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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
侵攻戦開始
39/91

魔の力

「――ッ、やりにくい!」

 玻璃が剣を振るうも、その剣閃は空を切る。

 怪物の動きが突如変化し、飛び跳ねるように真横へと回避したのだ。


 怪物は複雑怪奇に動き回り、英雄たちを惑わせている。

 二人の人体を一度ばらして再度繋げ合わせたような肉体が、メキメキと音を立てて予測不能な動きを繰り返していた。


 なまじ人に近いパーツで構成されているだけに、どうしても反応が一歩遅れてしまう。

 先入観が邪魔をして、知識が妨害する。

 人体はそんな方向には動かないという経験が、枷となって英雄を阻害する。


「なんとか突破口を見つけ出せ! こちらもそう長くは持たない!」

 エクレールとリーリエが周囲の星喰獣を押しとどめていることで、玻璃と彼方は目の前の怪物のみに集中して対峙することができている。

 だが、このまま時間を無為に消費していては戦線の崩壊は避けられないだろう。


「ッ……!」

 だが、どうしても捉えられない。

 拳も刃も空を切り、目の前の怪物に傷一つ付けることができていない。


 玻璃も彼方も、決して能力で劣るというわけではないのだ。

 玻璃の剣は英雄の中でも最上位の腕であり、その刃は鉄も鋼も苦にせず切り裂くだろう。

 彼方の拳は不可避の拳であり、直感による回避と反撃はもはや予知のレベルに達している。


 なのに、目の前の怪物にはどうしても当たらない。

 先制、反撃、奇襲に連撃。

 その全てが回避され、英雄は無為に体力を消耗する。


「どうなってんだ……!」

 額の汗を拭い、彼方は呼吸を整える。

 怪物が繰り出す未知の動きにも、流石に慣れてきた。

 違和感の修正は既に完了している。


 ならば、どうして当たらない?

 そこには必ず理由が存在するはずだと、彼方は攻撃を回避しながら思考する。


「――チィッ!」

 しかし、思考を妨害するように攻撃は繰り出される。

 更に友軍の支援砲撃が今も周囲で爆発を繰り返しているのだ、とても落ち着いて考えられるような状況ではない。


 支援砲撃は敵味方問わずその猛威を振るう。

 玻璃、彼方、リーリエ、エクレール、星喰獣、怪物。

 その全てに平等に降り注ぎ、対応を迫っている。


「――ちょっと待て」

 そこで、彼方は違和感を覚えた。

 そうだ、当たらないのは彼方や玻璃の攻撃だけだ。

 目の前の怪物に、砲撃は何度か命中している。


 無論、ただの牽制程度の威力でしかなく傷一つ付けることはできていない。

 だが、確かにそれは命中という結果を残している。


「違いは、なんだ。俺たちの攻撃と、あの砲撃の違い」

 呟くように、彼方は思考を声に出して考えを纏めようとする。

 ようやく見えたその違和感が、突破口になると信じて。


「玻璃、少しでいい。時間を稼いでくれないか」

「……光明が見えたか」

 ならば良し。

 玻璃は剣を構えると、彼方を背に怪物を見据える。


「二分が限界だぞ」

「ああ、十全過ぎる」

 薄く笑い、玻璃は怪物の元へと駆け出した。


 彼方は目の前の光景を見ながら、思考を再開する。

 怪物の回避には、なにかカラクリがあるはずだ。

 

「先入観を捨てろ、全ての可能性を思考しろ……」

 ありえないという考えを捨て、浮かび上がる可能性を全て拾い上げる。

 

 三十秒経過。

 玻璃は五連の剣撃を放つも、その全てを回避される。


「違う、違う、違う、違う……」

 一つ一つ考えを切り捨て、新たな可能性を模索する。

 荒れ狂う脳内を纏め上げ、あるはずの真理を探し続ける。

 

 一分経過。

 星喰獣を押さえ込んでいるリーリエのくぐもった呻き声が聞こえる。

 あちらもそう長くはもたないだろう、一刻も早くと焦る気持ちを必死に押さえ込む。


「――まさか」

 一分四十五秒経過。

 そして思い至る一つの可能性。


「ありえない、いや、これしか――」

 だが、その可能性は少なからず彼方の心を揺さぶった。

 もしも、この仮説が正しいと言うのなら。

 それは、不正解よりも悲劇を呼ぶ正解ではないのかと。

 

「……ッ!」

 意を決して、彼方は目の前の怪物へと走り出す。

 拳に魔力を込め、圧縮した魔力を一気に解き放つ。


「答え合わせといこうじゃないか!」

 それは、かつて輪廻が使用した技の応用だ。

 狙うべきは怪物本体ではなく、その足元。


 地面を全力で殴りつけ、大地を爆散させる一撃。

 これこそが彼方の答え合わせ。


「何を――?!」

 玻璃の感じた動揺は、目の前の光景に塗り潰される。

 爆散した大地にできた広大な落とし穴。

 怪物はその落とし穴へと、吸い込まれるように落ちていったのだ。


「くそ、正解かよ……!」

 なぜか悔しがった彼方が、追撃のために穴へと落ちていく。

 慌てて玻璃も、その後を追った。



「聞かせてもらうぞ、なにがあった」

 落ち続ける中で、玻璃は彼方へと問いかける。


「――あの怪物は、俺たちの心を読んでいたんだよ」

 覚悟はしていた。

 どのような答えでも、動揺だけはすまいと。


「読心?! いや、だが」

 そう、それならば納得がいく。

 英雄の攻撃は全て、思考を読んで回避されていたのだとすれば。


「そしてあの不気味な動きが、全回避なんて芸当を可能にしていたんだ」

 人体どころか生物としての限界を超越した回避軌道。

 どのような攻撃が来るかわかってさえいれば、回避できない攻撃は存在しない。


 それがあの怪物の真骨頂。

 異形の外見に隠れた、地味だが絶対的な優位性。


「しかし、ならばその力はいったい――」

「あるじゃないか。荒唐無稽な能力なんて、こちらにも」

 彼方の拳にも、玻璃の剣にも宿っている。

 常識を超えた非常識の力。


「魔法――」

「そうだ、あの怪物は魔法を使用している」

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