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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
侵攻戦開始
48/91

英雄とは人類の代表である

 連続する爆発に、皮膚が焼かれる。

 直撃せずともその熱や衝撃は依然として脅威であり、猛威を振るっていた。


「く、ぅッ!」

 彼方へと向かう衝撃を緩和するために全力で障壁を展開しているリーリエだが、その表情には苦痛の色が浮かんでいる。


 一撃一撃がとにかく重い。

 爆発の衝撃を押さえ込むという支援は、見た目以上にリーリエを消耗させている。


 さらに厄介なのが、その攻撃に一切の規則性が存在しないということだ。

 相手の思考を読んで対策を取るという手段が封じられ、反射での対応を強いられる。


 結果、リーリエの精神は通常の数倍の速度で擦り切れていく。


「まだ、まだ、まだぁ!」

 しかし障壁は砕けない。

 それどころか更なる強度を得て、彼方を爆発から守っていた。


 その根本は単純な根性論だ。

 誰かを守りたいという単純で陳腐で、なにより美しいリーリエの想いが彼方を守るために全力以上の力を発揮している。


「合わせろ!」

「ああ!」

 そしてエクレールと玻璃が、左右からの牽制を放つ。

 魔力弾と真空弾が、“影”を挟み込むように放たれた。


 それはどちらも、必殺の威力を備えた牽制だ。

 直撃すればそれだけで決着が付くほどの、文字通り必殺の一撃。


【邪魔だ】

 だが、その牽制は“影”へは届かない。

 爆発に巻き込まれ、“影”へと届く前に消滅した。


 だが、これでいいとエクレールは第二弾を放つ。

 あくまでも目的は牽制。

 万が一にも彼方を狙われないように放つ支援砲撃。



 その効果は不明だが、確実に彼方は“影”へと接近している。

 未だ数秒しか経過していないはずの攻防が、当人たちには永遠に感じられるのだろう。


 その距離は既に半分を越えた。

 そして一歩進むごとに、爆発の密度は加速度的に上昇していく。


「ぐッ……!」

 掠めるような爆発に、彼方の肌が焼け焦げた。

 右腕から煙が昇り、痛々しい傷跡が露出する。


「カナタ!」

 悲鳴のような、リーリエの声が上がった。

 もはや精神力ではどうにもならないほどに、“影”の爆発が彼方へと降りかかっている。


「これで、いい……!」

 彼方の選択肢は加速。

 傷を負った事で上昇した魔力を全て両足に集中させ、“影”へ向かって駆ける。


 防御を捨て、ただ速く、一秒一瞬でも早く。



 その成果が遂に実る。

 全身を火に焼かれながらも、遂にたどり着く射程範囲。


 彼方はここで初めて、己の拳に魔力を乗せる。


【――消えろォォォォ!】

 そしてようやく、“影”は彼方を認識する。

 明確に向けられた視線と殺意。

 そしてその攻撃の矛先が彼方へ向けて放たれた。


 瞬間、付近は閃光に包まれる。


 一拍遅れて、爆音が響く。

 最大規模の爆発が“影”と彼方のいた地点を中心に発生したのだと周囲の英雄たちが認識したのは、それから数瞬の間をおいてからだった。


 常識で考えれば、生きてはいない。

 “影”も彼方も、全てが消し飛んで当然といえる衝撃。


 なのに、晴れた視界に移ったのは無傷の“影”だった。

 変わらぬ殺意を周囲に振り撒き、依然としてその場に立つ姿は恐怖でしかない。



「捕まえた」

 だが、その場にいるのは“影”だけではない。

 傷だらけの英雄が、拳を握って“影”の目の前に立っている。


 理由はあった。

 エクレールと玻璃の支援に、“影”の意識が僅かだが向いていたこと。

 直前にリーリエが全力の障壁で彼方を守っていたこと。

 

 だがそんなものは些事でしかない。

 そのような小細工など吹き飛ぶほどの衝撃が、確かに放たれていたのだから。


 だからこの光景に明確な理由は存在しない。

 あえて、無理やりにでも理由をつけるのならば。


「“人間”舐めんなぁ!」

 全てを賭けた一撃が遂に、“影”を捉えた。

 それこそが英雄の、人間の意地だと証明している。

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