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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
侵攻戦開始
40/91

英雄譚は泥臭く

「魔法、だと……?!」

 驚愕の表情を浮かべる玻璃だが、しかし道理は通っている。


 根拠はなにもない。

 しかし、あの怪物が読心の魔法を所有していると仮定するならば全ての疑問は解消されるのだ。


「だが、なぜ!」

 そして生まれる新たな疑問。

 どうして星喰獣と共にいる怪物が魔法を所有しているのか。


「知るかよ、そんなこと」

「――は?」

 だが、そんな疑問を彼方は知らぬと跳ね除ける。


「わかったのは、あいつが魔法を使うってこと。なら次に考えるべきは魔法の対策だろう」

 厄介な魔法だよ、あれは。


 そう言った彼方は既に、その思考を魔法への対策へ向けて動かしていた。

 なぜ、どうしてといった思いは完全に切り離している。


「言うまでもなく、読心なんて能力は本来ならばどうしようもない。こちらの取るべき行動が全て先読みされているのなら、完全な必敗だ」

 だが違う。

 絶望的な推論を立てながらも、彼方に見えているのは一筋の希望に他ならなかった。


「あの怪物の魔法には、穴がある」

「ああ。もしも完全な読心能力であるのならば、奴への対抗手段は存在しないはずだ」

 現状を見ろと、彼方は目の前の怪物を見据えた。


 無敵の魔法を持つはずの怪物は、穴の底で小さく呻いている。


「さっきの一撃と、今も飛び交っている砲撃。この二つが奴に通っているのが証拠だ」

 ならば後は思考のパズルだ。

 通用した攻撃と、そうでない攻撃。

 その共通点、相違点を照らし合わせれば、自然と見えてくる。


「――奴を狙わない攻撃。それだけはあの怪物にも読めないと見た」

 それが結論。

 ようやく見えた、一筋の希望だ。


「自身に向けられた殺気、のようなものを読んでいるのかもしれない。あるいは……」

「悪いが、時間切れだ」

 思考を重ねようとした玻璃だが、彼方の声でその考えは中断される。


 気づけば二人は穴の底に到着していた。

 怪物は低い唸り声を上げながら、目の前の英雄を注視している。


 円形に空いた穴はまるで小規模な闘技場だ。

 二人の英雄が怪物に立ち向かう様は、一昔前の英雄譚を彷彿とさせる。


「さて、座学は終わり。ここからは実践の時間だ」

「……やれるのか?」

 魔法の正体は判明し、その対策も見つかった。

 だが、それで勝てるかどうかは別問題だ。


 驚異的な読心能力は未だ健在。

 それを除いたとしても、怪物の機動性は圧倒的だ。


「やるんだよ」

 だが、彼方はキッパリと言い放つ。

 できるかどうかじゃない、やるのだと。


「玻璃。お前は相手が圧倒的なら諦めるのか? 絶対に勝てない怪物が相手なら、世界を捨てて逃げるのか? 違うよな。お前は英雄の中で誰よりも、そんな臆病とは縁遠い筈だ」

 そう言って、彼方は両の拳に魔力を込めた。

 全てを打ち抜く魔の拳を纏い、ただ戦うことに意識を集中させる。 


「それ、は。……そうか。そうだ、そうだったな」

 そうだ、その通りだ。

 玻璃という男は、誰よりも英雄然とした男なのだ。

 

 なにを怯えていたのだと、玻璃は小さく笑った。

 

 なにも言わず、玻璃は剣を構える。

 飾り一つ付いていない無骨な剣を中心に、風が渦巻く。


 それを合図として、戦闘は幕を開ける。

 二人の英雄が、怪物を退治する英雄譚が。

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