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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
侵攻戦開始
47/91

影の災害

 それは、もはや災害と呼ぶべきものだった。


 無差別に、無秩序に、無遠慮に。

 爆発は繰り返され、次々と地面にクレーターが出来上がる。

 流星雨でも降り注いだのかと誤解しそうになるほど、その攻撃は大規模だ。

 

【消えろ!】

 そしてその元凶は、どう見ても正気ではなかった。

 傍目から見ても、その感情は殺意に塗り潰されている。

 

「くッ……」

 至近距離で繰り返される爆発に、英雄たちは戸惑っている。

 明確にこちらを狙っていないために直撃こそしていないが、だからといってその攻撃が脅威にならないというわけではないのだ。


 なんの前触れもなく爆ぜる地面。

 そんなものを回避するなど、透明な隕石を避けろと言われているような無理難題だ。


 故に英雄たちは迂闊に動けない。

 全神経を集中させなければ天災の回避など不可能だから。


 今取るべき手は明瞭だ。

 この現象を巻き起こしている目の前の“影”を止めればいい。

 

 その方法も複数あるだろう。

 対話、暴力、姦計。

 それは往々にして策と呼ばれるものの代表的な手段。


【あ、アアアアアアアア!】

 だが、多様な選択肢は相手が同程度の知性を持たなければ成立しない。


 つい先ほどまで成立していた会話は、今となっては試す気にもならない。

 つまり現状、有効な手段は力ずくということになるのだが。


「チィッ!」

 力ずくで止めるには、相手の力が膨大すぎる。


 連続する爆発に規則性は存在しない。

 だが、それは確実にあの“影”が発生させている。


 つまり、爆発は“影”の視認できる範囲にのみ発生する。

 それが回避を繰り返しながら英雄たちが至った結論だ。


 意識してクレーターを見ればそれは物的証拠にもなっている。

 不規則に見えるクレーターだが、“影”の近辺ではすでに二重三重のクレーターが完成していた。


 近づけば近づくほどにその密度は増している。

 ある程度距離を取っている現状ですら回避に苦労しているというのだから、これ以上の接近が自殺行為であるのは誰の目から見ても明らかだ。


「俺が行く、援護を任せたい」

 だが、動かなければ戦況は好転しない。

 たとえ危険であろうとも、体力や精神に余裕のあるうちに勝負に出なければ破綻するのは明らかだ。


 だからこそ、彼方はそう提案した。

 いつものように合理的で、反論の隙を与えない作戦。


「……わかりました」

 だが、それはあくまでも彼方から見て正しいというだけだ。

 己の身を躊躇いなく危険に晒そうとする彼方の姿に、リーリエは苦虫を噛み潰したような表情になる。


 感情と理論。

 この場でどちらを優先するのが正しいのかは、無慈悲だが明らかだった。


「タイミングは任せる。無茶はするなよ」

 エクレールの声に彼方は軽く頷くと、魔力を両足へと集中させる。



 英雄は遂に災害へと立ち向かう。

 その結果が指し示すものは、はたして。

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