表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
異世界への招待状
4/91

序章 運命の出会い

 夢に沈んでいた彼方の意識は、コツコツと響く足音によって覚醒する。

 いつの間にか眠っていたのかと、彼方はぼんやりした頭を目覚めさせた。


「眼を覚ましたんですね、よかった」

 声が響く。

 それは初めて耳にする、優しい声。


 彼方の眠っていたベッドの傍に、一人の少女が立っていた。

 彼方が、先程出合ったゴシック女とは正反対だなと初対面で感じるような存在だ。


 腰まで伸ばされた金色の髪は高価な絹糸のよう。

 白を貴重とした服装は清潔感を強調しており、清廉な印象を周囲に振りまいている。

 髪と同じ金色に光る穏やかな目が、彼方をじっと見据えていた。


 可愛いや美しいよりは、綺麗といった言葉が似合う少女だった。

 

「とても心配していたんです。ずっと眼を覚まさないから、もしかしたらと思って」

 その顔色も声色も、嘘というものが微塵も含まれていない。

 それはよっぽどの演技力か、それともただ純粋なだけなのか。


 おそらくは後者だろうと彼方は結論づける。

 根拠はないが、そうであってほしいと感じるほどに少女は清らかな存在だった。


「……えっと」

「ああ、ごめんなさい。あなたからすればいきなりの事で事態が飲み込めていないのですよね」


 そう言って頭を下げる少女。

 だが彼方は言葉に詰まってしまい、うまく口を動かすことが出来ないでいた。



 なにせ、聞きたいことが多過ぎる。



 見知らぬ部屋。

 見知らぬ人間。

 見知らぬ服装。

 見知らぬ翻訳装置。

 エトセトラエトセトラ。


 それらがなに一つとして、今の彼方には分かっていないのだから。


「ええと、なにから話せば……」

 そして、混乱は伝染した。

 少女も、目の前の男になにも話せばいいのだろうと考え込んでしまっている。


 数秒か数分か。

 主観では永遠に近い無言の間が、白い部屋を覆っていく。


 そして、その沈黙を始めに破ったのは少女だった。

 まずは一つ一つ解決する方針に決めたのだろう。己の胸に手を当てながら、少女は口を開く。

 

「まずは自己紹介にしましょう。わたしはリーリエ、あなたのお名前は?」

 突然名乗られるとは思っていなかった彼方は、会話の主導権を完全に相手へ明け渡す形となった。


「今宮、彼方、です」

 なんとかそう返すのが精一杯。

 戸惑いと混乱に動揺を混ぜ合わせた声が彼方の喉から漏れ出ている。


「はい、カナタさんですね」

「あぁ、さんはいらない」

「では、カナタ。そちらから聞きたいことを好きなだけどうぞ、出来る限りは答えようと思っています」


 戸惑いと混乱により、どこかたどたどしい二人の会話。

 だがこの場には当事者の二人しか存在しない。

 混乱も戸惑いも、この二人にとってはさほど重要な事ではなかった。



 そしてようやく、彼方はこの世界の事を知る権利を得る。

 物語の序章、それも最初の一ページ目がようやく開かれるのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ