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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
侵攻戦開始
37/91

第二の決戦は間近に迫る

 それは、突然の報告から始まった。

 

 西部の巣へ突入する準備は、今日までは順調に進んでいた。

 あと三日で準備は完了し、彼方たちは再度巣の内部へ侵攻を開始する予定だった。


「巣内部から、未知の存在がこちらに向かってきています!」

 その報告が、全ての予定を無に変えたのだ。


「――状況を報告しろ!」

「――落ち着け、見たままを話せ!」

「――――!」

「――――――――!」

 星喰獣とは違う存在が巣から出てきたいう報告は、相当な動揺を人類に与えた。

 訓練された軍人が慌てふためく姿など、早々見る機会はないだろう。


「静まれぇ!」

 だからこそ、その動揺を瞬時に収めてみせたエクレールには将の才が備わっていると言えた。

 一喝だけで、全ての兵が普段の落ち着きを取り戻したのだ。


「まずは状況を報告しろ。どんな小さなことでも全てだ」

「は、はっ!」


 そして集まる雑多な情報を即座に整理、分析。

 錯綜するだけだったはずの情報は僅か数分で整然としたものへと変化した。


 

「巣から現れた謎の影か――」

 報告内容の中心は、謎の影と呼称される存在だ。

 巣から現れた星喰獣の中に紛れるように、その影は移動している。


 詳細は不明。

 目視による確認、魔道具による分析、共に正体不明の妨害により断念。

 星喰獣と共にいることから、敵である可能性が大。

 それ以外の情報は皆無に等しい。


「いくら正確な情報とはいえ、これでは……」

 その報告内容は、要はなにもわからないと伝えているのだ。

 エクレールが頭を抱えるのも無理はない。


「無駄な死線を潜るのは嫌いなんだが……」

 呟く声には、心から嫌がるような思いが込められている。


 策も相手の情報も存在しない無策特攻。

 そんなものに命を懸けて喜べるほど、エクレールは破綻した人間ではなかった。


 しかし、こうして悩んでいても事態は悪化するだけだ。

 勝つためには、動かなければならない。




「なんだ、遅かったな」

 そうして外に出たエクレールを待ち構えていたのは、既に出発の準備を終わらせた彼方だった。


「出るんだろ?」

 その横には、決意を固めた表情のリーリエが立っている。

 少なくとも表面上は平静な様子の彼方とは違い、その顔は緊張で強張っていた。


「話が早いのは助かるが……」

 どうして、出撃を予測できたのだとエクレールは問う。

 たった今思い立ったのに、既に準備が終わっているなど話が早いどころではない。


「敵が出た。なら俺は出る」

 それだけだと、彼方は話す。

 気楽に、気軽に。

 まるで近場を散歩するかのような感覚で、この男は戦場に立つことができているのだ。


「ああ、頼もしいな」

 皮肉交じりに、エクレールはそう返す。

 その意識のあり方を恐ろしく思いながらも、味方であるのならば利点の方が多いのだから問題はないのだと強引に自分を納得させる。


「玻璃には使いを出した。直に到着するだろう」

 それを合図に出発する。

 エクレールはそう告げて、己の準備を整えるために歩き出した。



 いくつかの引継ぎを終わらせながら、エクレールはふと思考する。

 今宮彼方という男の、異常性について。


 彼は、命を捨てることに躊躇いがない。

 綱渡りのような命のやり取りを平気で行いながら、常人を自称している。


 事実、人としての常識も兼ね備えているのだからたちが悪い。

 痛いのは嫌、辛いのは嫌い。

 平穏を望み、世界平和を目指して努力する。

 

 人としての善性を備えながら、そのあり方は人という枠を盛大に越えているのだ。

 

 痛いのは嫌だが、我慢できる。

 辛いのは嫌いだが、死ぬよりはいい。

 そんな価値観も、言葉にすれば一般的だろう。


 だが、彼方にとっての感覚は違う。


 全身を切り刻まれるのは嫌だが、我慢できる。

 戦地に立つのは嫌いだが、死ぬよりはいい。

 それが、彼方の持つ境界線だ。


 ああ確かに、それは数値で見ればそうだろう。

 誰だって、優先順位で見れば死ぬのが一番嫌だ。

 死ぬか、死ぬほど辛い目にあうかなら、後者を選ぶ。


 だが、それを即座に選択できる人間は、はたして人間と呼べるのだろうか?

 悩みも後悔もなく、そのほうがいいと即決するのは常人には不可能だろう。


 理解ができない。

 エクレールには、その異常性を人として認めることがどうしてもできなかった。



「……今は、考えるな」

 そうだ、こんなことは些事にすぎないとエクレールは思考を断ち切った。


 今はただ、目の前の危機に対処するのだ。

 星喰獣を滅ぼし、平和になった後に考えたところでなにも遅くはない。


 それがいったいいつになるのかという疑問からは目を逸らし、エクレールは戦地へと歩き出す。

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