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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
侵攻戦開始
49/91

仮初めの終戦処理

 渾身の一撃が“影”を捉える。

 文字通りに吹き飛んだ“影”は、見晴らしのいい平原を数度バウンドして転がると、己の作り上げたクレーターへと落ちていった。


 しばしの無音だけが、その場に残る。

 拳を伸ばしたまま、彼方は地面へと倒れ伏した。


「――カナタ!」

 リーリエが慌てて駆け寄るも、その進みは極めて遅い。

 誰の目から見ても、疲弊しているのは明らかだ。


 無論、それは彼方やリーリエだけではない。

 全ての人間が全ての力を搾り出し、影の災害を押さえ込んだ。

 その代償は、目に見えてズタボロとなった英雄たちの姿がなによりも物語っている。



【――まだ、終わらない】


 そして。

 それだけの代償を払ってもなお、災害は終わらない。


 クレーターから、“影”が這い上がる。

 姿を隠していたローブはボロボロで、すでに衣服としての体裁を成していない。

 あちこちが破れたローブの隙間からは、人の顔や肌が覗いている。


 “影”の正体は、少女だった。

 いや、もはや童女や幼女と形容するのが正しいほどにその少女は幼く見える。


 絹糸のような白銀の髪。

 病的なまでに白い肌。

 黒曜石を埋め込んだような黒い瞳。

 風が吹けば折れそうなほどに細い四肢。


 聖辺輪廻が日本人形のような女だとするなら、目の前の少女は西洋人形。

 端的に言って、人とは思えぬ美しさ。

 そういった印象を一目で抱かせる外見だった。


【終わらない、終われない、終わらせない……】

 

 ぶつぶつと呟く言葉は誰に向けたものでもなく。

 その意思も殺意も、ここではないどこかへと向いている。


 ふらつく体を杖で必死に支える姿に、もはや脅威は感じられない。

 もはや目の前にいるのは災害を振り撒く影ではなく、無力で無様な一人の子供だった。


「…………任務は終了だ、急ぎ少女の保護を」

 だからだろう、エクレールは失敗した。

 目の前の少女を保護対象とみなし、気を緩めた。



【――消えろぉ!】

 少女が杖を地面へ突き立てる。

 その行動を切っ掛けとして、少女の周囲が無数の光源に照らされる。


「なっ――」

 動揺と錯乱が決定打。

 この状況において数瞬の遅れは致命となり、エクレールを襲う。



 その瞬間、この場の全ての人間の意識は途絶えた。

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