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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
侵攻戦開始
41/91

無敵の怪物

 吹き荒れる風が全てを引き裂く。

 読心への対抗策として玻璃が繰り出した方法は、どこまでも単純な力押しだった。


 読まれていようと関係のない一撃を叩き込む。

 ああそれは確かに、一種の必勝策ではあるのだろう。

 ただし成立すれば、の話であるが。


「はッ!」

 狙うは一刀両断。

 剣閃は大気の力を借り受け、その威力を幾重にも増幅。

 作り出された真空の刃が、怪物の体を両断するべく舞い踊る。


「ッ!」

 しかし、当然のようにその刃は空気を切り裂くだけだ。

 生理的嫌悪感を伴う動きで怪物は刃を回避し続ける。


 これが読心。

 どのような攻撃であれ、来るのがわかっていれば回避は容易いと嘲笑うかのように怪物は周囲を跳ね回る。


「――ふッ」

 だが、その移動先にはもう一人の英雄が待ち構えていた。

 彼方は両手に込めた魔力を部分的に解放し、変則的な加速装置として利用。

 

「至近距離なら!」

 軋む筋肉と引き換えに手にした瞬間速度。

 その一撃は過去最高の威力を伴い怪物の腹部へと迫る。


「――チィッ!」

 しかしそれでも、目の前の怪物に触れることは叶わない。

 ベキリと音を立てて捻じ曲がった怪物の胴体を、彼方の拳は捉えられない。


「ギ、アアアアアア!」

 そして怪物はその腕を振り回し英雄へと襲いかかる。

 四本の腕は、その一本一本が別々の生き物であるかのようにバラバラの軌道を描いている。


「やはり、直接の攻撃は意味をなさないか……」

「さて、どうする……」

 英雄は攻撃をなんとか回避しながら思考する。

 この状況の突破法を。

 この事態の解決法を。

 この怪物の攻略法を。


「運良く当たってくれるのが一番楽なんだがなぁ」

 偶発的な一撃は予知できないと仮定している以上、それが最も無難な手ではあるだろう。

 怪物本体を狙った攻撃は全て回避されるのだから、必然的に攻撃の対象は怪物以外とせざるを得ない。 

 だが問題は、それが最も無難でありながら最も不確実な手段であることだ。


 たまたま、偶然。

 そんな存在するかもわからないもしもを待ち続けて戦うなど、心理的にも実行はし難いだろう。


「かといって、範囲攻撃も現実的とは言えん。あの怪物は確かに強くはないが、かといって弱いわけではないのだから」

 そう、この怪物のもう一つ厄介なところは知能があるということだ。

 

 己の頭で思考し戦うという動きは、星喰獣には存在しなかった。

 目に浮かぶのはかつて戦った軍服の男。

 もしこの怪物の出自があの男と同じであるのなら、それは英雄にとって芳しくない状態といえる。


 そう、この怪物は決して“強くはない”

 ただ単純に、英雄の力で滅ぼすことができないだけなのだ。


 まさに無敵。

 敵がいないという意味の、極めて特異な不死再現。


 彼方は額の汗を拭い、戦闘と並列して思考を重ね続ける。

 必ず突破口はあるはずだと、その一点に全てを託して。

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