怪物退治
砲弾の雨が降り注ぐ。
星喰獣の群れへ向けて放たれるそれは、大地を吹き飛ばし大量の土煙を周囲にばら撒いていた。
無論、それだけで星喰獣を倒せるわけではない。
だがその動きを制限し、乱すことは可能だ。
統率された隊列に乱れが生じれば、後は簡単だ。
正面から星喰獣を迎え撃ち、撃滅する。
悠々と目標地点である群れの中心へ歩みを進める英雄たち。
その足取りは、降り注ぐ砲弾を意にも介していない。
いや、意識はしているが、それを障害としていないのだ。
あくまでもこれは支援砲撃なのだと、その歩みが逆説的に証明していた。
「砲撃は緩めるなよ。一瞬でも弱まれば、星喰獣は自由になる」
『し、しかし――』
「……やれと、言っている」
『――り、了解!』
戸惑いの混じる通信をエクレールが切ると同時、降り注ぐ砲弾の数が倍加した。
「aaaaaaaaaa!」
輪唱のように、星喰獣の叫び声が戦場に響く。
致命傷こそ負わないものの、その砲撃はきちんと支援の結果を出していた。
「時間がない、正面突破だ」
「――エクレール?」
いつも通りの冷たい声で紡がれた命令に挟まる声が一つ。
「どうした?」
「……なにを、焦っているの」
焦っている。
その言葉に反応して、エクレールの眉がぴくりと動く。
この場で気づいたのはリーリエただ一人だっただろう。
彼方も、玻璃も、その変化には気づいていなかった。
エクレール自身すら、自覚していなかった焦り。
リーリエはそれを指摘する。
「あなたが冷静でいなければ、この部隊は容易に瓦解する。お願い、落ち着いて」
途切れ途切れに、しかしはっきりとした声がエクレールに伝えられる。
要はエクレールなのだと。
その要を失えば、待っているのは全滅でしかないのだと。
「……私は」
そう呟き、エクレールは足を止める。
玻璃も彼方も、同じように足を止めた。
二人の英雄はただ黙ってその光景を見つめている。
己の役目ではないと、見守る役目に徹していた。
「A、aaaaaaaaaa!」
砲弾の雨を掻い潜った一体の星喰獣が、こちらへと向かってくる。
正面に捉えたエクレールを狙い、その爪を振るう。
「ああ、煩い」
だが、その爪はエクレールを切り裂くことなく見当違いの方向へと飛んでいく。
振り下ろしたはずの爪は、その全てが綺麗に粉砕されていた。
「急ぐぞ、時間はない」
特別な力ではない、圧縮した魔力による純粋な一撃。
極めて雑で、大味な一撃だがその威力は目の前の光景が証明している。
「時間が、ない?」
オウム返しのように、リーリエの口が動く。
その言葉の真意を聞き出すため、小走りでエクレールの後を追った。
数瞬ごとに、移動速度は上がっていく。
先頭のエクレールへ置いていかれないよう、リーリエたちも足を動かしている。
「特別、確証があるわけではない」
前へと進みながら、エクレールは己の感じたままを言葉にする。
「だが、予感がするのだ。あの軍服の男と出会ったときのような、不吉な予感が」
その言葉を切っ掛けに、四人の脳内に当時の光景が浮かび上がる。
軍服の男。
詳細は一切不明のまま消えた、謎の存在。
ああ、そうだ。
誰だって、今回の件と無関係であるなどと思っているはずがない。
残ったままの謎も解決に向かうかもしれない。
そういった希望がないといえば嘘になる。
だが、それを上回る嫌な予感がどうしても拭えない。
なにか致命的な問題が発生するのではないかという、根拠のない不安が広がっていく。
そして、時間は残酷だ。
そんな考えに時間を使っていると、いつの間にか四人は群れの中心に到着していた。
周囲を星喰獣に囲まれた、絶体絶命の状態。
しかし、四人の視線は星喰獣には一片たりとも注がれてはいなかった。
八の瞳が捉えるのは、目の前の影。
今は土煙に覆われた影が、徐々にその姿を鮮明に映し出していく。
「鬼が出るか、蛇が出るか……と思っていたが、鬼で済めばまだマシだったか――」
彼方の口から思わず漏れた言葉が、その光景の惨状を物語っている。
目の前のそれは、星喰獣ではなかった。
無論、人でも、動物でもなかった。
四つの腕。
四つの足。
二つの頭。
くしゃくしゃに折れ曲がった間接。
バキバキと音を立てながら動く、異形の怪物。
それが謎の影の正体だ。
「――ガ、ガガガガガァ」
限りなく不協和音に近い声を上げ、その怪物は動いている。
一歩足を踏み出すたびに、全身の間接が捻じ曲がり異音を出す。
「なんだ、これは――?」
恐怖よりも、まず先に湧き出るのは純粋な疑問。
無数に増え続ける謎に、四人の思考は完全に静止した。
「――構えろォ!」
「――ッ!」
咄嗟の声と同時に、怪物が跳ね上がる。
回避を選択した彼方を掠めるように、怪物の腕が飛来した。
「敵だ、倒すぞ!」
あまりにも簡潔な一言。
だが、ひとまずはその言葉に従うほかない。
謎が謎を呼ぶ謎の戦いが、今開始する。




