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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
異世界戦争
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十三の英雄

 普段は敬虔な信者が祈りを捧げる場であるはずの、ミズガルズ礼拝堂。

 だが今日だけは民間人の全面的な立ち入り禁止が言い渡された。

 理由が理由だけに誰一人として異論を挟む者はおらず、その代わりに教会へ向けて祈りを捧げる国民が国内のいたるところに存在していた。


 礼拝堂内部では、通常ではありえない光景が広がっている。

 軍服に身を包んだ兵士たちが一列に整列し、目の前に立つ戦士を見据えた。

 その目に宿る色は千差万別だが、大別すれば二種類だ。

 すなわち、喜びと悲しみである。


 そして戦士たちは決意を支えに立っている。

 それは戦う覚悟を決めた英雄、十二名。

 一切の音を立てないその姿は、まるで駆け出しの新兵のようだった。


 星喰獣の新情報を受け取って三日が経過。

 偵察隊の働きに応えるため、本国では大規模作戦の立案が行われた。


 作戦名、『最終決戦』。


 義務は皆無、参加は自由。

 この礼拝堂に入って来た者は、自由意志によって戦うことを選択したのだ。 


「傾注!」

 皆が祈りを捧げる為に跪く地点に仁王立ちする一人の女性。

 部隊長でもあるエクレールは、その場の全員から注がれる視線を受け止める。


「今この場にいるということは、戦う覚悟を決めたとみなしてよいのだな」

 問われた英雄たちは、ただ黙って立っている。

 その無言こそが答えだと、一切の乱れなく宣誓した。


「これより開始される作戦に、命の保障は無い。世界を救うか、我らが全滅するまで終わらない」

 それは、何度も繰り返された内容だ。

 確認を取るように。

 覚悟を問うように。


「参加は自由だ。意思の無い者を無理に連れ出すつもりはない。地獄を見学に行く覚悟のある者だけが、ここに残れ。繰り返す、これは強制ではない」

 今まで機械的に繰り返された設問。

 しかし、今だけはその言葉に感情が込められている。


「それでもいいというのなら、貴様らはたった今から軍の一員だ」

 歓迎しよう。

 エクレールはそう言うと、一度目を伏せる。

 再び開かれた瞳には、氷の意志が宿っていた。


「貴様らはこれより、“人的資源”として扱われる」

 冷徹な声が響く。


「軍は全力で資源を使い潰す。資源には死ぬ自由など存在しない」

 駒として、人形として。

 ただ効率的に戦争を終わらせるためだけの装置。

 軍が目指す最終点はそれだ。


「世界を救うという自己満足のみが、貴様らへの報酬となる」

 自分は先陣を切る。

 だから、追いかけてくるのなら覚悟を示せ。


「最後に問う。覚悟を決めた者から、一歩前に出ろ」

 一切の間を置かず、二つの足音が響く。


「愚問。そのための英雄ならば、迷う理由などありはしない」

 どこまでも実直に、男は義務のために決意する。


「世界には興味が無い。だけど、生きる為に取引をしているのよ」

 医者からの治療を受けるため、女は我欲で決意する。


 二人に続くように、まばらな足音が響く。

 義務のため、我欲のため、名誉のため、栄光のため、復讐のため、正義のため。


 理由は違えど、己のために。

 十二人の英雄は、一人残らず踏み出していた。


「……馬鹿者共が」

 エクレールがどのような表情だったのか、それは誰にもわからない。

 当の本人ですら、理解していなかったのだから。


「では、十二名の参加をここに認めよう」

「――いいや、十三人だ」

 入り口から、声が聞こえた。


 その声は、ミズガルズで最も有名な死神の声だ。

 全身を覆う包帯は未だに外されていない。

 右手に持った杖に体重を預けながら、満身創痍の肉体を隠しもせずに、一歩一歩近づいてくる。


 今宮彼方の復活。

 その現実は、十の英雄と二十五の軍人に大きな動揺を生む。

 冷静な心を保っていたのは、この場で僅か三名しか存在しなかった。


「悪い、説得に時間を食った」

「そんな状態で、参加を認めるとでも?」

 そして、エクレールはあくまでも冷酷だ。

 戦力という絶対的な価値観から、彼方の来訪に疑問を投げかける。


「今の貴様に、なにができる」

 エクレールの正しさは変わらない。

 相手が誰であれ、正しき暴力が敵を討つ。



「笑わせんな」

 だが、しかし。

 ぴくりとも笑わず、彼方はそう答えた。

 

「さっき言ってた通りだよ。存分に使い潰せばいい。それができないほど無能だなどと、言わせるつもりも毛頭無い」

 エクレールの本心(やさしさ)を知った上で、彼方は己を人質に交渉する。

 それはなにも変わらない、いつも通りの自傷行為だ。

 だが、エクレールはその変化を見届けていた。


「交渉は、終わっているのだな」

「ああ。確認してもらっても構わない」

 ならばよし。

 エクレールはそう言うと、彼方の持つ杖を奪い取る。

 それは文字通り、目にも止まらぬ早技だった。

 バランスを崩した彼方はそのまま後方に倒れこみ、天を仰ぎ見る。


「遺憾ながら歓迎しよう。十三人目の英雄よ」

 握られた杖の持ち手が、粉々に粉砕される。

 パラパラと、破片が枯葉のように降り注ぐ。



「改めて、十三の英雄諸君」

 エクレールは咳払いをすると、今一度周囲を見渡した。

 ざわついていた英雄たちも、次第に静寂を取り戻す。


「貴様らは替えのきかない貴重な資源だ、まずはそのことを理解せよ。そして、その資源を無為に消費することは大罪である」

 繰り返し説かれる、人として扱われないという前提理論。

 だが、その言葉の続きは先程までとは違うものだった。

 

「死ぬな、絶対に生きよ」

 その言葉を最後に、エクレールは口を閉じた。

 どこまでも優しい、本音を残して。

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