表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方で綴る英雄戦記  作者: セイラム
異世界への招待状
13/91

迫る刻限

 彼方が入退院を繰り返す間にも、物語は静かに進行していく。


 訓練内容も徐々に基礎から実践的なものへと変化してきている。

 一人、また一人と戦士は脱落し、残った者たちは自然と戦友として結束を強めてきた。


 その結果、今宮彼方は。


「……あれ?」

 当然の結果として、孤立していた。



 昼食を取る英雄たち。

 午後の訓練へ向けて栄養補給を行い、英雄同士で親交を深めている。

 

 彼方は病人用の栄養食をゆっくりと口に含む。

 大勢の人で席の奪い合いが発生しているにもかかわらず、彼方の周囲は人が近づきすらしていない。


「快適なのに、なにが不満なのよ」

「まあ、お前はそうだろうけどなぁ」

 数少ない、輪廻のような例外もいるが。

 彼方は確実に、英雄たちから腫れ物を触るような扱いを受けていた。


 十人は座れるだろう大きな机を利用しているのはたったの二人。

 空間に穴が開いたかのように、その周囲だけ人が避けるように進路を変えていく。


 それはただの恐怖とはまた違う感情だ。

 例えるなら、それは未知への恐怖。

 人間ではないなにかへ向けた、忌避の感情。


「俺はともかく、輪廻はいったいなにをやらかしたんだよ」

「別に。言いがかりをつけてきた馬鹿共を潰しただけ」

「馬鹿はお前だ、この馬鹿」


 潰したとは言葉通りの意味なのだろう。

 輪廻の魔法は戦闘向きではなかったはずだが、この女ならば不思議ではない。

 彼方は自分の現状を棚に上げて、冷ややかな目を輪廻に向ける。


「不可抗力とはいえ、やりすぎたかなぁ」

 そうぼやく彼方の脳裏に浮かぶのは、玻璃との決闘。

 お互いに様々なものを失った戦闘訓練は、英雄たちにある共通認識を抱かせる結果となった。


 それは恐怖。

 怖いものは避ける、それは人として当然の理屈である。


 誰だって怖いものには近づかない。

 生物の基本原理によって、彼方と輪廻は周囲から孤立していた。


 そんな二人に近づく例外は数少ない。

 リーリエやクリミアのような、そもそも恐怖の対象として見ていない者。

 あるいは、相当な変わり者。


「空いてるのはありがたいが、お前らもちったぁ自重しろよな……」

 たとえばこの声の主は後者である。

 返事も聞かずに昼食を机に下ろしたのは、相当な変わり者に分類される刹那だった。


「ちょっと待て、輪廻と俺を同類扱いするな」

「待ちなさい、この馬鹿と同類扱いするんじゃないわよ」

 声を揃えて講義する二人にも、刹那は一切対応を変えない。

 ちょっとした不良でも相手にするかのような気楽さで、二人へと愚痴をこぼす。


「……仲いいな、お前ら」

 ため息をついて、刹那は食事を再開する。

 二人が放つ殺意の視線もまるで意に介さない。


 そんな刹那も、周囲からは奇異の目で見られているのだが。

 当人はまるで気にしていないようで、淡々と食事を続けている。


「なんの用だ」

「理由が無きゃ隣で飯食っちゃ駄目なのか?」

 三人とも無言で食事を続けていたが、刹那の意図を読みきれないというように彼方が口を開く。

 なぜ、この状況で二人に近づいたのかを探る為に。


 だが、当の刹那は飄々とした態度を崩さない。

 それからは無言で、昼食を口に運ぶだけだった。



「星喰獣が発見された」

 食事を終えてようやく、刹那が本題に入る。

 そしてその言葉は、彼方と輪廻の意識を向けさせる程度の効果はあったようだ。


「とはいえ、発見されたのはここから遠く離れた場所だ。すぐに実践ってわけじゃない」

「……そうか」


 彼方の脳裏には、涙を流すリーリエの姿が鮮明に映っていた。

 なぜだかはわからないが、あの涙はもう見たくはないと心がざわついている。

 本人も無自覚なその決意は心の内に押し込められ、誰にも知られる事はない。


「……まあ、予想はしていたが。少しは焦るなり怯えるなりしろよ、面白くない」

 口を尖らせて抗議する刹那だが、そんな刹那を二人は意にも介さない。

 

 戦う覚悟の決まっている英雄は稀だ。

 訓練だけで実戦経験の無い素人が、命を掛けた場所に立ったところでなにができるのか。


 そんな当然のはずの心配は、少なくともこの二人には当てはまらないようだ。

 淡々と食事を終えると、二人揃って席を立つ。


「あ、おい――」

「悪い、これから検診だ」

「同じく」


 そう言って早足で歩き出す二人を、刹那は呆然と見つめていた。

 戦地に立ったところで、あの二人はなにも変わらないのだろう。


「……俺は、震えるほどに怖いんだがなぁ」

 そうだ、時崎刹那は怖くてたまらない。

 頭では理解していたつもりでも、死ぬかもしれないという現実がどこまでも心を締め付ける。


 きっと、自分のような考えが多数派で、奴らのような例外が少数派なのだろう。

 いかに奴らが正しく、強かったとして。


「――怖いよ」

 命を失うのが怖い。

 奴らの精神性が怖い。

 それでも奴らから目を離せない、自分の心が怖い。



 どちらが正しく、どちらが間違いなのか。

 その正解が現れる日は、そう遠くは無いだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ