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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
侵攻戦開始
42/91

最適な愚策

「アアアアアア!」

 怪物は止まらない。

 四本の手足を動かして周囲に破壊を振り撒き続ける。


 大振りな攻撃は回避こそ容易なものの、確実に英雄の心身は疲弊していた。

 加えて、こちらの攻撃が通用しないことによる焦り。

 早急に対策を講じなければ、英雄の破滅は免れない。


「くそッ!」

 だが、その対策が完全に意味をなしていない。

 偶発的な一撃とは、奇跡のような確率でしか起こらないからこそ偶発的と呼称されるのだ。


 怪物本体を狙わず、周辺を攻撃。

 副産物として飛来する飛び道具を怪物に命中させる。


 ああ、その作戦は今まさに実行され続けている。

 純粋に、効果が出ていないだけで。


「やはり、堅い……!」

 剣を振るいながら、玻璃は苦々しげにそう呟いた。


 獣とは比較にならぬ防御力。

 星喰獣ほどではないが、この怪物にも生半可な攻撃は通用しない。

 崩れた岩をぶつける程度では、怪物は身じろぎもしないのだ。



「――賭けに出るぞ」

 額の汗を拭い、彼方は横に立つ玻璃へと口を開く。

 その目は未だ決意の火が輝いている。

 

「……聞こう」

 怪物が振るう腕を寸前で回避し、玻璃は続きを催促した。

 光明が見えたのならば躊躇う理由は存在しないと、賭けの内容を聞き届けようとしている。


「――――」

「……正気か?」

 だが、その内容は玻璃ですら思わず聞き返してしまうような内容だった。

 そしてたちの悪いことに玻璃自身が、その賭けに乗ろうとしている。


「ああ、ここまでくればそれしかない。だが、しかし……」

「迷いは捨てろ。息を合わせなきゃ本当に死ぬぞ!」

 その言葉を合図に、二人の英雄は怪物の懐へと駆け出した。

 瞬間、彼方の拳と玻璃の剣に今まで以上の魔力が込められる。


「圧縮、充填、収束、集結……」

「限界突破、解放!」

 そして放たれる最大の一撃。

 それは怪物を狙ったものではなく、故に怪物には英雄がなにをしようとしているのかが読めない。


 拳が地面を打ち抜き。

 剣が壁を切り裂く。


 結果として、当然のように四方八方で破壊の嵐が巻き起こる。

 地は割け、壁は崩れ、足場が消え去り英雄と怪物は揃って自由落下に巻き込まれる。


 落ちていく数秒間。

 怪物の眼前には巻き上がった大量の土が重力によって一拍遅れで降り注ぐ光景がスローモーションで繰り広げられていた。


 そして、英雄もその惨劇に巻き込まれる。

 結果は語るまでもない。


 生き埋め。

 それがこの光景の正体だ。




「――生きてるか?」

「なんとか、だがな……」

 息も絶え絶えに、英雄たちはお互いの生存を確かめ合う。

 

 彼方の策。

 それは周辺を破壊して怪物を物理的に埋めてしまうというものだった。


 怪物以外への攻撃には対応できないからこそ、周辺を攻撃して最大限の結果を出す。

 その理屈上ならば、確かにこれは最適解と言えるだろう。


 だが、どう言葉を取り繕うともこれは自爆特攻以外の何物でもない。

 それしかないからこそ取った手段なのだろうが、こんな手を思いつく彼方に玻璃は心からの畏怖を感じてしまう。


 そして、そんな手に乗ってしまった自分にも。

 英雄としては合格でも、人としてはどうなのかという思いが玻璃の心を掠めていた。


「……行くぞ。リーリエとエクレールに合流しなければ」

 だが、今そのようなことを考えるべきではない。

 違和感に近い感情は心の奥底にしまいこみ、“英雄”としての義務を果たすべく玻璃はその足を動かした。

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