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彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
異世界戦争
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とある兵士の独白

 初めは、夢か幻覚でも見たのかと思った。

 目の前の光景を脳が現実と認識してくれない。

 ぼやけた視界は焦点がずれたカメラのように歪んでいる。


 周囲を見ると、皆も似た反応だ。

 視線が合うたびに、これが現実なのだという理解がじわじわと進んでいく。


 ぐちゃぐちゃになった思考が少しづつ回復していくのを感じる。

 そうだ、自分は偵察任務を請け負って……それで。


 いつも以上に警戒しての移動は普段の半分以下の速度で進んでいた。

 星喰獣に見つからないよう、最大限の備えを維持することが最優先。

 磨り減る精神をおどけた会話で修復しながら、なんとか己を保ってきた。


 だが、その結果がこれだ。

 もし目の前に神がいるのなら、真っ先に問いたかった。

 どうして、こんな仕打ちをするのですか。

 努力への見返りがこれならば、誰も善行など積まなくなるでしょうに。


 自分が祈りを捧げたのは神様にだ。

 決して、死神や悪魔にではない。


 視界が徐々に回復していく。

 ふらつく足がもつれ、無様に転倒する。

 鈍い痛みと共に、両の眼に眼前の光景が映し出された。



 それは、巣と表現するしかなかった。

 不可思議な積み木細工のような建造物は、人類のものとはかけ離れている。

 その形状に意味を見出すことはできないが、その機能ならば一目で理解できた。

 星喰獣の巣が、ミズガルズから北の果てに作られている。


 定期的に巣から現れる星喰獣。

 数は決して多いとはいえないものの、その光景は人類から希望を奪い去るには十分過ぎる。


 相手は繁殖していた。

 守っていればいつかは終わるという空論は、根本から間違っていたのだ。


「――夢、だよな?」

 誰かが、震える声でそう言った。

 それは事実確認というより、そうあってくれという希望を述べたものだった。


「だって、文献にはこんなの載っていなかった。過去の英雄は、ただ守り抜いたとしか。これが現実だっていうのなら、どうして……」

 言葉はどんどん支離滅裂になっていく。

 必死で現実から目を背けようとするのに、通信機から流れる報告がそれを許さない。


 聞こえてくる内容は耳を傾けるまでもなかった。

 同様の巣が、他の部隊からも発見されたのだ。


 そうだ、星喰獣はあらゆる方向から攻め込んできている。

 円を描くように防衛戦を張らなくてはいけない負荷には、戦争開始時から常に悩まされていた。

 だからその報告も、頭では既に予測できていたものでしかない。


 東西南北に最低でも四つの巣が存在する。

 それが、今回の調査で判明した事実だった。



 今回の偵察は大成功とも言っていいだろう。

 その戦果はすさまじく、無事に戻って報告を完了すれば我々には勲章の授与すらありうる。


 だがこの場の誰もが、喜びという感情からは程遠い。

 この世の終わりでも見たように。

 こんな真実なら、知りたくはなかったと心が悲鳴を上げている。


「――ひ、あ、あああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」

 だから、自分にはソレを否定も糾弾もできなかった。

 誰かが発狂して悲鳴を上げた。

 言葉にするならそれだけだ。


 そしてその悲鳴は、遠くの星喰獣にも聞こえるほどの大きさだった。

 巣から湧き出た星喰獣と、巣を守るように鎮座していた星喰獣。

 それら全てが、一直線にこちらへ向かってきた。


 その数は一目で数えることが不可能なほど。

 そして、惨劇が幕を開ける。



 そこからの記憶は、急激にぼやけている。

 我に返ったときには既に、ミズガルズへと帰ってきていたのだ。

 周りに人はいない。

 自分一人だけだった。


 ああ、報告をしなければ。

 ぼんやりとした頭でも、任務を忘れることはなかった。


 所定の手続きを済ませ、本部へと向かう。

 重い体を引きずるようにして、一歩一歩歩いていく。


 記憶が虫に食われたかのようだ。

 ハッとなると、全く別の場所を歩いている自分がいる。

 しばらく立ち止まって脳内を整理し、歩き出す。


 途切れる意識、ぶつ切りの記憶。

 数秒眠って数秒起きるような、不思議な感覚。

 気を抜くとそのまま眠りに落ちてしまいそうになる。

 ぐっと堪えて、歩き出す。


 


「――――よく、話してくれた」

 声が聞こえて、途切れていた意識が再生する。

 いつの間にか自分は椅子に座っていた。

 目の前には……誰だろう。

 視界がぼやけて、ゆらゆらと揺れている。

 声もノイズ交じりで、判別ができない。


「今はもう、休め。ゆっくりと目を閉じて」

 だけど、優しさに満ちた声だということは伝わった。

 言われたように目を閉じると、そのまま意識が遠のいていく。


 奇妙な幸福感に包まれながら、そのまま沈む感覚に身を任せた。

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