じった実績を主観的に見れば、どう足掻いても視点によって評価は千差万別。

 仮に客観的に見ることが可能だったとしても、ここまで複雑な例では神の視点でもない限り正しい評価など望むことはできない。


 この男の評価がどうしてここまで複雑怪奇なものと化したのか。

 その原因を、あえて神の視点から語るのならこう記すのが最も適切だろう。


 オルデンという一人の男は、どうしようもなく“普通の人間”であったのだと。


 凡俗で凡庸な価値観を持つ、普通の人間。

 この世で最も多くいくらでも代わりがいるが、彼らこそが世界を回す最重要な存在。


 通常であれば物語の端役として生を終えたであろう彼は、しかしその精神性に見合わない才覚を所持していたのだ。

 人並みの努力で培われた天才以下凡人以上の才覚は、星喰獣という大いなる危機に直面した瞬間に歪な形で花開く。


 その結果がこれだ。

 それが良いことなのか悪いことなのかは、本人にすらわからない。

 だが、確実に言えることが一つ。


 もしもこの世にオルデンが生まれていなければ、世界は終わっていた。



 星喰獣の存在がこの世界から消失して一年。

 訪れた平和をようやく皆が実感しだしたころ。


 オルデンだけがただ一人、軍備の縮小に異を唱え続けていた。


 それは他者から見れば戦争狂の抵抗に見えただろう。

 上層部も兵士も民も皆全て、ようやく終わった戦争から目を逸らしたがっていたのだから。


 敵のいない状態でまだ戦争は終わっていないと熱弁する男の姿は、それはそれは恐ろしく、醜悪に見えていたに違いない。


 二転三転していたオルデンの客観的評価は、満場一致で地に落ちた。

 部下は離れ、権力は奪われ、信念は押し潰されようとしていた。


 だがそれでも、オルデンは強固に主張を続けた。

 平和に逃げることの危険性を繰り返し説いた。

 破滅を避けるのだと何度も叫んだ。 


 目を逸らして逃げ出そうとする皆を説得し、辛い現実と立ち向かえと声を張り上げた。


 結果、数ヵ月後に再びオルデンの評価は逆転する。

 だがオルデンはそのことを一切喜びはしなかった。


 曰く、己が無能な馬鹿者だと歴史に残って欲しかったと。

 そう呟くだけだった。


 

 星喰獣は再襲来した。

 その先頭に、消え去ったはずの脅威を携えて。


 軍服の男が、ふらついた足取りで歩を進める。

 異形の怪物が、ギチギチと軋む音を上げながら前進する。

 謎の影が、輪郭も定まらずにゆらゆらと揺れている。



 戦争は終わらない。

 そして、絶望が始まった。

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