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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
終焉へ向けて
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プロローグ “七宝玻璃”

 名は体を表す。

 物や人に付けられた名前は、その中身や性質を的確に表現しているという意味だ。


 七宝とは仏教において貴重とされる七つの宝のこと。

 玻璃とはその七宝の一つであり、現代での水晶にあたる。


 美しく、透き通る。

 その名が示すように、七宝玻璃は極めて純粋な子供だった。


 警察官の父親と、弁護士の母親。

 両者から正しく生きることの意味を、玻璃は幼少期に教わった。


 七歳で、正義の素晴らしさを学んだ。

 十歳で、善は悪よりも脆く弱いのだと学んだ。

 十二歳で、それでも正しく生きようとすることの美しさを学んだ。


 正しく生きる。

 茨の道であることは両親の姿を見れば十全に理解できた。


 それでも玻璃がその道を歩もうと決めたのは、その両親の姿が輝かしかったからだ。

 生き辛そうに、それでも笑っていた両親。

 傷だらけのそんな姿が、どうしようもなく美しかった。


 純粋な少年が憧れるほどに。

 当時の玻璃には、まさしく英雄のようだったのだ。


 正しく、誠実に。

 しかしそれだけで生きていけないことも理解しながら、玻璃は生きていく。



 年齢が一桁のころは、真面目な良い子という評価を受けた。

 

 中学校に上がったころには、妬みや反感が押し寄せた。


 それら全てを受け止めて進めるだけの強さを、玻璃は持っていた。

 持ってしまっていた。


 恵まれた生まれの人間が努力を絶やさず善の道を突き進む。

 その姿はまさしく現代の英雄のようであっただろう。


 物語にしかいないような、綺麗事を貫く存在。

 それは太陽のように、玻璃の周囲を照らしていた。



 そしてそれが当然であったかのように、破滅は訪れる。

 茨には耐えられる心は、致命的な一撃で砕け散った。


 両親が汚職を摘発された。


 無論、それは冤罪だった。

 だが、彼らを邪魔だと断じた悪は組織の上層部にこそ潜んでいたのだ。


 意志や感情ではどうしようもない、悪の存在。

 それを間近で見せられた玻璃は、己の存在理由すら揺らがす衝撃を受けたのだ。


 今まで積み上げてきた何もかもが、砂のように崩れる感覚。

 誰よりも高みを目指していたが故に、その衝撃には誰も耐えられない。



「――どこかに、行きたい」

 具体的な希望があるわけではない。

 ただ、ここにいたくなかった。

 この世界にいたくなかった。


 そう願い、玻璃は権利を得た。

 やり直す権利を。


 もう一度、正道を歩むために。

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