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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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プロローグ “エクレール”

 法律、秩序、ルール。

 それは人の社会を構築する最も重要な要素である。


 集団で生きるために必須となる規則。

 エクレールはその秩序を何よりも好んだ。


 人の力で生み出された、人が人として生きるための秩序。

 その存在に、どうしようもなく惹かれたのだ。


 人と獣を分かつのは、知性の差である。

 その言葉を胸に刻み、エクレールは日々を生きてきた。


 特別になにかを志していたわけではない。

 人として生きる。

 ただそれだけを目指し、生きていた。


 そう、幼いエクレールには理解ができていなかったのだ。

 常に人であろうと意識して生きている人間というものが、少数派であるということを。


 大多数の人間は生きることに理由など求めない。

 なんとなく生きて、なんとなく死ぬ。

 惰性の人生を謳歌するのが凡人や常人の人生だ。


 使命感を生まれつき持つ時点で、その人物は特別である。

 持つ者は持たざる者のことが分からない、とはまた違う話であるが。

 幼少期のエクレールは、皆が自分と同じように生きているのだと信じて疑わなかった。


 現実を知ったのは、十一才のころ。

 己が特別なのだという事実にようやく思い至り、首を傾げた。

 

 なにも思考せず生きている人間の気持ちが、エクレールには理解できなかったのだ。


 苦悩はしなかった。

 絶望など覚えなかった。


 ただ単純に、理解ができなかった。

 どうしてなのだろうという、ある意味では子供らしい疑問だけが胸の奥に湧き出ていた。



 三年の時が立って、ようやく自分なりの結論が出せた。

 人の生き方は個人個人で自由なのだと折り合いをつけた。


 そして、使命には正面から立ち向かうのだと決意した。

 ノブレス・オブリージュとは少し異なるが、持つ者としての使命感というものだ。



 軍人の道に進み、国を守る人生を歩みだす。

 己の成果が目に見えて国を守れることは、エクレールの性根に合っていた。


 頼れる部下ができた。

 気の合う友人ができた。


 充実していると断言できる、順風満帆の人生。

 だがどうしてか、エクレールの心は満たされてはいなかった。


 理由も原因も不明。

 六割程度の満足感だけが永劫に続く人生を、エクレールは生きていた。



 変化が訪れたのは、戦争の開幕と同時。

 命を懸けた戦いに身を投じた瞬間、奇妙なほどに充実感が胸を満たしだしたのだ。


 エクレールはその事実から目を逸らす。

 その真実を認めてしまえば、致命的になにかが壊れてしまうような確信があったから。

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